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 ザザッ

『!』

 男の後ろから砂をかき分ける音がする。聞き慣れた声が同時に短距離通信から入り、思わず上半身だけ振り返った。

「先程のは光線銃型のウェアラブル機器でしたね。それも指から発射するタイプ。機器を操作する際の動作で接触する可能性が高いので普通は避けますが……」

 体についた砂を払い落としながら通信の音量を調整する。

「出発する時に相手の装備を確認しますが、その時の防護スーツに違和感があったので警戒していたのですよ。実弾を装備している様子はなかったので、対光線銃に特化した防護服を選びました。その代わりちょっと熱への耐性が低くて衝撃に弱い所が問題でしたが……」

 光線銃に貫かれた場所を触る。拡散した光の中で少し残った熱のために赤くなっていたが、穴が空いている様子はなかった。

『光線銃は現地の敵に襲われた時の護身用だよ。ボディスーツ維持用の電力を使うから、まさに最後の手段だ。パートナー相手に使う予定はなかったが、でも5年前の事があれば警戒するのも仕方ないな』

 ゆっくりと立ち上がる。

 男の声は静かで荒げた様子もなく、落ち着いたものだった。

「でも、あなたがこのまま帰還し過去の事を報告して外部調査員から外れるのであれば、今回の事は追求しません。元々危険が伴う外部調査という仕事の中であなたの存在はさらに危険なものだ」

『そうかい。でも大丈夫だ』

 男が彼に近づく。光線銃が装備された右手を大きく横へ広げ、攻撃の意思がない事を示す。

「でも、そもそも魔法なのですが……」

『お前が追求されるような事はないからな!』

 大きく一歩踏み出し一気に彼に近づく。その左手には鋭く尖った棒……登山用ピッケルが握られてた。

「!」

 右手に注意が向けられ一瞬反応が遅れたが、そのピッケルを防ごうと彼は右手を前に出す。しかし掴む事ができず右脇腹に刺さった。

 素早く抜き取ったL字のピッケルの先端には赤い血で染まっていた。

『大丈夫だ。今回は確実に息の根を止めてやるよ』

 そのままの勢いで、続いてピッケルを顔面に振り落とす。あっさり割れたヘルメットのシールドの破片が彼の顔に降りかかる。

「っ!」

 外の空気が入り込み、スーツの中に広がる。燃えるように流れ込む風だった。

『5年前は大気が安定した洞窟だったから、お互いスーツを脱いでいたよな。でも悪いな、自分を殺した男の顔が見れない状態で』

 自国の中やそれに近い安定した環境以外では、まともに生きていけない程か弱い種族である彼ら。

 脇腹から抜け出る血液と鈍い痛みは感じるが、それ以上に息苦しさが勝る。陽に照らされた熱い空気が喉を奥から焼き尽くそうとする。

『最後に言いたい事があれば聞いてやるぞ。しゃべる事ができるならな』

「……先程言いかけたのですが」

 口を閉じながら最小限の呼吸の中で喉を鳴らす。その振動がマフラーに伝わり、音声を発していた。

「この書物を持ち帰っても魔法の発見者として貴方の名前は残りませんよ」

『どうゆうことだ』

 立ち上がる事もできない彼に、音声が短距離通信で取得できる事を確認し、警戒のために距離を取る。

「5年の間、私は内部調査員として働いていたのですが、そこではすでに魔法についての研究は始まってます」

『なんだよそれは! 聞いたことないぞ!』

 男の声に再び焦りが交じる。

「完全な実証に至らないので、国内の発表はまだされていないのです」

『じゃあこの本の発見は無駄だったのか』

「はっきりと言えば……」

『こんな危険な事をしたんだぞ!』 

 苛立ちから、思わず地面を強く踏みつける。

「もう一つ、これが最後です。私はあなたに襲われたあと、内部調査員の仕事として私も魔法の研究に携わっていました」

『国内で一切情報が漏れてないって事は、魔法の研究も内部調査の一部でしか知られてないんだろうから、お前も関わってるんだろうな』

 男の息が荒立つ。汗が吹き出ているのか、額を拭う仕草をしていた。

「そこで、私は召喚魔術と相性が良い事がわかりました。とは言ってもその書物に書かれていた風のエレメンタルと言われるもの程度ですが」

 彼は薄れる意識の中で、男の右脇腹を指さした。そこにはボディスーツに一筋の切れ目ができており、少なくが確実に外の空気が中に侵食していた。

『!』

 指摘され、慌ててその場所を手で抑える。

『温度調節がおかしいと思ったら……』

「風のエレメンタルは普段は大気の中に紛れ魔法使いの命令で実体化し、物を動かしたり切り裂いたりできます。書物の魔術師は掃除道具として使ってましたが、私でもボディースーツを切り裂く事ぐらいはできます」

 目を開ける力もなく、薄目で男を見ていたが、完全に瞼を下ろした。

 もう見る必要がなかった。

「そんなエレメンタル召喚体。今何処にいると思いますか?」

『おい……まさか』

 彼がゆっくりと手を挙げる。

「さようならです。私もすぐに追いかけると思いますが」

 そして拳を握りしめた。

 小さく風が吹く音がした。


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