1話「王は死にましたか?」
「陛下!ご無事ですか!?意識をしっかり持ってください!」
-目の前に何かに突き刺さる剣が見える。何故だろう腹部が表し様にない程に熱い。これは痛みだろうか。しかし感覚がない。いやそれどころか全身の感覚が薄くなってゆく。
「そうか、剣は俺に刺さっているのか…」
大体の状況は読めた。国を動かすものとして洞察力は鍛えられていた。しかし悟りたくは無いものだな。
自らの死を悟ると共に痛みのような感覚が湧いてくる。夜襲にあったのか?なぜ殺されたんだ?そこまで国民に嫌われていたのか俺は?
死は認められたが、こんな疑問だけは湧いてくる。
俺はただ国の為に道具のように尽くしたというのに…
「どんな生き方をしようと儚いものだな人生は…」
こうして一つの国に尽くした偉大なる王、そして一人の可哀想な男は眠りについた…
…い…なさい…おーい、起きなさい。
どこからともなく渋い男の声が聞こえる、どうやら聴覚が最後まで生きるというのはホントらしい。それにしても無理なことを言う。俺は死んでるんだぞ。
ゴツッ!
「痛ァ!」
頭に衝撃が走る。死体になんてことをする。思わず甲高い声が出てしまった。ん…声?
「こら、いい加減起きなさい!」
薄々状況が読めてきた。おそらく俺は生きていたのだろう。そしてこれは側近の誰かだろうか?なら死は夢か?あんな夢を見たのだ起きて国務などはしたくもない。
「維持でも起きんつもりか!」
「あーもう、うるさい!!」
ついに叫んでしまった。狸寝入りも終わりか。残念に思いながらも重いまぶたを開くと…
「ようやく目を覚ましおったか。」
見知らぬジジイがいた。
「お前さんどこの村のコだ?夕方まで昼寝しおって」
マジで誰だこの人、しかも周りも見知らぬ草原。
視界に映る広大でのどかな景色で美しい。だが、それには感動などはなくただ疑問のみ浮かぶ。
「あんた誰だ?それにここは?」
「ここはオラの庭で、おらは農家のデインだ。それより、お前さんこそ誰なんだ。」
「俺は、この国の王にして建国の父であるガレウスの息子エリウスだ!」
決まった。毎度思うが自己紹介とは素晴らしい。特に今日は透き通る美声、妙に高いのは気分が良いからだろう。とにかく自らを名乗るのは何と心地よいのだろう。
「何言ってんだお前、向こうに川あっから面でも洗ってきたらどうだ?」
「う、うむ」
すごいかっこいい自己紹介だったんだが田舎には俺の名は広まってないのか?俺もまだまだだな、やはりまだ死ねぬな。どれ、早く顔を洗って王国に戻るか。何でこんなとこにいるかわからんが、おそらく酒でも飲みすぎたのだろう。二日分くらいの記憶がキレイさっぱり無いのは腑に落ちないがな。
そんなこんな歩くと川が見えてきた。
「うむ今日も美しいまるで女子のような清廉さだ…」
うん…本当に女みたいだな。それにやけに体が小さい気がするし。まあこれが噂に聞くアルコール中毒って奴か…
「こういう時は…」
おもむろにズボンに手を入れ、アレを確認する。これが一番確認には早い。入念な検査の結果はだが…
「たまが無い…」
女でした…
「いったい何がどうなってるんだァァ!」
広大な草原に甲高い声が響き渡った。
「俺は…俺は…」
かつて一つの国のために尽くした、敏腕な王もこの時ばかりは頭が追いつかなかった。
A.生まれ変わりました。