第4話
壊れたメトロノームの様な感情を持ったまま帰り道、小走りで夜道をゆく。
これが本物なら、写っているのは傷害事件のその瞬間。人が狂気に取り憑かれ感情のままに行動し他人の人生を壊しにかかるその様。
家に到着したが少しの間USBメモリを確認することは出来なかった。呆然と封筒を眺め、あれだけ気になっていた冷めたコーヒーを流し込む。
感情のメトロノームが落ち着きはじめたところでUSBメモリをパソコンに差し込みデータを読み込む。モニターに映し出されている読み込み中の文字とパーセント表記がもどかしくもあり、早くも感じている。緊張と高揚と感動でかつてないほどに集中していた。
データは2種類あり、テキストと映像に分かれている。テキストデータから開いてみる。
2年前の4月5日
午前2時14分頃
国道沿いの歩行者道にて女性がナイフで刺された傷害事件
被害女性 桜咲麗美19歳
自宅から出たところに身長170cm前後の犯人に襲われ太股を6回刺されている
体つき等から犯人は男性と思われる
刺した後、すぐに逃亡
刃物は刃渡り15cm前後のナイフと思われる
被害女性は事件後歩行不能になる
事件概要。先刻見たものより1歩深く記されてある事件概要だ。読んだ限りでは傷害事件と言うよりも殺人未遂とも考えられる、そんな残酷な行動だった。
顔や体を避けたのか、あえて足を狙っているのか。
兎にも角にも、映像を見て見なければ始まらない。概要を読んで映像は見たいものではない、そうは思ったが見なければ。
意を決して映像データを開く。
映像の画質はそこまで良いとは言えず、遠くまでハッキリは見えない。映像右上にある時刻は2時13分を記している。
カメラから駐車場、道路を挟んで反対側に塀がある。レンガ風の白い塀。そこに1人の女性が歩いてきた、ハッキリとは見えないが黒い長髪と白の上着は認識できる。
時刻が13分から14分に切り替わった頃、女性の後ろから全身黒を纏い、黒の野球帽にマスクにサングラスの人物が走ってきた。気配を感じたのか女性が振り返る。振り返りながら驚愕し体勢を崩してしまい後方に倒れ込みかけたその時カメラと現場の間をトラックが走る。トラックが走り去る瞬間に男はもう走り去っていた。
なるほど。マスターという者は確かに映像を確かに届けた。それだけの財力なのか独自の方法なのか分からないが何らかの力を持っており、その力は考えた事をそのまま実行出来るほどの大きさであるのは間違いない。
だがこの映像は警察も見てある程度の捜査はしているはずだ。ここからどうやってこの黒づくめを追い詰めるのか。
マスター「いかがですか?映像は届きましたか?」
味噌「見たけど、、、見えないよね」
井戸「いや、ほんまやったってことに驚きや。何をしたらこんな短時間で用意出来るんか分からんわ」
味噌「そうだよね。でも嘘じゃないってことよね」
京都「どうやったら、じゃなくて、嘘じゃないって事実だけでいいのではないでしょうか?何を思ってその力を行使するのかは分かりませんが世界を良くしたいなんて笑ってしまいそうな目的に本気であるということで」
味噌「そうね」
井戸「せやけど、どうするん?映像肝心なとこ映ってへんし、この映像警察も見てある程度捜査してんねやろ?」
マスター「ご理解感謝致します。確かに警察の捜査は行われていたようですが、怨恨による事件だと判断し被害女性が亡くなっていないことから警備を厳重にする、という措置で終わっています」
味噌「なに?怨恨て」
井戸「恨みつらみってことやろ」
味噌「そういうこと聞いてるんじゃないわよ、ばかなの?」
井戸「はぁ?だからいちいち喧嘩売ってくんなや」
味噌「あんたがアホすぎるからでしょ、怨恨の意味じゃなくて何で怨恨だと判断したか、を聞いてるの」
京都「桜咲って聞いたことありません?」
味噌「桜咲ってそれこそ銀行から車、服飾まで
してる企業じゃない?CMで良くある、あなたの隣に桜咲って」
京都「この被害女性は桜咲の関係者ではないでしょうか?大企業の関係者ならば怨恨もありえますよ|ω・)」
井戸「あぁ、せやなぁ。ちょっと前にも大型飲食チェーン店の社長が撃たれたりとかもしてたしな」
味噌「ああ、あの事件ね。あの事件てプロの仕事って言われてるんだよね、証拠も残さず目撃者もいないところから」
井戸「なんやねんプロって、殺し屋ってことか?それなら今回もそうかもしれんやん」
京都「いや、それはないでしょう。これだけ映像に残されるような大胆な犯行に、無駄に6回も刺してることもありますし」
味噌「まぁ、そう言われて見れば」
井戸「でも、どうやって探すんや」
京都「今映像見れますか?」
味噌「うん」
井戸「見れるけど?」
京都「マスター、この映像って全て同じ映像です?」
マスター「ええ、同じデータです」
京都「じゃあ、映像の2時14分13秒の所で止めてもらえますか?」
指定した映像には丁度画面右端から左側の女性に向かって走っている犯人が映し出されている。
左手と右足を前に走っている。その左手には白い何かが握られている。
味噌「これってナイフ?」
京都「おそらくは」
井戸「これで何がわかるん?」
京都「とりあえず犯人は左利きということは分かります」
井戸「え?」
味噌「まぁ、そうね。左手でナイフ握ってるもんね」
京都「ええ。そしてヒントになるのは身につけているものくらいですね」
味噌「でもこの画質の粗さじゃ判断できないよね?」
京都「そうなんですよね。でも、前に聞いたことあるんですけど粗い画像を高画質になおせるとか?」
マスター「わかりました。確認してみましょう」
いわゆる画像解析という技術、だがそれには時間と費用がかかる。1ヶ月の時間と何十万という費用をかけ解析する技術、事件捜査や裁判の証拠等のためにある。
京都「どれくらいで出来ますか?」
マスター「専門業者を集めて最速で依頼します。そのためなら費用は問いませんので。ですごこんな時間ですし、また明日集合にしませんか?」
気づけば時刻は午前3時半を超えていた。