時を遡り、世界の理に逆らうとしても
我ながら、とても充実した人生だったと思える。
ある日、世界は魔王と呼ばれる災厄の化身との全面戦争となった。人智を超えた魔獣と呼ばれる存在、それを従える魔王と人間との全面戦争。
それは、十年にも及んでいる。私は三年前からその魔獣と戦い始めた。
青春を己の練磨に捧げた。才能があったから、周りの子供よりも抜きん出て強かった私は一人、魔獣と戦った。戦い続けて、守り続けた。
勇者と呼ばれるようになり、弟子もできた。まだ十歳の、元気が溢れている男の子。私が魔獣達の群れから助けた、天涯孤独の男の子。
彼に私の技を教え、経験を教え、人懐っこい弟子に私は充実感を感じた。
私の人生は、満たされている。
そう、後悔なんてない。
「終わりか、勇者よ」
今ここで、魔王に殺されるのだとしても。
私は、確かに人一倍強かった。故に、勇者と呼ばれ、剣を手にし、戦った。しかし魔王は強く、歯が立たなかった。
剣は折れ、視界は赤に染まり、膝を付き魔王を見上げるしかない。
私と戦い始めてなお、玉座から降りない魔王の魔法のような攻撃は、私にはどうする事もできなかった。
けど、いい。
いいんだ。
「ふっ……ははは。終わり、か。そう思うか、魔王」
「何だと……?」
「私がここで果てようと、人は終わらん! 私の意思は未来へと引き継がれる! 次に貴様の元へと辿り着いた人間こそが、お前を倒す!!」
そう、私の役目はここで終わりだ。
だから、後は頼んだぞ。我が弟子よ。
「……くだらん。死ねッ!」
暗黒の波動が魔王から放たれ、視界を埋める。
あぁ。私に悔いはない。ここで果てようと、後悔はない。
だけど。一つだけ、願うとするのなら。
私の形見となるであろう指輪を、約束と共に送った弟子を。立派に育ち、私を超えるであろう弟子の姿を、この目で見たかった――
――やらせねぇよ――
声が、聞こえた。
同時に、迫ってきていた圧は消え去った。
「魔王。例えお前が相手なのだとしても、俺はそれを認めない。この人は、殺させない」
聞こえたのは、男の声だった。
目を開ければ、そこには男が居た。剣を手にし、魔王と全く同じ。だが、ボロボロになったマントを羽織り、どこかで見た事のある指輪を、首からネックレスとして吊るす男が。
「幾年の時を遡り、世界の理に逆らう事だとしても、この人だけは殺させねぇ! 俺の、唯一の師匠だけは!!」
あぁ、そうか。
お前は、倒したのだな。
未来で、あの災厄の化身を。我が、弟子よ。