プロローグ
某月、某日、とあるビルの一室に、二人は呼び出された。
一人は、黒のスーツで身を包んでいた。黒の帽子を深くかぶり、サングラスをかけていた。
もう一人は、黒のローブを羽織っている。フードで顔の八割を隠しているため、表情は読めない。
どちらも示し合わせたかのように黒一色だったが、案内された場所は全面が白で覆われた世界だった。
壁が白ならば、高い天井から降り注ぐ証明の光も鋭い白色光。部屋の中心には白いテーブルと椅子。
しかし、二人を出迎えたのは、白――ではなく、紺色のビジネススーツを着た男だった。
既に席に着いていた男に、二人は座るよう促される。
「この度は、インタビューを受けてくださってありがとうございます」
男は軽くお辞儀をする。やけにかしこまっていたが、決して慇懃無礼というわけではない。こういったことに慣れている様子が伺えた。
「礼は要らないよ。報酬分の仕事はする、それが我々のスタンスさ」
「そうじゃ」
黒のスーツがうそぶくと、黒のローブが頷いて見せる。どちらも、声は年端のいかぬ少女のものだった。
「こちらの自己紹介は、お二人とアポを取ったときにお済みですので、省略させていただきます。スーツの方が朧さん、ローブの方が死生堂さんでよろしいでしょうか?」
「問題ない。名前など所詮個人を識別する記号に過ぎない。好きなように呼びな」
「いかにも」
朧と死生堂の主は一様に同じ反応をした。報酬――つまるところ、謝礼金は既に二人の懐に入っている。
『朧』と『死生堂』。この街の裏社会を知り尽くした二人を動かすために、どれほどの金額を必要としたのか。今回の件を任されたとはいえ、所詮は末端の存在であるインタビュアーには、想像もつかなかった。
「さて、早速ですが本題に入らせていただきます。今回、お二人をお呼びしたのは――」
「三剣事件だろ?」
説明するより早く、朧が口を挟む。
「他の者は、あまり今回の出来事を話したがらない。いくら大金を積んだところで、だ。なるほど。私たちのように、金を積めば敵にも味方にもなる不安定な存在が、こんなときばかりは役に立つ」
「確かに、私達が接触した人間はかなりにガードが固かったです。会えた人物もいれば、門前払いになった場合もありました」
「三剣やワルキューレなどは会えなかったじゃろう。秘密裏に処理したかろう」
「そこで、お二人を探させていただきました」
一息置いて、インタビュアーは言葉を続けた。
「三剣事件とは、一体何だったのでしょうか?」
朧と死生堂は、わずかに視線を交わした後、答える。
「そんなもの、」
「知るわけがないじゃろう」
「何故なら、」
「あれは、」
「「あの六人にしかわからない」」