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01話 運の尽き

 サバゲーを知っていますか?


 複数人が数日間、山の中で生き残るための術を競い合うゲーム。

 僕は大学生1年の18歳までそう思っていた。


 そう・・・・・・・・思っていたのに!


『はぁ?んな訳ねーじゃん!』


『お前の頭にはビービー弾詰まってねーのか?!』


 え?違うの?ビービー弾?何それ?!


『サバゲーってのはなー・・・えーと・・・お前知らね?』


『なんだよ・・・お前もあんま知らねーじゃん!サバゲーってのはな、ビービー弾で人を打ち合うんよ。分かる?』


 友人は手にマシンガンの型を持つマネを見せた。


「あーーー・・・・・・なるほど、分かったありがとー」


 その事を知った僕は、軽い絶望を感じた。


 そりゃそーだ。


 何年も前から「新人が物凄い!」なんて名声が欲しくて、いろんなサイトや本を読み漁ってきたというのに・・・・!


「そりゃないっすよーーー!」


 九条は甘酒を飲みながら、愚痴をこぼしていた。


「レイ君・・・君はホントに酒が弱いんだね。未成年だから甘酒なのに、それじゃぁオマワリさんに捕まっても私は何も言えないよ?」


 鮎川はニコニコしながら九条を見ていた。


「センセー!だってさー!僕のこの9年間返してくだしゃいよ!」


「9年間?!今まで、よく気付かなかったね!その天然は褒めてあげるよ」


「ハハハハ・・・・要りませんよ。どーせなら、この術を使える環境が欲しいもんだね!」


 居酒屋は大学に近く、二人でたまに寄り道する。

 大学の教授と生徒がこんなに仲が良くなったのは、少し前の話・・・。


 ~数日前~

「七つの大罪は、4世紀のエジプトの修道士エヴァグリオス・ポンティコスの著作に八つの「枢要罪」として現れたのが起源であり。つまり、「八つの枢要罪」という名前で通っていて、厳しさの順序によると「暴食」、「色欲」、「強欲」、「憂鬱」、「憤怒」、「怠惰」、「虚飾」、「傲慢」です」


 うん。分かんない。七つの大罪・・・・なにそれ、おいしいの?


 始まりは、この授業だった。僕の夢は発掘家で、宗教学の授業をとっていた。


「なー。あの先生、美人だよなー」


 いや、知らんがな。


「みんな言ってるぜ。こんな美人先生に彼氏がいないのかってさー?全く欠点がないよなー」


 隣でオスの本能むき出しのこの友人は僕について来て、この宗教学に入った。本人曰く、九条について行けば運気が上がるそうだ。もちろん九条にそんな気はないのだが。


「僕は、発掘して金貨だの宝だのを掘り出したいの。こんなのを聞くために宗教学をとったつもりはないんだけど」


 九条は、両肘をつけて教台にいる教師に見とれている友人に呆れながら教科書をめくる。


「なぁーー。あの美人教師を俺に紹介してくれよ」


「えぇーーー。接点も無い僕にどう紹介しろって言うんだよ。僕がお前に紹介するより、お前がいけよ」


「良いじゃん良いじゃん。一生のお願い!ね?」


 九条はため息をつくと、了解した。

 授業が終わると、昼休みの時、九条は研究室に向かった。


「しつれーしまーす。誰かー・・・。いませんかー・・・」


 部屋に電気はついてはなかったが、まだ昼休みのおかげで部屋全体は明るかった。

 辺りは、静かで机の上も資料やドアのそばには何か三つの頭の獣の模型やらがあった。それは、目線を上げないと頭が見えないほど巨大なものだった。


「でか・・・・?ケルベロス・・・・・?」


 模型の土台にはそう書いてあった。きっと、この獣の名前だろう。


「こんな生き物がこの世にいたっけ?」


 図鑑でもこんな生き物は見たことがない。見たのは、たしか・・・。


「この世にそんな生き物は存在しないしないよ!いたら、面白いけどねー!」


 どこからか、声が聞こえた。この声には聞き覚えがある。というか、まぁこの部屋に来たから分かっているのだが。


「えーと・・・。鮎川教授ですよね!・・・・って、どこにいるんでしょーか!ちょっと、話がしたいのですが・・・・!」


「ちょっと待って!はいはいはい。なにー?」


 鮎川は何重もの資料を束ねて持ってきた。

 資料は、どうも授業関係とは別物で、多分趣味だろう。


「あの・・・・・ケルベロスって・・・」


「あれに興味あるの?」


「へ?」


「ケルベロスってのはね!冥府の入り口を守護する番犬でね!あ、冥界ってのは地獄の事ね!それでね、神話におけるエピソードは多くないけど、ギリシャ神話って知ってる!それに、ヘラクレスが出てくるんだけど、ヘラクレスがケルベロスを捕えて地上に連れ出した話は有名なはずだよ。この際にねケルベロスは太陽の光に驚いて吠えて、飛び散った唾液から猛毒植物のトリカブトが発生したっていう話も残っているんだって。あとね、この模型見て!3つの頭があるよね。この三つの頭は一つずつ交代で眠るけどね、音楽を聴くと全部の頭が眠っちゃうんだー」


 鮎川は九条の目の前でまるで家族のように語った。


「あの・・・・・」


「でね!・・・・・ん?なに?」


「いえ・・・・・。こういうの好きなんですね・・・」


 鮎川のこの必死?さになんだか可愛さを感じた。

 九条がクスッと笑うと、鮎川がグイッと顔を近づけてきた。


「君、悪魔に興味はない?」


「悪魔・・・・ですか?」


 ちょっと、戸惑った。先ほどまで、この訳の分からない化け物の話を聞かされて、その上で悪魔って・・・・。


「その・・・・お言葉なんですが・・・・・」


「よし!決まりね!」


「え?っていうか、何が決まりなんですか?」


「いやー・・・ここに来る生徒なんて君くらいだ。ねー、私の助手にならない?」


 よく見れば、辺りは紙のたまり場だ。なるほど、これを整理して欲しいってことなんだな。しかし、助手か・・・・・。入学当時、なってみたいと思った事があるけど。まさか、このタイミングで来るとは予想だにしなかった。


「分かり・・・ました・・・」


「え!ほんとに?」


「その条件!として、ある友人と会ってもらいたいのですが・・・」


「いや」


 速っ!鮎川は九条の質問に即答で答えた。


「だって、君や君の友人みたいに来る子が多いけど、なぜかみんな逃げちゃうんだよねー」


 まぁ、理由は明白だろう。あのケルベロスの模型。2~3メートルもある。逃げるのは当たり前だ。


「その中で、君は逃げなかったしここに居て、私の話を聞いてくれる。私にとってこれ以上にうれしい事はないんだよ」


 鮎川の言っていることは一理ある。それに、この鮎川の嬉しそうな顔を見たら断れなくなった。

 半ば強引に九条は鮎川の助手にさせられてしまった。

 そして、鮎川と言うこの女性は僕らが想像する欠点のない女性ではなく、完璧な幻獣・悪魔マニアだったのだ。


 というのが、数日前の出来事だ。


 今は秋で、北風が冷たい季節だ。


「なんだよー。なに?俺は助手になる手伝いをしてた訳?」


「ごめん!でも、考えてたらお前の一生の願い、これで7回目だったわ」


「ひっでーww。こればっかりは許せんわ。お前に言わず自分から行けばよかったわ」


「それはどーだろww」


「どういう意味だよ。それ・・・・。まぁ、楽しめ、でも忘れんなよ!俺のおかげだってな?」


 電話を切ると、九条は本屋にい入って行った。


「えーっと、悪魔悪魔・・・・・・まぁこれでいいか」


 九条は適当に2~3冊を選ぶと、レジにて購入した。 


「3489円になります。・・・・おつりは11円になりまづ・・・レシートは?・・・はい。お買いあげありがとうございました」 


 アルバイトだろうか、机ばかりをみて九条の返事をするが、きっとマニュアルを読んでいるのだろう。なにかぎこちない。

 九条は本を受け取ると早々に店を出た。


「無駄なものに金を使っちゃった」


 ため息をつくと袋を目線から腰の高さに戻したが、やはり、鞄に入れた。


「無駄って何よ!」


 後ろから女性の声がした。振り返ると、そこには鮎川が半ギレで笑っていた。

 二人はまた、いつもの居酒屋に向かった。

 その際、近道だがビルの建設現場がある少し危険な道を通った。

 今日は少しばかり風が強い。都会では当たり前だが、


「そういえば、先生は嫌いな物はないんですか?」


「ライオン・・・・・いつかまえ、アフリカに出張した時、ライオンに車の中に入られそうになりかけて、追い出したらパンクさせられた。あれからホントに大っ嫌いなっちゃった」


「へー。意外ですね。悪魔みたいに存在しないが好きなのに、ライオンは嫌いなんですね」


「それは人それぞれでしょ・・・・・・・・・!!・・・危ない!」


 突然、突風が吹いた。

 その瞬間、クレーンが持ち上げていた鉄骨が斜め下に傾いた。傾きすぎた鉄骨はそのままバランスを崩し落ちて行った。

 まぁ、それが運の尽きという物だ。鉄骨は二人の真上に落ちていき、頭に突撃、腕は骨折、内臓はぐちゃぐちゃ・・・頭上の鉄骨を見たとき、二人は覚悟した。


「オルビス!」


 頭の中に意味の不明な言葉が走った。それは、聞き覚えのない少女の声で鮎川のものでも妹のものでもなかった。


「え?」


 二人に鉄骨がぶつかる。その瞬間。二人の真下に地面が崩れるように穴が開いた。

 穴は吸い寄せられるように鉄骨と共に二人は落ちていった。


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