008
「しかし、この書物の著者は孤独だったようですね……」
ページを捲りながらつぶやく。
その内容は基本的に魔法を使った自身の生活風景と、過去の回想ばかりだった。
『初めの方に書いていたが、学生の時に魔法に関する事ででやらかしたから誰かと一緒だと引け目を感じていたんだろうな。……っと、検索が終了したな』
男は立ち上がり大きく伸びをする。
「見つかりました?」
『施設の候補は見つかった。……が、これ以上の絞り込みはその施設を確認しないとわからんな。本に書かれていた外見的情報を元に明らかに違う施設は除いたが、それでも三施設残っている』
「そうなってくると、ここで調べる事は手詰まりですね。このまま調査を続行するか、一旦戻ってその三施設の再調査か」
『いや、もう少しこの辺りを調べないか? この内容が正しいとなると、この辺りに家があったはずだ。そうなると、他にも本があるかもしれない。それにスキャンが終われば別の調査事項が出てくるかもしれないしな』
「この場所を発掘ですか?」
両手を広げて周りを見渡す。起伏の少ない砂が遠くまで広がる光景だった。
『そうだよ。すでにその本が見える状態で埋まってたんだから、他の本も少し掘れば出てくるんじゃないか?』
「だったら、他の部隊にも応援を呼べば作業が捗るでしょうに……」
『ダメだ! そんな事をしたら俺達の功績じゃなくなる!』
語気を強める男の言動で逆に冷静になった彼に、ある疑問が浮かぶ。
「あの……一緒に行動していて気になったのですが、調査であなただけの功績になる事がそんなに大事ですか?」
『勿論だとも!』
男は即答し、続ける。
『過去の遺物を再利用しつつなんとか生きているだけの種族かもしれないが、それでも後世に俺の名前を残したいんだよ! 生きた証が欲しいんだよ!』
その声は、怒りにも懇願にも似たものだった。
『ただでさえ危険な調査の最前線にいるのに、このまま何も名も残せないまま終わりたくないんだ!』
「名声が欲しいから。だから前任のパートナーも事故死に見せかけたのですか?」
『……』
荒げてた声が止まる。しかし荒い吐息だけは短距離通信から伝わっていた。
『お前も言ってただろ? あれは不幸な事故だったんだよ。調査が終わって変えるタイミングでドラゴンが襲ってきたんだよ』
「名声が欲しかったから。だから、1年前の調査に向かった雪山で雪崩に見せかけて、パートナーを生き埋めにして殺して、動作可能なエンジンを自身だけの発見としたのですか?」
『お前……』
男は、淡々と話しかける彼の顔を見る。シールドで防がれたヘルメットからはその表情を覗き込む事はできなかった。
『あれも、事故だ。ちょうど俺が現地での食料を採取するために出かけた時に山の上が揺れたかと思ったら急に雪崩が発生したんだ。それに、あのエンジンは雪崩で崩れたあとに見つかったものだ』
息を飲む暇もなく話を続ける。
「名声が欲しかったから。そのために五年前、洞窟の形をした防空壕で飛行機など発見したした時に、野営して寝ているパートナーの首を絞めて功績を独占したのですか?」
『だから、それも不幸な事故だったんだ。誰だってあそこに捨てられた銃の弾が暴発するな……』
流暢に話していた男の息が一瞬詰まる。
『なんだ、それは。首を絞めたなんて……』
「そうですね。報告書にはなかったですね」
彼は話を続ける。
それは男のように読み慣れたセリフを繰り返すようではなく、思い出を語るようにゆっくりと。
「その時のパートナーは、偽装のために脇腹を撃たれたあと、後続隊がやってくるまでギリギリ持ちこたえました。最終的に一命を取り留めましたが首を締められた影響で喉が潰れ、話す事もできなくなりました」
彼は自分の喉の部分に手を当てる。
『嘘だ……だってあいつはあの時にちゃんと……』
「今ではこのマフラー型振動発声機を使わないと、まともに声を発する事ができません。それでそのあと……」
彼の言葉を遮るように雄叫びを上げる。思わず通信の音量を調整しようと視線を下げる。
その視界の端でタイミングをを狙い澄ますように男が指を向けた。その指先が光る様子を彼は捉えていた。