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やる気なし勇者の異世界道  作者: 国衣任谷
三章
53/57

転移魔法

 ◇◇◇◇


 雄哉が文献で発見したのは具体的な元の世界への帰還方法ではない。転移魔法と呼ばれる、いわゆる瞬間移動のような効果を持つ闇属性魔法についての記述だった。

 そもそも、世界を転移する魔法、つまり召喚魔法は火、水、土、風、光、闇、無の7属性のどれに当てはまるのかという疑問が雄哉の中にはあった。雄哉と鈴が元いた世界とは違い、科学ではなく魔法が発展したこの世界において、やはり魔法にはルールがあり法則が存在する。魔素を魔力へと変換し、魔力を燃料として魔法を発動するという一連の工程もそれにあたる。

 そして法則の一つに「魔法には必ず属性が付加される」というものがあった(無属性を属性と呼べるかどうかは怪しいが、6つのうちどれにも当てはまらない属性であるために無と名付けられているだけであり、一応は属性扱いされている)。炎を出す魔法は火属性、水を出す魔法は水属性といったように、魔法は必ず各属性に分類することができる。ならば召喚魔法にも必ず属性があってしかるべきなのだ。

 だが。勇者召喚儀式魔法というミリンダスト王国のカルテリオ城にしか備わっていない魔法、および魔法陣は500年どころか1000年、下手をすればそれ以上前に作られたというあまりに古いものであり、科学的な言葉を拝借するならばロストテクノロジーと言える。組み込まれている魔法陣の解析はままならず、謎があまりにも多いのだ。ゆえに国王も「こうすれば使える」という代々受け継がれてきた使用法は知っていながら、召喚した後の勇者をどうするれば帰還させることができるのかは全く分からなかった。

 根本的に召喚魔法とは、どういった仕組みでどのように動いており、どんな属性なのかは完全にブラックボックス状態なのである。

 しかし、先ほど雄哉が発見した転移魔法。これは召喚魔法を紐解く鍵となりえた。

 聞き取り調査をしていたヨルキとなんとか隙をついて逃げてきたらしい鈴と合流し、図書館内の机に一枚の紙を置き、雄哉は説明を始める。


「例えばA地点とB地点があるとして……その間には必ず距離があり、空間がある。たどり着こうと思えば歩くなり馬車に乗るなり飛んでいくなり、とにかく移動しないといけない」


 鉛筆で黒塗りの小さな点を書き込み、少し離して別の場所にもう一つの点を書く。それぞれの点にA、Bと割り振り、直線でつなげた。


「で、闇属性の転移魔法ってのはこういう仕組みで瞬間的な移動を可能にしているらしい」


 次に、Bと書いたほうの点を中心に、Aまで伸びている直線を半径とした円を描き――その中をザッと黒色で完全に塗りつぶした。

 紙には黒い大きな円だけが残り、その上に雄哉は新しくBと書き加える。


「えっと……どういうことですか? まったくわからないんですけど」

「私にも理解できません」

「ちょっと私もわかんないかな……」


 ヨルキ、美咲、鈴の三人は眉間にしわを寄せながらうなる。

 雄哉は鉛筆を中指と薬指の間に挟んでくるくる回しながら、


「つまり俺は今、この紙の上に書いたBっていう場所を拡大解釈したんだ。そうだな……俺たちがいるここは図書館の中だよな? でも、こうも言えるはずだ。俺たちは今、魔法都市タルスタンにいる。これは宿も同じだろう」

「それはまぁ、そうですね」

「で、ここから宿に戻ろうと思ったら、当たり前だけど歩くなりなんなりして300メートルそこらの距離を詰めないといけない。そこで両方の場所の概念を拡大解釈して考えてみろ。『タルスタン』から『タルスタン』に、移動する必要なんてあると思うか?」

「えっ……えぇ!? 転移魔法ってそんなメチャクチャな魔法なんですか!?」


 ヨルキが悲鳴のような声を上げる。

 ようするに転移魔法とは、「すでにそこにいるのだから移動する必要はない」というイメージによって発動する魔法なのだ。距離が離れれば離れるほど使用する魔力量は上がっていくことになるが、理論上は魔力と想像力さえあれば世界中のどこにでも一瞬で移動することができるということになる。

 いや、正確に言えば「移動」では語弊がある。この転移魔法の原理から言えば「元からいる」というのが一番正しい。

 すると美咲は小さく手を挙げた。


「でもなぜ、闇属性魔法なのでしょうか? 正直、今の説明だけでは転移魔法がどの属性かは明確にはわからない気がするのですが」

「これは俺の適正魔法が闇属性だから直感的にわかるんだが……闇属性魔法ってのはどうも【空間】っていう概念そのものに深く関わっている感じがするんだよ。俺が使ってきた『影空間』は影の中に空間を作る魔法、『薄影』は少しずれた空間に入り込んで認識を阻害する魔法、『陰踏み』は相手を空間に固定する魔法、『影分身』は空間を複製する魔法と考えられなくもない。たぶん転移魔法は空間を拡大解釈して無理矢理同じ場所にいることにしてしまう魔法なんだろう。今まで闇から影を連想して魔法を使ってたけど、実際はそう単純なものじゃないのかもな」

「「??」」

「ゆーちゃんってそんなに頭、良かったっけ?」

「言っただろ、感覚でわかるんだ」


 未だに三人はうまく理解できていない様子だが、そこは大した問題ではない。

 重要なのはこの転移魔法を応用すれば、元の世界に帰ることができるかもしれないということだ。


「勇者召喚儀式魔法ってのは、たぶんこの転移魔法を極限まで強くしたものだ。空間の概念を世界規模に拡大解釈して、その範囲内にいる人間を一人呼び寄せる。人々の希望を乗せたり、膨大な魔力を一人の人間に詰め込んだりする仕組みはどうなってるのか知らないけど、そこは重要じゃない。とにかく、世界から世界へ転移させるのには必ず転移魔法が使われてるはずだ」

「つまり転移魔法で連れてこられたってことは、転移魔法で帰ることができるかもしれないってこと?」

「むしろそれ以外に方法はないだろうな。無理だったらこの世界に永住はほぼ確定だと思う」


 勇者召喚儀式魔法についての細かい原理はこの際わきに置いておく。目的さえ達成することができれば倫理に反しない限り、過程などどうでもいいことだ。


「つーわけでさっそく、まずは転移魔法を軽く試してみよう。そうだな……とりあえずそこの机付近に転移してみることにするか」


 雄哉は前方、5メートルほど離れた位置にある机の隣辺りをじっと見つめた。感覚としては自分の位置を中心として同心円状にテリトリーのようなものを広げていき、目的地を飲み込んだ瞬間そこに「いる」……といったところか。

 果たして。

 いつの間にか雄哉は消え失せており、指定した場所に姿があった。


「成功、だな……」

「これで元いた世界に帰ることができるんですね。おめでとうございます!」

「劇的な変化があるわけじゃないから、地味な魔法だね」


 ヨルキから祝福を受ける雄哉の表情は明るい。鈴も帰る算段が整ったことで笑みがこぼれている。


「…………、」


 そんな中、美咲だけは顔をうつむけてただ黙っていた。

お待たせして申し訳ありませんでした。さほど話は進んでないけどとりあえず更新。

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