スキル『リバース』で異世界最強?
『リバース』って言葉の響きかっこいいよな、と思ったので書きました。後悔はしていない。
マイルドな表現にしたつもりですが汚らしい物体の描写があります。不快に感じる可能性があるので気を付けてください。
「チクショオオオオオオォォォ!!!」
俺は反町天。
普通のサラリーマンとして過ごしていたがとある事故によって命を落としてしまった。
「ふざけんなああああああぁぁぁ!!!」
死んだ後、気が付くと真っ白な空間に神様がいた。
そこで俺が死んだこと、死に方があんまりだったから魔法が存在する異世界で第二の人生を送らせてくれることを聞いた。
しかも特別なスキルを持った状態で異世界に行かせてもらえるそうだ。
スキルの名前は
「なんで『リバース』なんだよおおおおおおぉぉぉ!!!」
スキルの名前は『リバース』
前の世界での死因は
『酒を飲みすぎて吐いたゲロに足を滑らせ頭を打って気絶しそのままゲロに塗れて呼吸困難になった末の窒息死』
神様の最後の言葉は
「君にぴったりのスキルだよ(笑)」
だった。
「はぁはぁはぁゲホッ、あーのどいてえ」
叫びすぎたせいで喉に相当なダメージが……
思わず叫び散らかしたけど誰か見ていたらどうしよう?
人気のない森の中だからたぶん大丈夫だとは思うけれども……
まあいい、とりあえず落ち着こう。
余りひどい最期を迎えてしまったこととかクソジジイの神様の悪ふざけは忘れることにする。
せっかくのもらった第二の人生、楽しませてもらおう。
「うしっ、それじゃあ気を取り直して、現状確認から始めよう。まずは身体に変わったところとか異常がないかチェックだ。身体能力の強化とかオマケしてくれてないかなー多分ないよなー」
なかった。
身体能力の他にも色々確認してみたが人種が変わっているとか若返っているとかなんてことはなかった。強いて変わったことをあげれば着ている服が『ぬののふく』になっていることくらいだ。
「まあ異世界トリップもので身体が変わるパターンはあまり見ないしな。じゃあ次はメインイベント、スキルの確認をしよう」
できなかった。
手をつきだして「『リバース』!」と叫んでみたり精神を集中させて魔力を感知できないか試してみたりしてみたけど何も起きなかった。
本当にスキルあるんだよな?
ちなみにこの世界にステータスとかは存在しないらしい。
と、言うか神様がステータス作るのが面倒だから作っていないそうだ。適当すぎる。
せめてスキルの使い方なり効果なりを教えてほしい。
俺は使う前に説明書読み込むタイプの人間なんだよ、適当に使ってみればわかるとか言うヤツのことはマジで理解できない。
「あーそういえば運命操作してテンプレ通りにするって言ってたから、そのうち盗賊に襲われてる商人にでも遭遇するのかな。はあ、それじゃあとりあえず道っぽいものに沿って歩くことにするか」
この後盗賊達にスキルを使って無双する展開に、なったらいいな。
「ん?本当にテンプレ展開きたか」
しばらく歩いていると叫び声が聞こえたので、歩く速度をあげて進むと10人以上の男たちが馬車を取り囲んでいるのが見えてきた.
「うわぁ、多いな………」
俺の装備はその辺で見つけた手ごろな長さと太さの木の棒。対して盗賊たちは長さや大きさは違えども剣やナイフ等の刃物を持っている。
どうしよう。
このまま戦っても勝てる気はしない。けど助けないと街にたどり着けなくなって野垂れ死にしそうなんだよな……
うーん、まずは茂みに隠れながら近づいて様子見するか。
「さて、特に問題なく馬車の近くまでやってこれたが……ここからどうしよう」
茂みから除くとうずくまった男女と盗賊のリーダーっぽい男が酒を飲みながらご満悦の表情を浮かべているのが見える。
うずくまっているのがほぼ間違いなく馬車の持ち主だろう。見たところ大きな怪我はしていない。
他の盗賊たちは前の方にある馬車でゴソゴソしているのが見える。荷物を物色していているのだろうか。
馬車まで数5m。
飛び出して奇襲は……無理だろうな。1人2人倒せれば上出来ってとこだろう。
「となると『リバース』を使うしかないよな……」
でもさっき試してみても使えなかったんだよな……
人間相手限定で使えるとかあるかもしれないが。
うーん……
よし、決めた。『リバース』が使えたら戦う。ダメなら逃げる。
それで行こう。
それじゃあ早速
いくぜ!
「くらえ、『リバース』」
右の掌をつきだしてぼそっと叫ぶ。
バレたら大変だからね、声量は小さ目で。
さあ、どうだ?
「へっへっへ、オーイおめぇらさっさと運ばないとオロロロロロロ」
「うわっ汚な!」
盗賊リーダー(仮)が突然吐き始めた。
これは
つまり
ユニークスキル『リバース』の効果は
「人を強制的に吐かせるスキル!?」
「オロロロロロロロ」
「………」
四つんばいになってゲロを吐き続ける男とそれを眺める俺。
なんなんだこのシュールな状態は。
しかし『リバース』ってそういう意味かよ。
いや、ゲロで死んだ俺にぴったりなスキルなわけだからある意味納得だけど
いや納得できねえな!
でもよくよく考えると結構エグくないか?コレ。
武器を放り出すほどの吐き気を戦闘中に与えるのはかなり効果的だぞ。
あ、吐くの終わった。
多分胃の中全部出し切ったんだろうなー。
じゃなくて!
「て、てめえ……はぁはぁ……なに、しやがった」
マズいな、俺がやったってことバレてる。フラフラしながらも剣を持って立ち上がろうとしているぞ。
ヤバイ、今の内になんとかしなくちゃ。
慌てて持っていた木の棒を握りしめて猛ダッシュ。
走り幅跳びの要領で飛び出し、木の棒を顔目がけて
振り下ろす!!!
「ガハッ!」
「ふぅ、危ないところだった」
のんびり考え事してる場合じゃなかったな。
盗賊リーダー(仮)の様子を確認してみたが完全に気絶している。
よし、とりあえずこれで一難去った。
「頭、今の声は!?テ、テメエ何してやがる!」
と思ったら別の一難が。
思いきりぶっ叩いたせいで手が若干しびれているが最初の不安はもうない。どんなに戦闘経験の差があろうともゲロ吐きながら戦えるヤツはいないだろ。
「よっしゃあかかってこい!地味にエゲつないスキルで全員ぶっ倒してやる!」
イヤ、正直ね。ゲロのせいで死んだのにゲロ吐かせるスキル与えるとかあのジジイ何考えてるのかと思いましたよ。
ふざけんな、ってね。キレようかと思いましたよ。
見てくださいこの惨状。
10人以上いた盗賊が俺一人の力で全滅ですよ。全滅。
『リバース』使って四つんばいになったところにフルスイング。
これだけで勝てました。
一切怪我をしないスマートな戦いができたぜ。
………そこらじゅう吐瀉物塗れだけどな。
うっわ、すっぱい臭いがスゴイ!
あーやべ、貰いゲロしそ。
あ、助けた男の人が貰いゲロしてる。
ス、スマン。
と、とにかく。ここから俺の異世界俺TUEEEが始まるのだ。
きっと。
「おじいちゃーん。おーきーてー」
「ん?ああ、ナナミか。おはよう」
ずいぶんと懐かしい夢を見ていた。こっちの世界にきたばかりのころ、まだスキルもまともに使えなかったことの夢だ。
「今は昼過ぎだからおはようじゃないよ。もうっ、おじいちゃんお昼寝ばっかりしてるんだから。」
ほっぺを膨らませて怒っていているナナミはいつも元気で可愛い自慢の孫で、目に入れても痛くないという言葉を本気でそう思えるほど可愛がっている。
「ははは、ゴメンゴメン。それで、どうしたの?」
「なんかね、ギルドマスターって人がおじいちゃんにお話があるんだって」
「はあ、またか。俺はもうとっくに引退したってのに」
「あー、アタシ知ってる!おじいちゃんS級冒険者なんだよね。しかも『反転』っていう二つ名まで持っててスゴイんだよね。いいなーアタシもなりたいなー」
ナナミがキラキラとした目をしてこちらを見ていて思わず苦笑する。
最初はゲロを吐かせることしかできなかったなんて夢にも思っていないんだろうな。
『リバース』は使い続けることで進化していった。
はじめはゲロの吐かせ方が変わる程度だったが、最終的には時の流れや生死を反転することができるようになった。まあ、あまりに強力すぎるし疲れるからめったに使わないけどな。
「元S級な。あと、その二つ名は恥ずかしいからやめてって言っただろ」
「えーかっこいいのに。あ、そういえばこの前ゴードおじさんから聞いたんだけど、昔二つ名以外に呼ばれていた通り名があるんだってね。」
「通り名?」
ゴードおじさんというのは俺が最初に助けた商人の男の一人だ。あれ以降も色々と世話になったり困っていたら助けたりしていてお互いに引退した今でも仲の良い友人だ。
しかし昔呼ばれていた通り名か、何かあったかな?
「えーっと、たしか、『吐き気を催す邪悪の権化』」
「ブフゥッ!」
突然の黒歴史を暴露されて思わず吹き出してしまった。
なぜその通り名を……
『吐き気を催す邪悪の権化』
俺が若いころ裏社会で呼ばれていた通り名だ。
胃の中身がなくなっても吐かせ続ける『インフェルノ・リバース』
吐いたゲロを胃の中に戻す『ゲロ・リバース』
『リバース』は日に日に進化し強くなったが、この2種類の『リバース』が特にヤバかった。
この二つのスキルを交互に使うことで永遠にゲロを吐かせ続けることが出来た。その苦痛はとてつもなく拷問に耐える訓練をされた者が泣いて許しを請うほどで情報を吐かせるために何度も使っていた。
そのせいか気が付いたころには『吐き気を催す邪悪の権化』と呼ばれていた。まあ、その通り名を呼ばないように話し合いをしたからすぐに呼ばれなくなったが……
「おじいちゃん?おーじーいーちゃーん。聞ーこーえーてーまーすーかー?もういいや・本当に呼ばれてたかどうかお父さんに聞いてくるね」
「ハッ。ナナミ、ちょっと待て、それはダメだ。ナナミ!ナナミーーー!!!
くそっ!俺の黒歴史をほじくり返されてたまるか!
時よ反転しろ『タイム・リバース』!!!」
本当はゲロを吐かせるだけのスキルにしたかったのですが、それだけで最強になれるのか?と思ったので最終的に時間を『リバース』しました。
ぶっちゃけ半分くらいは「吐き気を催す邪悪」ネタをやりたかっただけです。権化は付けないと通り名っぽくないなと思ったので付けました。