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短編#7

#3、5の関連

ここは聖教国の中心にある、大聖堂。その会議に使われる場所である。

「今こそ! 我らの力を示すべきです! 聖騎士の存在意義を!」

声高々と熱弁するのは教会聖騎士団団長、ストリムだ。

「……巫山戯た事を言うな。分かってるだろう? 魔族の脅威を……。タダビトでは太刀打ちできやせんのだ……」

それに異論を述べたのは聖教会大司教、ダブクスルト。聖教会の幹部の一人だ。

「我々も女神の寵愛があります。勇者や聖女と同じくする魔力です」

確かにそうだ。聖騎士達は修練により、女神の魔力を帯びている。

「そうだな。とても微弱な上に自力では扱えぬ程度には帯びてはいる。だが、その程度だ」

問題はそこだ。それは静電気の如くほのかに帯びているだけなのだ。いわば、魔族から滲み出る瘴気から身を守る程度。それだけだった。

だが、ストリムは引き下がらない。信者が、いやそれだけじゃない。人類が魔族の脅威に怯えているのだ。こんな時に立ち向かわなくては何の為に聖騎士はいるのだ、とストリムは考えている。

「仰る通りです。ですが、我々は数がいます。一人で駄目なら二人、三人で戦います」

「その為に何人死ぬ……! 何人の聖騎士が死ぬのだ! 聖騎士が減ればそれだけ民を守る戦力が減るのだぞ! 現状守るだけでも戦力が足りないというのにどこに攻勢に打って出る戦力が余っている! 当代最強と謳われた『言霊の勇者』も倒され、新しい聖女も殺されたんだぞ! 敵うわけがなかろう!」

「ぐっ……!」

それを言われると怯まざるを得ない。歴然とした事実だからだ。だがしかし、守るだけではジリ貧なのも事実。現状を変えなければならないのは変わらない。

「確かに少しずつ押されている……。しかし、我らには聖女と勇者に頼るしかないのだ……。それが……、宿命だ。魔族を倒す術が無い我らに残された出来る事はただ一心に祈る事だけだ……」

「全て、聖女に押し付けるのですか! 全て勇者に押し付けるのですか! 我らは自分達より幼い者に守られるだけの脆弱な存在なのですか! 全て押し付けたから何も状況が変わらないのではないのですか……!」

「そんな事は分かっている! ならば誰が民を守る! 我らに出来るのは聖域を維持する事だけだ! 世界中にいる民から魔族の恐怖を除けるのは聖騎士だけなのだぞ! そんな聖騎士の数が減ってもみろ! 民は怯える! 更なる恐怖に震えるのだぞ! 勇者と聖女が安心して戦える状況を作るのが教会の役割だ! 魔王を倒す事ではない……!」

議論はいつも平行線だった。誰も口を挟まないのはこの二人が言っている事がこの場にいる者たちの総意でもあるからだ。

魔族殲滅派と現状維持派。教会は今二つに分かれている。

どちらも理があるからこそ纏まらない。一つになれない。そこに隙が生まれる事は分かっている。しかし、どちらも相手を説得したいのだ。だって、どちらも正しいのだから。

そうやっていつも同じ、意味のない議論を繰り返す。だから気づけない。身に迫る脅威に。

今、正教国に『絶望』が迫っていた。


「ママ? パパ?」

子供が荒廃した街を彷徨っている。火の手すら起こらないほどに崩壊した街に一人でいる。

何故か。理由は一つ。大聖堂跡地に陣取っているそれ、『絶望』の存在を見れば明らかだろう。

子供は彷徨う。そして、魔族に見つかった。

「ひッ!?」

あまりの恐怖にへたり込んでしまう。

「ひひひ」

構わない。そんな事は構わない。今の魔族は気分がいい。

「立てよ」

「……」

「逃げろよ」

追いかけっこを演じてやってもいいと思えるほどには気分が良かった。

子供は咄嗟に立ち上がり、反対に駆け出す。

魔族は手元で30数えて、次の瞬間捕まえた。

「ぎゃはははは!」

力が湧く。強大な魔王の存在のお陰だ。

体が軽い。聖職者共の聖域が壊れたからだ。

「助けて……。ママ……。パp」

子供を裂いて臓腑を啜る。血がボタボタと地面を濡らす。

着実に破滅の時は近づいていた。

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