04話 グリフォン
「さて、空も暗くなったところで、たき火でも付けちゃいますか」
二人は少し開けた場所に移動すると、そこら辺に落ちいている木の枝や木の葉をかき集めた。
ルシファーは袖を捲し上げ、かき集めた木の枝に片腕を伸ばした。
「イグニス!」
ルシファーの手の平辺りの空気がだんだん赤くなってきた。
数秒後、手のひらから火花に近い炎が積み込まれた木に飛び込んだ。
「まぁ。こんな小さくても十分でしょ。ここ最近、雨も降らないから木も渇いてるし」
ルシファーの言うとおり、木に火が付くとあっという間に広がった。
特に食べ物はない。腹が減って来た。
「あの、食べ物はないんですか?」
「いっや~!ごめんねー。まさか、ここまで長くなるとは思わなかったからねー。君、もしやお寝坊さん?」
ぐうの音もでなかった。たしかに、ここまで長かったのは自分が意識がなかったとはいえ、寝ていたのは悪かった。
九条は、腹を鳴らしながらあの卵を手に持った。
「温かい・・・」
普通、鳥とかの卵は親鳥が数日間かけて温めなければならない。だが、こういった幻獣は親だろうが子だろうが、人に狙われやすいため卵を置き去りにしてしまう。そのため卵は自分から発熱を起こし、自己抱卵をするらしい。
九条は以前の世界にいた時に買った本に書いてあったことを思い出した。
しかし、この卵は産まれてからしばらく経った状態の物で、今日生まれるものだったらしい。
「魂という物はなぁ、人間だろうが、鳥だろうが、牛だろうが、生まれる数時間前から、意志を持つようになる。いや、その個体に寄生するって言った方がいいか?」
ルシファーは意地悪を言うようにこちらを見る。
「まぁ、彼女が生まれるまで、君の事を話そう。彼女が『生』ならば、真逆に値する君は『死』だ」
それはもう分かっている。早く要件を言って欲しい。
九条はため息をつきながら、もう一度ルシファーを見る。
「まだ、使い時がないが・・・・・・そうだなぁ・・・・お!良い所にいたなぁ」
ルシファーは右を向くとそこにはかわいらしいウサギがいた。
すると、ルシファーは右腕をウサギに向けた瞬間
『さて、手頃なウサギだなうまそう!モルス!』
黒い何かがウサギに向かって飛んでいき、ウサギは体を痙攣しながらその場に倒れた。
「・・・・・・・・は!」
今、何が起きたんだ?しばらく意識が遠のいていたような・・・
ルシファーの方を振り向くと、まだウサギに右腕を向け照準を合わせていた。
「さて、手頃なうさぎだなうまそう!モ・・・」
「ちょっと待って!」
九条が大声を上げたせいで、ウサギはこちらに気が付きどこかに行ってしまった。
「ちょっと待ってください。今のって・・・・」
「お、ちゃんと見えたらしいな。これはな、見た生き物の近い死が見えるんだよ。範囲はだいたい10日前後といった所だな。10日後に死ぬ奴の状況は分からないが?」
なんか漠然としない。10日以内に死ぬ奴の事が見えるなんて・・・あれ?
「でも、おかしくないですか?じゃぁさっきのウサギは死んでないですよ?これじゃぁこの力は何のために・・・」
「フフフ・・・それがこの力のミソなんだよ。そいつの寿命・・・そいつが死ぬはずだった運命を変える。それがこの力の醍醐味だ。あと、1つあるんだが・・・・・腹が減ったせいで力が出ないな」
た、確かに、今九条が止めにかからなければ、少なくとも二人分の夜食分はあった。それほど、今のウサギは大きかった。
ルシファーはまた「トラクトゥス」というと、何もない所から人の形をした何やらを取り出した。
「これに命令をしてみろ」
「ちょっと待って!これ、なに?!」
「さっき、君達を襲おうとした盗賊」
ルシファーはあっさり、そう言った。死体は服装は漫画で見る盗賊そのまま、触ってみるとやはり冷たく脈もなかった。
「さぁ、ちょっと命令してみて」
「そ、それじゃー・・・・・さっきのウサギを捕まえてこちらに戻って来てください」
九条がそう言うと、死体が立ち上り、さっきの話でも聞いていたのか、ウサギの居た方向に走って行った。
「これが、もう1個の君の力。意志のない、または生命活動を終了した生き物全般を思い通りに命令することができる」
便利といえば、かなり便利な力だ。
「じゃぁ寝ている生き物はどうなんですか?」
「意志のないと言ったが、少なくとも気絶していればいい。簡単に起きてしまうのは、駄目だ。よって、寝ているの効かないことはことはないが、あんまりお勧めしないな」
なるほど、九条はもう一つ疑問に思ったことを口に出した。
「もし、生まれたとしても、センセーが僕の事を憶えてる保障ってあるんですか?」
九条は少し心配になり、ルシファーに問いだす。
「そこに関しては大丈夫だ。さっき僕は『転生』と言ったろ?これは、生まれ変わりと似ていて、死んだ当時の状況それと死ぬまでの記憶を受け継いだ状態で別の生まれる前の生物に乗り移る。それが転生だ。孵化後数十分は意識が朦朧としてるから、まぁ、そこからは君次第だからな」
それならよかった。もし、記憶がないのだったら僕はどうしようかと思った。
九条は卵を見ると、わずかだが動き出した。
「あ、動いた・・・」
「そろそろだね。あぐらでもでも掻いて、鞄の上にでも置いて。あとは、できるだけ布・・・君の着ているその服、できるだけやわらかい方が良いんだけど・・・」
ルシファーは九条の服装を凝視する。だが、九条の着ているのはポリ
エステル製100%で、布ではなく少し硬い物ばかりだ。
「それなら・・・鞄の中にタオルがあるはずだから、それを使えばいいと思います」
鞄から教科書や文房具、数時間前にかった例の本を全て出した。鞄の上に卵を置いた。そして、卵の下にタオルを置くと、しばらくそれを見守った。
九条の鞄がリュックサックでホントに良かった。何とか、この硬い地面の上で孵化させれずに済むだろう。
「そろそろだ」
二人は、卵を見守る。
パキッ!・・・・・パキパキ・・・・・
最初に卵から出てきたのは、黄色い口ばしだった。
次に、無理やり足から出てきた。きっと、足をバタつかせたのだろう。
前足は絵に描いてあったとおり、鳥の足。後ろ脚は獅子の物。
最後に鷲の翼と胴体。いや、胴体と言っても鷹の上半身に獅子の下半身だ。
鳴き声は何処となく鷲に近い物だった。
九条は急いで、タオルで濡れたその体を拭いた。
まだ幼いせいか、伝承とか例の本で見たグリフォンよりかなり可愛さがある。
近くに火があったおかげかすぐに体は渇き、翼も滑らかな羽が1枚1枚見える。
グリフォンは疲れてしまったのか、九条の鞄の上で眠ってしまった。
「これが・・・グリフォン・・・」
九条は体を触ってみる。とてもスベスベする。
前足の指にはすでに曲線に曲がった爪が生えている。
「しばらくすれば、彼女の人格も記憶も蘇るだろう」
「はい」
その夜は九条にとってすこしばかり優しい気持ちにさせてくれるものだった。