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8 二つ目の同盟


「なんで、そう思うんだ?」

 この男は知るはずのないことを知っている。なぜだ? まず考えられるのは二つ。


 この男も【色欲】と同じ情報獲得系の異能を持っているか、俺たちの話を聞いていたかだ。どちらの可能性が高いかと言えば、当然後者だろう。


「そんなの、ちょっと考えればわかることさ」

 だが男は肩をすくめた。


「目覚めたらいきなり訳の分からない場所。周囲には俺らをつけ狙うモンスターたち。そのモンスターと戦えと言わんばかりの、よくわからない能力。そしてなにより、ここには俺以外にあいつがいた」

「あいつ?」

 男は獰猛な笑みを見せる。細い目をかっと見開き、凶悪に歯をむいてみせる。

 ゾワリと鳥肌立つ。この男から感じるもの。それは間違いなく狂気だ。俺や【憤怒】にもある狂気。


「あいつを見てわかったよ。これは殺し合いなんだって。あいつへの殺意が普段よりも増していたからねぇ。殺したくて、殺したくてしょうがない。なら、俺らは殺し合うようになっているんだろう。正直、君を見ていても同じだよ。なんとなく殺したいって思う。殺さないけどさ。それに俺の中に勝手に居座ったもう一つの衝動が、今日になって増しやがった。なら誰かが俺たちに殺し合いをさせようとしているってことだと、俺は考えたのさ」

 俺は男を前に冷や汗をかいていた。垣間見えた狂気は、話をしているうちにすっかりなりを潜めている。しかしそれ以上に、俺は男を警戒すべきだと思った。


 こいつはかなり頭がいい上に、精神が強い。自分の感情を正しく理解し、それを理性で判断する。感情と本能だけの【憤怒】とは違う。

 正直敵に回したくない。俺は今は別としても、もともとただの大学生だ。【憤怒】のような戦闘センスはないし、特別頭もよくない。しかも俺には守ると決めた【色欲】もいるのだ。


 味方は多い方がいい。それは事実だ。だが信頼できないような奴を味方にしてもいいのか? 寝首をかかれるんじゃないのか? 俺は言葉を選び、慎重に口を開く。

「だったら……仮に、仮にだぞ。あんたが俺たちの仲間になるとして、俺たちへの見返りはなんだ? これがデスゲームってわかってんなら、最終的には俺とあんたは敵になるんだぞ」


 俺の言葉に男はくくっと含み笑いをした。何の笑いだ? 汗ばむ手で斧を握りしめる俺に、男は余裕ありげに言う。

「いや、今君は『これがデスゲームってわかってんなら』と言ったなぁと。これがデスゲームだってことを、君は確定情報として扱うんだなってさ。とすれば、だ。君らには何か情報を得る手段があるんだな」

 鳥肌が立った。何気ない一言で情報を抜かれた。やっぱりこいつは、油断ならない。

「そう警戒しないでと、何度も言っているじゃないか。そう殺気立たれると、ブラフに簡単にひっかかちまうよ。さっきのだって半分はブラフだ。それに大体本気で俺が君たちと敵対するつもりなら、背後から黙って不意打ちをするさ。そうでなくとも、わざわざ君が警戒するようなことは言わない。黙って、一つの情報としてもっておくようにする」


 一理ある、のか? 不意打ちせず、あけっぴろげに話すことで敵意がないことを示しているのか?

 わからない。男は俺を混乱させるように言葉を重ねてくる。俺はちらりと後ろの【色欲】を振り返った。【色欲】も困ったような顔で首を振っている。


 この男が敵かどうか。味方にするべきかどうか。別のアプローチで考えてみよう。


 ここにいる“プレイヤー”は全部で七人。そのうち、大罪と能力が分かっているのが三人。


 まず俺が【暴食】。能力は食べたモンスターの力を取り込むこと。


 次に後ろにいる彼女が【色欲】。能力は情報の獲得。


 昨日会ったチンピラが【憤怒】。能力は触れたものの爆弾化。


 残る大罪は【嫉妬】、【怠惰】、【強欲】、【傲慢】の四つ。そしてこの男の能力は、瞬間移動か、それに類する何か。

 【色欲】の話や俺やあのチンピラの例を考えるに、能力の性質と罪はある程度一致している。なら瞬間移動が使えそうな大罪はなんだ?


 まずありそうなのは【怠惰】、だろうか。動きたくないから瞬間移動をする。ありそうだが、それはこの男から感じる性格にはそぐわない。

 奴の言葉を信じれば、こいつは初日で戦っている。【怠惰】とは正反対、むしろ積極的に活動している。


 とすれば【傲慢】? 【嫉妬】? それとも【強欲】?


 ……駄目だな。これ以上考えてもまとまりそうにない。なら、リスクを冒してでも、こいつから情報を手に入れるしかないか。

「わかった。ならいくつか聞かせてくれ」

「もちろん。同盟を組めるなら、どんなことでも答えるよ」

 俺が緊張交じりに言えば、男は微笑みを浮かべて一歩歩み寄ってきた。一歩、二歩。残り四メートル。


「お前の大罪……能力はなんだ?」

「大罪? それが何かは知らないけど、俺の能力はそうだな。移動系の能力だ」

 残り三メートル。曖昧な返答。俺は斧をぐいっと振りあげる。男は足を止めた。


「おおっと、済まないね。でもさすがに協力関係を組む前にはっきりとしたことは言えないさ。ただ、瞬間移動もどきや、()()()()()()()できることは確かだね。手品師の真似事ができると思ってくれればいい」

 嘘は……ない、と信じたい。斧をまた下ろす。男の顔からは笑みが消え、わずかに汗と血の匂いが漂ってくる。残りは変わらず三メートル。


「次の質問だ」

「なんなりと」

「お前は同盟を組んでどうしたい?」

「さっきも言ったろう? ここにいる一人の男を殺すことを手伝ってほしい。俺一人では無理だろうけど、複数でかかればきっと勝てる」

 男がまた歩き始めた。これで二メートル。数歩踏み込めば、斧が届く距離。


「協力する見返りは?」

「このデスゲームの勝者を君らに譲ろう。俺はあいつさえ殺せれば、他はどうでもいいんだ。死んでも構わない。もちろん、強力してくれるなら、俺も君たちに協力は惜しまないよ」

 一メートルと五十。


「なら」

 一メートル。男の歩みは緩やかになる。


「なんで俺たちのところ来たんだ?」

「たまたま見かけたというところが大きいね。他にここに何人いるか知らないし、君らはもう同盟を組んでいるようだから。少なくとも、会えば即戦闘ではなく、おそらく会話はできるんじゃないかなってさ」

 六十センチ。


「その男の能力は? そいつは今どこにいる」

 五十センチ。男の手がゆっくりと前に出される。


「あいつはこの森と遺跡の境目にいる。そしてそいつの能力は」

 三十センチ。


「触れたモンスターを、操ることだ」

「わかった」

 ゼロ。俺は前に出された男の手を握った。握手。俺がぎゅっと手に力を込めると、男ははぁと深い息を吐いた。


「同盟成立、かな?」

「一応、な。でもあんたのことを信用したわけじゃない」

「それでいい。なら、お礼に俺の能力と知っていることを全て君たちに話そう」

 男は脱力して、笑う。すると不思議なもので、これまでの胡散臭い雰囲気がなくなったように感じた。


   *


「――なるほどねぇ」

 森の中で話すことしばし。俺たちと男は、それぞれの異能や昨日会った出来事についての情報交換をした。

 もちろん、俺の知る全てを話したわけじゃない。【色欲】から聞いた中でも、「勝者はどんな願いでも一つ叶う」ということは話していないし、【色欲】の持つ“衣”の情報についても伏せた。


 だが【憤怒】についての情報は全て出した。理由は一つ。男の宿敵の討伐を条件に、【憤怒】の討伐を約束したからだ。

 あんな危険人物が近くをうろついているなんて、勘弁してほしい。


「大罪、デスゲーム、異能、モンスター。つくづく現実的じゃないな」

「とっくに()()()()()()俺らが言えることじゃないだろ」

「全くだ」


 男は木にもたれかかり、目をつむって情報を整理している様子だ。俺はそれを横目に、山積みされたモンスターの死体をむさぼっている。


 男と同盟関係を結んだことで、彼からその異能について聞くことができた。目の前に積まれたモンスターの死体の山もその異能のおかげだ。

 モンスターの死体は、五十はあるだろうか。男の異能は【憤怒】と比べても何一つ遜色ない。


「どいつもこいつも、強力な能力ばっかだな」

「それを言うなら、君もだろ。俺としては、俺の能力なんかより、君の力の方がうらやましいよ。何せ、どんな怪我を負ってもモンスターを食えばすぐに癒せるんだろ? 俺なんて怪我は怪我のままだってのにさ。それに君の異能が、一番成長性がある。要は使い方と組み立てだよ」

 隣の芝は青いって奴だろうか。男の傷は塞がっては来たようだが、まだ痛むらしい。男は目を開いて、ふぅと息を吐いた。


「ま、君らのおかげでだいぶ状況を整理できた。見聞きした異能を比べれば、【色欲】の情報獲得というのは随分と弱々しいもののように感じるけれど、それに……」

 そこで男はちらりと【色欲】に目を向ける。【色欲】はその獲物を狩るような視線を受けて、ビクリと肩を震わせる。


「失礼。情報の有無は貴重だしね。有用と言えば有用だ」

 俺がオークをかみ砕きながらにらみつけると、彼はすぐに謝ってきた。


「ともあれ、その“プレイヤー”は大罪の名があてはめられているんだろ? とすれば、俺はきっと【強欲】だろうな。俺の中にある衝動にも当てはまる」

「【強欲】か」

 男――【強欲】の異能を考えても、彼の大罪は【強欲】に間違いはないだろう。


「んで、あいつの大罪は、大方【怠惰】か【傲慢】。どっちでもありえそうだね」

 そして「モンスターを操る」異能を持つ【強欲】の宿敵は、そのどちらかと。


「こ、これで“プレイヤー”の内、五人は姿が見えましたね」

 ここでずっと俺たちが話すのを見ていた【色欲】が口を開いた。俺と【強欲】はその言葉に頷く。

「あぁ、“プレイヤー”は七人。そのうちの五人の異能が分かって、三人が同盟を組んでいる。案外、これはすごいアドバンテージなのかもねぇ」

「なら、まずはそのアドバンテージが生きている間に……」

「そうだね。その【憤怒】とやらを殺しに行こうか」

【強欲】の異能が何か。わかった人はもしよかったら感想ください。

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