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やる気なし勇者の異世界道  作者: 国衣任谷
終章
56/57

説明

 雄哉自身はあまり感動の再会などと思わなかった。

 久しぶりに旧友と会ったかのような。少なくとも涙を流しながら抱き合って喜ぶような展開は待ち受けていなかった。


「えっと……久しぶり、母さん」

「雄哉、あんた……」


 部屋の中に静寂が訪れる。

 雄哉が母と呼んだ女性はまだ現実に焦点が合っていないのか、開いたドアの内側で固まったまま雄哉、鈴、そしてメイド服の少女美咲を順番に見て行き、至極当たり前の質問をした。


「今の今まで、いったいどこで何をやっていたの?」

「え? あー……話せば長くなるんだけど。とりあえず、ただいま」

「…………おかえり」


 女性は涙を流しながら、その場に崩れ落ちた。



 まずは色々な方面に連絡をする前に、しっかりと話し合いをすることとなった。

 雄哉の母、武山栞はリビングに降りるとまずは4人分のお茶を入れてダイニングテーブルの椅子に腰をかける。3人もそれに習い、栞の隣には鈴が、向かいに雄哉、その隣に美咲が座った。

 いまだに正常な判断能力を取り戻せていないようで、栞は一口お茶を口に含んでから言った。


「色々と言いたい事が山ほどあって何から話せばいいのかまったくわからないのだけど。とりあえず最初に聞いていいかしら?」

「どうぞ」

「その女の子は誰?」


 栞からしてみれば、今まで一人で過ごしていた家に突然3人もの少年少女が現れた時点で常識の範疇を超えている。不法侵入、マジック、魔法。いずれにせよとにかく日常から外れた何かしらの出来事だった。とはいえ、3人中2人はよく知る人物だった。何を隠そう自分の息子と、その幼馴染である隣の家の娘なのだ。息子は一年間行方不明、隣の家の少女も雄哉を探して日本中を旅していたと聞いていたが、二週間ほど前から消息不明であったため、唐突に家の中で出くわせば驚くに決まっている。とはいえ、それらを総合しても、どちらかと言えば驚愕よりはすべてを吹っ飛ばして再会を喜ぶところである。

 しかしだ。見ず知らずの赤の他人で、しかもメイド服を着た少女が家の中にいるとすれば話はまったく別だろう。その子は誰で、いったいどこから連れてきたのか、そしてなぜメイド服を着ているのか小一時間は問いただしたくなるのも当然である。

 雄哉は母が抱えているであろうその辺の心境をなんとなく察して答える。


「本当に話すと長くなるんだけど、簡単に答えるとこいつは……えっと、美咲って名前で、孤児で……俺が拾って……そのまま連れてきた、って感じか?」


 嘘はついていない。美咲は確かに両親を失っており、金銭のやり取りはあったが拾ったことにかわりはなく、異世界からここまで連れて帰った。

 その説明を受けて、栞は美咲の姿を見る。

 メイド服である。ご丁寧にヘッドドレスまで頭にちょこんと乗っている。


「じゃあ、どうしてメイド服を着ているのかしら」

「……正直に言おう、趣味だ!!」

「えぇっ、趣味だったんですか!?」


 ここにきて美咲が衝撃の事実に抗議の声を上げるが、雄哉はそれを無視。

 話を次に進める。


「とにかく、悪い子じゃないんだ。というか、俺が拾わなかったら死んでた。それは間違いない」

「……そう。ならこの話はとりあえず置いておいて、本題に入りましょう。雄哉も、鈴ちゃんも、いったい今までどこで、何をしていたの? いったいどれだけ心配したと思っているの?」

「ごめん……」

「ごめんなさい……」


 2人は素直に謝罪した。実際のところ彼らはまったく悪くないのだが、親に心配をかけたというのは確かなのだ。それが筋というものだろう。


「それと雄哉……その格好、どうしたのよ。制服がボロボロで汚れ放題じゃない」


 この言葉に、事情の説明に入ろうとした雄哉は頭を悩ませた。

 制服がもう買い換えるしかないほどにボロボロなのは異世界で魔物と戦っていたからだし、汚れに至っては自分の血である。その事実を知れば、栞はぶっ倒れてしまうかもしれない。

 また、異世界で起こったあれこれを話すのはいいが、信じてもらえるかどうかは怪しいところだ。この世界で雄哉は一年間どれだけ探しても出てこなかった人間がひょっこりと現れたという扱いになっているだろうが、これは「長い家出」と説明しても通ってしまうのだ。異世界がどうのこうのと話しても、戯言だと切り捨てられてしまう可能性は十分にありえる。

 そこで、雄哉は百聞は一見にしかずということわざを思い出す。


「その辺の説明をするにあたって、見て欲しいものがあるんだけど」

「見て欲しいもの?」

「これ」


 雄哉は右手を差し出し、手のひらを上に向けて――――直径10センチ程度の火の玉を産み出して見せた。

 そう、火属性魔法である。しかもライターで作り出す貧弱な火とは違う、燃え盛る炎だ。

 栞はそれを見て、盛大にお茶をこぼしながら椅子から転げ落ちた。


「キャァッ!? な、なに、それ! 手品、マジック!? あんた、いつの間にそんなのを覚えて……」

「違うって、これは魔法。タネも仕掛けもない、本当に起きてる現象なんだ」

「ま……ほう……? それってどういう……」

「母さん、信じて欲しい。俺は一年間、異世界にいたんだ」

 

雄哉は真剣に、情報は小出しにしながら理解できるように、異世界へ行った出来事を最初から最後まですべてを説明した。

 学校の屋上で授業をサボっていたら、異世界に連れ去られ。

 元の世界に帰る手段がなく、なんとか生きていくために冒険者となり。

 そんなときに美咲という奴隷を買い。

 魔物と戦って、師匠との修行を経て強くなり。

 それでも死に掛けて、突然現れた鈴に命を救われ。

 なんとか自力で帰還の手段を見つけ、帰ってきた。

 長かったような短かったような、そんな日々を淡々と語る。

 すべてを話し終えたとき、栞は黙って立ち上がり、場所を移動して雄哉の体を抱きしめた。


「……そう。とても信じられないけど……もし本当なんだとしたら……よく頑張ったわね」


 栞は知っていた。雄哉は面倒くさがりで、サボり癖のある不真面目な人間だと。自分が産んで育てた子供であるがゆえに、誰よりもよく知っていた。

 だからこそ言える。異世界へ行っていたということが事実なのだとすれば、雄哉は以前の生活からはとても考えられないほどの努力をしたのだと。

 そして、おそらくこれは本当のことだろうと栞は直感していた。

 抱きしめた感覚でわかるのだ。わずか一年見なかっただけで、体は尋常ではないほど逞しくなっていた。服はボロボロだが、明らかに転んだとか喧嘩したとか、そんな生易しい痛み方ではない。殺意を持った攻撃を受けた結果である。白いシャツにこびりついた汚れは血に違いない。

 相当な修羅場を経験したであろうことは、目を見ればわかる。

 栞は続けて言った。


「今日はお祝いしましょう。あんたと鈴ちゃんが無事に帰ってきたお祝い。美咲ちゃんのことは私に任せなさい。何が何でも家に置いてあげるわ」

「ありがとう、母さん」


 こうして。

 3人は無事に、この世界へと受け入れられた。



もうちょい……もうちょいで完結できるで……

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