クラスの人気者の山下くんが何故かこちらを見てきます
ヤンデレなのかわからない…
特にこれといった特徴がない女である私、村井あかねは最近悩みがあります。
それは隣の席から何故かずっと視線を感じることです。
つい最近席替えをして、私の隣の席はクラスの人気者の山下くんなってしまいました。私は1番窓側で、とても寝心地もよく万々歳だったのですが、何故か山下くんから視線を感じるのです。おかげで一度たりとも寝てはいません。
山下くんは文武両道で眉目秀麗な優等生。
男女関係なく人気があり、先生からの信頼も厚い。私とは遠い世界の人で、私なんかが山下くんと話すのはとても烏滸がましいと思い、特別な用事がある時以外は話さないようにしているのです。
山下くんのもう隣には男子が座っています。ですが山下くんは何故か私にばかり話しかけてくるのです。
私が本を読んでいる時や趣味が合う友達と盛り上がっている時も、多くの女性を虜にしてきたであろうその笑顔で喋り掛けてくる山下くんは何を考えているのかよく分かりません…。
少なくとも私と山下くんは席替えをする前は話したことは無いのです。最初は山下くんが優しいから気を遣って話しかけてくれているものなのかと思っていましたが、ずっと感じる視線といい、明らかにおかしいと思ったのです。
そしてそんな山下くんと私は現在日直の仕事で、教室で日誌を書いています。
しかも生徒は私たちしかいなくて、私は何を話せばいいか全くわからず無言の状況が続いています。
「私が日誌を書くので先に帰ってても大丈夫ですよ」と私が伝えると山下くんは僕も残るよと言って何故かこんなことに…。
相変わらず山下くんからの視線を感じます…。
私はなるべく早くここから逃げ出したくて、ペンを忙しなく動かす。
「…よし、書けたのでもう先に帰ってても大丈夫ですよ」
やっと書き終えた私は早く職員室に行こうと椅子から立ち上がる。
それに続いて山下くんも立ち上がった。
「村井さんと一緒に帰りたいな…どう?」
えええええええええええ!?
私が山下くんと帰るなんてファンの子に殺されるんですけど!?
というかなんで私なんかと帰りたいんですか!?!?
山下くんの真意がわからず、二の句が継げずにいる私はどもることしかできなくて。山下くんをただ見つめていた。
「…駄目かな?」
出たー!イケメンだけが許される小首傾げー!!
なんでこんなに私と帰りたいのかわからないが、もしかしたら山下くんの優しさから来る純粋な好意なのかもしれない。そう思うとなんだか申し訳なくなった私は山下くんと帰ろうと思った。なるべく早足で。
「…あ、あの、じゃあ、ご好意に甘えて一緒に帰らせて頂きます…」
そして山下くんはよほど一緒に帰ることが嬉しいのか、顔をゆるゆるに綻ばせた。
「良かった!じゃあどうせだし、連絡先交換しない??」
れ、連絡先!?私たちそんなに親しくないですよ!?
良いんですか!?連絡帳汚れませんか!?
私が固まっていると、山下くんは慌てて携帯を取り出した。すると、手から携帯が滑り落ち床に落ちた。私は落ちた音で現実に戻り、急いで山下くんの携帯を拾おうとした。
「あ、あの大丈夫です…か…」
落とした拍子に携帯は電源がついてしまったようで、ロック画面が映し出されていた。
問題はその待受の写真。
私はそれを見て絶句した。その写真は私が机で本を読んでいる写真だった。おそらく隠し撮り。
呆然と立ち尽くす私を不思議に思った山下くんは自分で携帯を拾い、その画面を見て沈黙した。
「…村井さん、これ、見た…?」
「え、えっと、み、見てないですよ」
嘘をついた。見なかったことにしたかった。脳が全く情報処理の役割を果たしていない。山下くんから目を逸らす。多分見たことには気付いてるだろう。私は昔から嘘が下手だった。
一瞬の静寂、そして山下くんは重苦しく口を開いた。
「…僕さ、村井さんのことずっと前から見てたんだ。最初はよく本を読んでる印象しか無かったんだけど、いつのまにかずっと目で追ってた。そしたらどんどん村井さんのことが知りたくなったんだ。席替えで隣の席になれた時はものすごく嬉しかったし、これを機に絶対村井さんと仲良くなろうと思ってたんだけど、村井さんは他の人とばかり話すし、こっちが話しかけても警戒してるしで、全く仲は進展しないからずっとイライラしてたんだ。俺だけの村井さんなのに。俺が一番村井さんを見てるのに。わかってるのに。こんなに好きなのに。本当に好きなんだ。もう少し距離が縮まってから告白しようと思ってた。でも、こんなの見られたらもうわかるよね?僕の気持ち。君が好きでたまらない。僕と付き合ってくれるよね?こんな僕でも受け止めてくれるよね」
だんだん早くなる口調に私は冷や汗が流れる。
いつもの山下くんとは違う。恐怖を感じた私はすぐに教室を出た。
山下くんは追って来なかった。
「ねぇ、村井さん。好きだよ。だからずっと見てるからね…。」