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第1章 まずはラインから

それは仕事中に起こった。

ゴミ捨てに行く途中、同じフロアで働く背の高い細身の彼、多分、若い。ユイより随分と、、、でも、ユイには関係ない、好きになってしまったのだから、未婚だし、一回り以上年下だろうと、彼女の恋愛を阻むものは何も無いようだ。


それは偶然だった。

近くに来た際、彼が眼鏡を外した。目が合った。

軽く会釈する、お互いに。

彼は100円ショップで最近働き始めたらしい。

突然目が合った彼に、ユイは一目惚れしたのだった。


しかし彼はどう見ても若い、もしかしたらまだ未成年かもしれない、二十歳だとしても17歳も歳の差がある。


ユイは冷静に、誰にも悟られないよう、彼に一目惚れしたまま、二年間思い続けた。


そのうち、もしかしたら、彼に気持ちを伝えたら、彼女にしてもらえるかも?

もしかしたら、彼は運命の人かも。

もしかしたら、彼は若く見えるだけで、アラサーくらいかも?


ユイは自分に自信があった。

長い黒髪、インドア派の為シミの少ない色白の肌。体重は50キロ無くスリムで、常にミニスカートを履き、脚には自信があった。

大抵の人に、実年齢より若く見られる。

たまに20代と言われることもあるし、女としても自信があった。


そんなある時、彼が、ふらりと、ユイの働くアミューズメント施設に遊びに来た。

1人で、休憩時間に、どうやら興味のある景品があったらしい。


ユイはチャンスだと思った。

同じ大型スーパーの同フロアで働くもの同士、軽く話しかけても問題ないはず、ユイは、UFOキャッチャーで悔しい思いをしている彼に話しかけた。


「初音ミク好きなんですか?」

彼が今チャレンジした機械の中には、緑の髪の女の子のぬいぐるみが沢山入っていた。

彼は、鎖骨まで伸びた髪をスッとかきあげ顔を上げてユイを見た。

とても色白だった。もしかしたらユイ以上に色白かもしれない。少し控えめなウサギのようだと、ユイはドキンドキン胸が高鳴った。

「はい、好きなんです」

と言うと、手に持っていた財布を見せて来た。そこには、いま目の前にあるぬいぐるみと同じ容姿の女の子が描かれていた。

「好きだから、財布も初音ミクです」


ユイは喜んだ。彼と近づく良い理由が出来たからだ、ユイはアミューズメント施設で働いていた為、初音ミクのフィギュアを持っていたのだ。


「初音ミク好きなら、明日の夜、仕事終わったら渡したいものあります」


ユイは初めての会話なのに、些か大胆かと思ったが、彼と近づくチャンスを逃さまいと続けた。

「前に、初音ミクのフィギュア取ったんだけど、邪魔になっちゃってて、好きな人に貰って貰いたいから」


「いいんですか?」

「うん、いいよ」

「ありがとうございます。じゃあ頂きたいです」

「じゃあ明日持ってくるね」

ユイは、数秒間を持て余してから勇気を出して続けた。

「あ、じゃあ、ライン交換しませんか?」


ヤッタァ。ユイはニヤニヤと破顔しそうになるのを、冷静に我慢し、じゃあ、と100円ショップに戻る彼の後ろ姿を見送った。

手にはスマホ、2年も片思いした彼の連絡先を、思いかけず手に入れ、嬉しくて泣きそうになるほどだった。



ユイの職場には、5人のスタッフが居た。2歳年上のユイと似ていると噂の既婚女性。ワイさん。

母よりは若いが50代の息子さんが2人いる既婚女性。エスさん。

一回り程若い25歳の男性。ユイと同じ実家住まいのフリーター、O君。

あと1人が、最近入った引きこもり歴のある23歳の若い女の子である、エヌちゃん。


あまりの展開に、誰かに話したくて仕方がなかった。それに、久しぶりの恋愛に、アドバイスも欲しかった。

ユイの頭の中は、もう次々と2人の間が進展し、彼ともっと親しくなりたいと言う願望で張ちきれんばかりであった。


初めてのラインなんて送ろう?


勤務中であるにもかかわらず、平日の2時、お客さんは皆無で、そのうち赤字で潰れるんじゃないかと心配になるほどだ。

本来なら、仕事に打ち込むべきだが、ユイは仕事なんかそっちのけで、如何に、手に入れたチャンスを自然に生かして、もっと親しくなれるかだけに熱意は注がれていた。


彼は初音ミクが好きだと言ったうえ、初音ミクの財布も持っている。きっとオタクっぽいに違いない、そこで、勝手に漫画やアニメに声優にまで詳しい、O君と、たまたまその場に居たワイさんに、ユイは話した。


「実はわたしゼリアの彼にトキメイてるんですよぉ。で、今日、初めて話したんです。で、で、で、さらに、なんかラインのIDも聞いちゃったんでも、歳の差が凄いから、どうしたらいいと思います?」


突然の話題に、わたしは大きな声をあげてしまった。

「え⁉︎本当に⁉︎ちょっとビックリなんだけど…」

そうして私は、ユイの恋愛を、O君と一緒に応援する日々が始まるのであった。

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