表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

短編#5

#3の関連

「聖女様。ここは私にお任せください」

そう言って老騎士は刃を煌めかせる。

「アルフォンス、あなた、おりょうりできるの?」

ピタリと動きを止めた老騎士、アルフォンス。

「私にお任せあれ、聖女様……」

アルフォンスはかつてドラゴンに挑んだ時より気迫に満ちていた。

聖女御付きの騎士として、醜態は晒せない。その気合いがアルフォンスを突き動かしていた。



「もう……。だからいったのに……。アルフォンスはいいだしたらきかないんだもん」

聖女は傷だらけになったアルフォンスの掌を治癒術で癒す。

「申し訳ございません……。聖女様」

アルフォンスは項垂れるしかなかった。自分よりも遥か年下の子供に呆れられるのは何かこう、熟練の騎士として心に来るものがあったのだ。

「でも、とってもおいしい! アルフォンスのこころがこもってる」

人や魔物を斬るのは慣れていたから、食材もなんとかなると思ったがそうはいかないものだ。

だが、聖女は喜んでくれている。

それだけでアルフォンスは温かい気持ちになれるのだった。


ーー王宮から連れ出して良かった……。


アルフォンスは無邪気にご飯を口に運ぶ聖女を見て、ほのかに達成感を味わっていた。

そして、その中に仄暗い陰鬱な感情も見え隠れしている。


ーー私に主君殺しをさせた宰相は今頃王国を牛耳っている頃だろう。あぁ、王よ……。王妃よ……。貴方方の愛する娘だけは、聖女様だけは絶対に守り通す事を誓います……!


「アルフォンス? どうしたの?」

聖女はアルフォンスを無垢な瞳で見つめる。その目を見て、アルフォンスは決意をさらに固くした。優しいこの子を、王たちの愛したこの子を、死なせるわけにはいかないと。

「いえ、なんでもございません。まだ旅は始まったばかりなのです。ゆっくりお休みください。留学先の聖教国はまだまだ遠いですからね」

そして、本当の事を知る必要はない。これは留学などではなく、亡命だという事は……。


「聖女様、あと少しで聖教国です。今日はここで休みましょう」

アルフォンスが野営の準備をしているその時だ。

「聖女様、その逆賊からお離れ下さい! そこの元騎士アルフォンスは! 陛下と、王妃様を殺した張本人でございます!」

「……え? おとうさまとおかあさまが、ころされた……? なにをいってるの?」

聖女が混乱するのも無理はない。教えていないのだから。

しかしタイミングが良すぎる。その時アルフォンスは宰相の顔が浮かんだ。

「宰相め……。やはり手は打っていたか……! あと一歩だったというのに……!」

逃げようにも多勢に無勢なうえ、聖女という守らなければならない者もいる。

アルフォンスは抵抗すら出来ず拘束された。



「アルフォンス……あなたが……しなせたの? おとうさまと、おかあさまを……」

玉座の前に引きずり出されるアルフォンス。聖女は信じられないと首を振っている。

だがしかし、宰相の奸計に嵌められ魔物と化した王達を殺したのは自分。嘘はつけない。

「はい……。私が……この手で……!」

アルフォンスは宰相を睨みつけるが、宰相は涼しい顔をして憤怒の感情を受け流す。


ーーこの、魔王の手先が……!


しかし恐らくこの場に居るものは知らないのだろう。宰相は上手く立ち回っていた。王も、アルフォンスですらも気づけなかったのだから。


ーー逃げ切れなかった……! 私の不手際だ。宰相の手が伸びるのが早過ぎた……。まさか聖教国にまで手を伸ばしているとは、思いもよらなかった……!


「聖女様、申し訳ございません……。貴女を、お守り出来ませんでした……」

アルフォンスは殺される。宰相の正体を知っている唯一の人間なのだから。

「さて聖女様、これではっきりしました。王族殺しの逆賊は、この老いぼれでございます。法に則り、極刑に処さねばなりません」

宰相はアルフォンスを見下すように見つめている。嘲笑するように見下ろしている。

「でも……」

聖女はそれでも渋る。アルフォンスとの日々は確かに温かく、楽しいものだったのだ。

「でもでは無いのです。それが法であります故」

聖女はゆっくり俯いた。

「わかり……ました……」

「おい、その逆賊を処刑場に連れて行け。公開処刑だ」

もうアルフォンスに出来る事はない。ただ、あり得ない事であっても、一縷の望みにかけて、聖女の無事を祈ることだけだ。

それに気づいた宰相がアルフォンスの耳元に寄り、ぼそりと何か呟いた。

「すぐにあとを追わせてやるさ。あの小娘もな」

「な……!? 貴様! 貴様ァッ!!!」

その言葉は、アルフォンスを激昂させるに十分で、アルフォンスのその行動は、処刑に怯える犯罪者に相違なかった。


そしてその日、王国は災厄に見舞われた。聖女はまだ幼く、魔王に敵うはずもなく、無力に、何も出来ずに、ただ死んだ。

王国は一晩で廃墟と化した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ