05話 最初の朝
〔起きて・・・・ねぇ起きて!・・・・・レイ君!〕
頭の中に声が流れ込んでくる。
聞き覚えがある声。何度も聞いた。あの人の声。
「んん?・・・・うん・・・・あれ?寝てたのか」
朝日が木の葉に遮られて、光がちらつく。
夕べの火は消えており、ルシファーの姿はなかった。
あるのは、置手紙。九条の鞄に英語ではない、何かの言葉が書き込まれた。
「あれ?・・・・・読めるぞ?英語でも日本語でもないのに」
九条は、手紙を読む。
『やぁ、おはよー。これが読めるんだったら果実の効果は出たようだね。ところで、君、彼女の事忘れて寝ちゃっただろ!駄目じゃないか!一応言っとくが、彼女は希少種だ。これから誰が彼女を狙いに来るのか分かったもんじゃない。君が守らなければ誰が守るんだ?それじゃぁ、この世界の人々を救って、もとの世界に戻れるよう検討を祈る。あとこの後は鮎川さんあなたが読んでください。・・・・・・・・・』
・・・・・・・忘れてた!
「センセー!何処にいるんですか!」
〔何ー?レイ君。私は此処にいるよ〕
頭にまた、声が流れ込んできた。しかし、普通に聞こえる訳ではないため、位置までは分からない。
「センセー何処ですか!此処じゃ分からないです!」
〔だから、此処だってば!レイ君の足元!もーー〕
足元?
九条は言われた方向に顔を向けると、小さな翼を嬉しそうにバタつかせる幼きグリフォンの姿があった。
「センセー。大丈夫でしたか?僕の事憶えていますか!?」
九条はその小さき体を持ち上げるて、瞳を見る。輝く純粋な目だった。
〔レイ君はそんなに私が心配?うれしいなぁ。でも、ちょっと恥ずかしいかも〕
これは笑ってもいいんだろうか?
九条は苦笑いをすると、鮎川を地面に降ろした。
「あの人・・・ルシファーからの手紙ですが、読みましたか?」
〔うんうん?まだだけど〕
九条は、鮎川の目の前にその手紙を置いた。
〔・・・・・・・・・・・・・・・え?嘘でしょ!〕
グリフォンの事はあまり詳しくないが、ど素人から見ても、その顔から驚きが見えた。
「何が書いてあったんですか?!」
申し訳ないが、九条はその文を読んだ。
「すまないが、君の体はこちらが勝手に持って帰って保管しておくよ。ここに置いていくのは危険でしょ?君らがこの世界から帰るときにちゃんと返しておくから、あと・・・・・・」
「何も、変なところはないんですが・・・・・なにがそんなにショックなんですか?」
九条はその手紙を鮎川に見せる。すると、鮎川はかなりの涙目で九条を見ていた。
〔最後までちゃんと読んでよ!君は問題を読まずに問題を解くの?〕
そんな事はないが・・・・小学校の問題なら、最後まで読まずにでも問題は解けるだろう。
九条は最後まで、手紙を読んでみる。
「・・・あとね、君のポケットに入ってた、あの黄色い透明な硬いお菓子は何?舐めたらめっちゃ美味しかったんだけど!出来たら今度あった時にも欲しいなー・・・なんちゃって!そんじゃーねー。あ、迷子になるとこっちも困るんで、そこからだと、南東にある『バルヒー』っていう村が近いはず。そんじゃーねー」
相変わらず態度が軽いな。ところで、鮎川が泣いた理由ってまさか、これじゃないだろうな・・・。
九条は「えぇー」という目で鮎川を見る。
〔私のべっこう飴ーーーー!ウソーーーー!〕
なんと、このタイミングでセンセーの好物を知るとは思いも知らなかった。
九条は泣いている鮎川を放っておく訳にもいかず、頭を掻くとポケットに手を突っ込んだ。
「あ!、センセー・・・・・これ。要ります?」
〔何?・・・・・え、いいの?やったーーー!レイ君ありがとー!私の命の恩人だよ!〕
恩人って・・・・・何も死ぬわけでも無いのに。大げさだなぁ。
そういえば、先日居酒屋に行ったときにレジでもらった物があったと思い出した。そして、鮎川がべっこう飴が好きな理由が分かった気がした。
九条は、袋から飴を取り出すと、手の平に袋を乗せ、その上にべっこう飴を置いた。そして、鮎川の目の前にそれを見せる。
それを見るや、鮎川は口ばしを器用に使い、飴をつまむと口の中に含んだ。九条は座ってその光景を眺める。
〔う~~ん!このドストレートな甘さが溜まんない!〕
この嬉しそうなこときたら。あげてこちらまで嬉しくなってきた。
〔ほんとにありがとね!・・・・・・ところで・・・・〕
「残念。あと1個で最後です」
〔えーーーー!そんなーーーー!〕
「大丈夫ですって、べっこう飴って、結構簡単に作れますよ。その『バルヒー』って村に着いたら、僕が作りますから」
〔ほんとー!約束ね!〕
「はい、約束です」
二人は約束すると、太陽の位置を確かめる。
方位磁針を持っていない、ここは九条の今までの学習を発揮する見せ所でもある!
〔あ!あっちの方から煙が見えるよ!あっちの方角が南東で村があるんじゃない?〕
知らない間に鮎川が飛んで、木の上から見渡していた。
最初からこうしてれば良かったと、さっきの自分が恥ずかしいと九条は顔が赤くなった。
〔顔が赤いけど、大丈夫?〕
「大丈夫です!それじゃぁ、行きましょうか」
九条は鞄を背負うと、村の方向に向いた。
いざ、世界を変える旅へ。