02話 悪魔を名乗る少年
終わった。短かった。この18年間短すぎた。
母さん、父さん、うう・・・・妹よ。僕は空から落ちています。
「・・・・・・・ぁぁぁぁああああぁあああああああああ!!!!」
「・・・・・・・ぃぃぃぃいややゃやややややややや!!!!」
空、いや森中に彼らの声が響く。これが奇しくも山びこのように何重にもなって聞こえてきた。
これも、運命なのだろう。致し方ない。諦めよう。
無理やり首を上に向けると、4~5本の鉄骨が二人に続いて落ちてくる。
そういえば、空を行き来するゲームがあったな。テーマは「空に落ちる」だっけ?でも、これって「空から落ちる」だろ。
九条は死を覚悟し、静かに目を閉じた。
風と落ちていく感覚を感じる。自分はこれから死ぬのかと確信した。
「デジネ!」
また、先ほどと同じ声が頭の中を走った。
すると、風やあの落ちていく感覚が消えていた。
「気分はどうだい?まぁ、この状況で良いと言う奴は珍しいか」
上空から聞き覚えのない少年の声が聞こえた。
九条はゆっくりとゆっくりと目を開けた。
「あの・・・・・大丈夫ですか?」
「あれー?第一声がそれ?!」
目線の先には中学生のそれとほぼ変わらない年齢の少年が宙を浮いていた。実際、少年の服装は学生服で髪は黒、見た感じだと日本人だ。
そして、少年の周りにはあの鉄骨が少年を囲む形で浮いていた。
「・・・・・・・・・・・・?!せんせー!ちょっと起きてください!」
しかし、返答がない。体が動かない事もあり、鮎川に触る事すらできず、位置を確認することすらできない。
周りを見渡す。全ての音が聞こえない。まるで、世界には自分しかいない。そんな感じだ。
ふと、右前方に鳥が見えた。が、こちらに気付かずに接近してくる。
「ぁ・・・ぁぁあああぶなぃ!・・・・・・・あれ?」
たしかにぶつかってもよかった。しかし、鳥は九条の頭の辺りで羽を広げた状態で停止していた。
まるで、時間が止まったように。
「あなたは誰なんですか?」
九条は、この状況を理解すべく九条以外に意識のあるこの少年に質問をする。
「僕は・・・・悪魔だ」
さぁ、問題だ。今、僕の頭の中には何個?があるでしょうか?
正解は僕にも分からないほどあります。
「やっぱり、頭、大丈夫ですか?」
「えぇ!そりゃないよ!全くもう、この状況、悪魔である僕以外に誰ができる?」
「僕・・・・・?」
「君、人間でしょ!」
二人は自分の事を「僕」と呼び、一人は「君」もう一人は「あなた」と呼ぶ。そして、九条を「君」と呼ぶこの少年は、自分の事を悪魔だと主張した。
確かに、自分にも鮎川にもできず、まさかこの目の前にいる鳥が出来なければ、この少年なのだろう。
「悪魔ってなのを証明できるのでしたら、僕らの上空にある鉄骨を排除してはもらえませんか?」
「無理だね・・・・」
そうか、さすがに無理か。もし悪魔なら・・・・あんなのもあったっけ?
「でしたら、3つの内の一つ目の願いを聞いてはもらえませんか?」
「無理だね・・・・・だって君らをここに送り込んだの僕だよ?殺すような事は出来ないよ」
僕らを送り込んだ?じゃぁこの世界はさっきまで僕らがいた世界とは別・・・という事なのか?
九条は少年の顔を見た。すると、少年の鼻から一筋の赤い血がたらりと流れてきた。
「あの・・・・・何を見てるんですか?・・・・・まさかだとは思いますが・・・」
「何を言ってるんだ!僕が美女のスカートの中身を見る訳がないだろ!」
手で鼻の下を急いで拭うが、まぁこの焦りだ。多分あたりだろう。
「と、とりあえず!戯言はここまでだ。そこの美女さんも起きてください」
とりあえずってなんだ?自称悪魔らしいが、思いっきり思春期まるだしだぞ?
少年が両手をパンパンと叩くと鮎川の意識が戻った。
「ああああ!・・・・・・・あれ?ここ、どこ?!・・・え?私、空を飛んでる?ってキャー!」
相変わらず忙しい人だなぁ。ってなんで叫ぶ必要があるのだ?空にいるのが怖いのならさっきの笑気は嘘になる。
「センセー大丈夫ですか?!」
「こっち見ないで!ちょっと恥ずかしい・・・・・から・・・・」
なるほど、どういう事か分かった。体勢が上下逆なんだな。た、確かに女性からしたら恥ずかしいだろう。少年の鼻血も説明ができる。
「さて、話を進めようじゃないか。彼にも話したが僕は君らの世界で『悪魔』と呼ばれる存在だ」
勝手に進めてろと、九条は半ば呆れながら少年の話を聞く。
「頭大丈夫?ボーヤ。親は何処にいるか分かる?」
「ボーヤじゃねぇ!・・・・・おっと失礼、本題に戻ります。君達はある目的のためにこの『異世界』に連れてこられました。まず、その目的から説明をしようじゃないか」
少年は鮎川の返答に強く否定し、強制的に話に戻すと周りにある鉄骨をまるで虫を叩くかのように弾き落とした。って結局、落としてんじゃねーか。
鉄骨は普通の中学生と思えないほどの力で飛ばされ、近くの森にすごい音で突き刺さった。
遠くで分かりにくいが、鉄骨が落ちた先から何十羽という鳥が飛んでいくのが見えた。
「目的っていうのはね、この世界はあまりに貧富の差が激しすぎる上、技術・知識・規則という物が成り立っていない。そこでだ。君らにはこの世界をパーフェクトチェンジして欲しいんだ」
最後のやつ、絶対言いたかっただけだろ。
少年は両手を大きく広げ、そう語った。悪魔なのに、なぜこんな事が言えるのか、二人には理解ができなかったが、鮎川には思い辺りがあるようだ。
「だが、君らにこのまま行かせるには言葉の壁が大きすぎる気がするんだよ。だから、自分で駄目だと思ったらこれを使って欲しい」
少年はそう言うと、輝く果実?を寄こした・・・が、忘れていた。時間が止まっているせいで、二人は動けないのを。
「ごめんごめん!今降ろすから」
そう言うと、少年は指をならした。その瞬間、二人の時間は戻り、傍にいた鳥も飛び始めた。
「って、ぇぇぇえええぇええええええええええ!!!!」
これも忘れていた。僕らは落ちていたのを。
運よく、二人が止まっていた位置は木からさほど高くない場所だった。
二人はそのまま、木の枝にぶつかりながら落ちていき根元で尻餅をついた。
「イッテーー・・・・・・。センセー・・・・は大丈夫そうですね」
九条が鮎川を見る頃にはもうすでに鮎川は立って尻から砂を落としたていた。
そして、落ちているその果実を拾った。
「金の・・・・・リンゴ?・・・」
「人間が知識を得、羞恥を知り、神から見捨てられた元凶の物。これは確実に君達の助けとなるr・・・・
「ちょっと待って!ボーヤ!君さっき自分の事を悪魔って言ったけど名前はなんて言うの?」
少年はまだ「ボーヤ」という言葉に抵抗があるようだが、すぐに「よくぞ言った!」という顔になった。
「んふーーー・・・・・。僕の名前はね『ルシファー』っていうんだ」
たまに、意味不な言葉が出てくるけど、実はある国の言葉を使っています。分かるかな?