序 食事風景
ガツガツ、ガツガツ。バリ、バリ、ムシャムシャ。
ゴクン。
俺は肉を食べていた。死にたてほやほやで、ぬくもりの残る肉を解体して、生のまま口に運ぶ。
食べることは幸福だ。血の一滴。肉の一切れ。骨の欠片を飲み下すたびに、頭の中を幸福感に支配される。
先のとがった石を使って死体の腕を裂き、そこに指を突っ込んで力任せに裂き、骨から肉をはぎとる。
「あぁ……」
はぎとった肉を青空に掲げた。抜けた窓の外から入ってきた光を映して、艶めかしい光沢をもった生肉が光る。手を離した。落ちた生肉が俺の口に入ってくる。
血の鉄臭さが脳を駆け巡る。普段なら気持ち悪くなって吐いてしまいそうなそれも、今はただの快楽に過ぎない。
血の香りに身を震わせた後、肉を噛む。ぐにゅぐにゅと、生焼けのホルモンの感触。やせた肉の乏しいうまみすら、俺は敏感に感じ取って身もだえしそうになる。
空腹は最大の調味料。その言葉を俺は今全身で体感していた。
十分に咀嚼した後に飲みこむ。俺の歯と唾液で柔らかくなった肉は食道を通り、胃に入って消化される。その度に俺は胃から力がこみ上げてくるのを感じていた。
一口食べた後、俺は視線を落とした。石畳が散見する森の中。転がっているのは半分解体された死体。
緑色の皮と肉、そして血の色をしたモンスターの死体だ。
粗末な腰巻をした子どもくらいの体に、醜い顔。こいつは手に麺棒みたいな棍棒を持って、俺に襲い掛かってきた。
食事が一段落して、冷静になった頭で考える。俺の知る動物の中でこんな姿の動物はいなかったはずだ。まず緑色という時点で色々おかしいし、二足歩行しているのも変だ。
むしろこの姿。こいつのことをゲームやマンガでは“ゴブリン”と呼ぶのではなかったか。
「どうなってんだよこれ」
おかしなことばっかりだ。現実世界にゴブリンがいることも、そいつが俺に対して襲い掛かってくることも。
俺がゴブリンを殺して、その肉を食っていることも。
口元についた緑色の血をペロリと舐める。背筋の下から駆け上がるような快感が走る。人に似た生物を殺したことへの嫌悪感も、その肉を食べたことへの恐怖もなく、ただもっと食べたいという欲求だけが残る。
「腹が減ったな」
底なしの空腹に負け、俺はまたゴブリンの血肉を食べ始めた。




