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独身貴族、婚活のすすめ  作者: 夕焼け
4/11

伯爵と私 2

 姿絵で見た平凡顔が目の前に居る。


 じゃあ、私をB級ホラーよろしく追い掛けて来ていたモンスターは?


 逃げ込んだ先に今回の見合い相手とそっくりな人間が立っている。これはあれか、恐怖の余り幻覚でも見てるのか?

若干の現実逃避をしながらステファニーは改めて部屋の様子を伺った。


 どうやら誰かの部屋らしい。続き部屋への扉が見える。その先は恐らく寝室だろう。



「あんた、誰?」


 幻覚が話し掛けてきた。

 ステファニーは自分の頬を(つね)って幻覚を消そうと試みた。


「痛い……つか、消えてない。幻覚じゃない?」


「何言ってんだ?僕は現実に存在する人間だ」


「ごめんなさい。さっきまで世にも恐ろし肉ダルマモンスターに追い掛けられてたから現実とは思えなくて。」


「その肉ダルマモンスターとやらに心当たりがある。そいつは人間で、ついでに言うと僕の父だ。」


「本当に?」


「本当だ。」


「ファイナルアンサー?」


「よく分からないが、ファイナルアンサー。」



「……」


「……」




「えええええええぇぇぇぇ!?」



 ステファニーは(あご)が外れるくらい口を開けて驚いた。あれがモンスターでなく人間って事に。




 姿絵の幻覚はプラム伯爵令息カール・プラム本人だった。そしてステファニーを自称恋愛ファンタジー風味小説のラブリーヒロインからB級ホラー映画のヒロインに引きずり下ろしたモンスターは彼の父親、ブラッド・プラム伯爵68歳(まだまだ現役)だったのだ。







「いやあ、申し訳ない。息子は極度の人嫌いでな。人の多い所には出たがらないので、我が邸なら大丈夫かとステファニー嬢をお招きしたんですが、息子がなかなか部屋から出て来ないので、まずは父親である私からステファニー嬢に御挨拶をと思いまして。」


「その割にはいきなり隣に座って私に触れようとしたではないですか!」


 先程の恐怖体験を思い出し、震えを誤魔化すようにキツく伯爵を問い詰めるステファニー。


「ブヒッブヒッブヒッ。美しい花を見るとつい寄って行きたくなるのは蝶の(さが)ですよ。」



 脂汗を拭きながら説明するのは、肉ダルマモンスター改めブラッド・プラム伯爵。自らを蝶に例えるとは鋼の精神の持ち主のようだ。




 あれからカールとステファニーは二人で客間に戻り、お見合いの仕切り直しをしたのである。

 因みにプラム伯爵が肉圧で破壊した長椅子は使用人達に片付けられ、今は新しい長椅子にステファニーは座っている。

 彼女の向かいには、100人乗っても大丈夫!イ〇バ物置ばりの補強された椅子に座るプラム伯爵と隣には不機嫌さを隠そうとしない顔の見合い相手カールが普通の椅子に座ってお茶を飲んでいた。




「それでは改めまして、ブラッド・プラムです。こいつは息子のカール。ほれ、カール御挨拶せんか!」


「……カール・プラムです。」


 めっちゃ嫌そうな顔してるんですけど!結婚の申し込みってそっちからだったよね!?

 私?私何かした?あれか?部屋に勝手に入ったから?エロ本でも読んでたの!?

 モンスターに追い掛けられてたんだから不可抗力よ。


 カールの素っ気ない態度に顔が引き攣るのを我慢しながらステファニーは挨拶を返した。



「え〜、それでは、ゴホン。後は若い者同士二人で話してくだされ。私はこれから取引先と打ち合わせがあるので失礼します。どっこいしょっと。」


 プラム伯爵はあからさまに嘘と分かる言い訳をして二人を残して部屋を出て行った。

 正確には部屋の扉は開けてあるし会話が聞こえない程度の距離には侍女が控えてるのだが。



「……」


「……」


「……」


「……」


 きっ、気まずい。

 どうして何も言わないの!?

 こういう時って普通、「ご趣味は何ですか」とか「好きな物は何ですか」とか聞かない?

 えぇ〜、私から話し掛けなきゃだめな感じ?

 はぁ、これ帰ってもいいかな。もう疲れて何もしたくないよ。

 仕方ない、このままだと埒があかないから私から話し掛けるか。


 ステファニーは気まずい空気を打破する為にカールに話し掛けた。



「あの、カール様の好きな物は何ですか」


「あんたに言ってどうなる?」


「ご趣味は……?」


「それを知ってどうする」


「今日はいい天気ですね」


「いい天気って何?晴れの事?誰が晴れをいい天気って決めたの?」




 ステファニーが質問する度に返ってくる言葉がどれも挑発的で彼女をイライラさせた。

 その内ネタも尽きてきてステファニーは目に付く物を褒め始めた。


「素敵な椅子ですね。座布がとてもいい感じ」


「成金趣味っていいたいんだろ。あんたは由緒ある侯爵様のご令嬢だもんな。」



ブチィィィッ


 彼女の中で何かがブチ切れた。

 今日は一日散々な目に遭っていたので、ステファニーの我慢も限界に来ていたのだ。



「さっきから何なの!?口を開けば捻くれた返事ばかり!成金?それの何処がいけないの?結構な事じゃない。歴史や血統だけを大事にして領民を蔑ろにするバカな人達よりもずっといいわ!私が気に入らないなら結婚の申し込みなんてしなければよかったのよ!!私は帰らせて頂きます!」


 今までの不満を言うと席を立ち扉へと歩き出すステファニーにカールが慌てて止めに手を伸ばした。


「ま、待ってくれ!違うんだ!」


「何が違うのよ!冷やかしなら結構!離して!きゃあっ!!」


 出て行こうとするステファニーの手をカールは必死になって掴み、力いっぱい引っ張った。急に引っ張られてバランスを崩したステファニーはカールの方へ倒れ込んで勢い余って二人は倒れ込んでしまった。


ガタッ ドサッ ぶちゅっ


 倒れた拍子に二人の唇がぶつかった。

 所謂ラッキースケベである。



「……」


「……」



「うわああああああああ!!」



 慌てて二人は距離を取ったがキスをした事には変わりない。側で控えていた侍女もあまりの出来事にオロオロしている。


 因みに、叫んだのはカールの方だ。



 ステファニーは一瞬、何が起きたか分からず惚けてしまったが直ぐに正気を取り戻しカールの方に向いた。

 カールは真っ赤な顔をして口を右手で押さえている。

ステファニーはどうしていいか分からなかったが、とりあえずカールに声を掛けようと少し近付いた。


「カール様、あの……」


「……てだったんだ。」


「?カール様今なんて?」


「初めてだったんだ。」


「何がですか?」


「……キス。」


「はあ、キスしたの初めてだったんですか。……………………………………………。ええぇぇぇ!?待って待って。初めてって、あなた歳いくつなの!?」


 予想外の返答に思わず素になって大声を出すステファニー。この屋敷に来て淑女の仮面は捨ててしまったようだ。


 カールは不貞腐れ気味に答えた。


「35」


「は?」


「35歳だよ!」


「35!?3と15じゃなくて35!?ファーストキスが35!?」


「35、35連呼するな!悪かったな35でファーストキスなんて。ああああああ!!初めては好きな人と夜景の綺麗なテラスか薔薇庭園の恋人達の愛のアーチの中と決めてたのにぃぃぃ!!」


「十代の乙女か!!」


 カールの開き直った返事に思わずツッコミを入れるステファニー。



 これは、前の世界で言うチェリーとか魔法使いとか言うやつか。

 マジかー、マジですか。前の世界でもお目にかかった事無いですよ。

 天然記念物?保護対象?ごめんなさいねー。大事にとっておいた初めてを奪っちゃって(棒)。

 私もこの身体ではファーストキスだったんだけど。

 なんだか遠い所まで来ちゃったなー。



 (本日2回目の)どっと疲れが出たステファニーだった。
































今時、ファイナルアンサーって知ってる人いるのかな

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