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やる気なし勇者の異世界道  作者: 国衣任谷
一章
5/57

異世界生活

 二か月。

 それが、城下町での生活に慣れるのにかかった時間だった。

 この世界は当然、日本とは様々な面で文化が違う。順応するのにはそれなりの期間を要した。


 まず、根本的に違うのは日常生活に当たり前のように『魔法』が組み込まれていることだ。

 この世界では科学ではなく魔法が発展している。火属性の魔法を使えば火が、水属性の魔法を使えば水が、光属性の魔法を使えば明かりが生まれる。

 それらの魔法を使うには当然、燃料となる『魔力』が必要なわけだが……この世界には、空気中から魔力の源となる『魔素』を取り込み魔力に変換、それを貯蓄する『魔力蓄積陣』という便利な物が存在する。

 いわゆる魔法陣の一種で、そこ貯蓄された魔力は『魔力伝通陣』という、いわゆる導線の役割を担う陣を通して多岐に渡る種類の魔法を発動する陣に運ばれる。そこで魔法が発動し、部屋に明かりを灯し、料理のために火を出し、水道の水を流すのだ。

 しかも、基本的に魔法は使った後、魔素となって再び空気中にばら撒かれる。それが再び魔力蓄積陣に取り込まれ、魔力に変換され、魔法が発動し――という、サイクルが出来上がる。つまり、魔法は一切環境を破壊することのないクリーンなエネルギーとして扱われていた。


 そして、これは雄哉にとって実にありがたいことだった。二か月の間、様々な依頼を受ける中で情報を集めたが、一昔前は魔力蓄積陣などという便利なものは存在しなかったらしい。火を起こすのも、水を生み出すのも、明かりをつけるのも、自らの魔力で魔法を発動しなければできないことだったのだ。

 そして雄哉は魔法の使い方を知らない。身分証明のプレートには『魔力量1280』と表記されているものの、どうやって使うのか知らなければ意味はなかった。もしそんな時代に召喚されていれば、雄哉は文化的な生活を送れずひもじい思いをすることになっていただろう。


 また、この世界には風呂という物が無い。温水のシャワーは宿にも備え付けられていたが、じっくりと肩までつかれる浴槽などどこにもなかった。

 どうもこの世界……というと言いすぎかもしれないが、少なくともこのミリンダスト王国にはお湯につかるという文化が無いようで、雄哉は体の芯から疲れを癒すことができずにいた。いずれ解決しなければならない問題だと、割と真剣に考え込んでいる。


 衣服に関しては、冒険者の活動を始めて三日ほどしてから「さすがに着替えないとマズイ」と思い、一応いくつかは購入している。といっても粗悪品であまり肌触りが良くないため、基本的には高校の制服を洗って干している時にしかこの世界の衣服は着ていなかった。というか、制服が一番しっくりくるのでそれ以外を着ようという気になれなかったという方が正しいだろう。


 食事は普通に美味しい、というのが雄哉の感想である。ハンバーグや焼き肉もあれば卵料理や中華っぽい料理も存在し、食材こそよくわからないものが多いが、味は良かった。


 生活に関してはというと、雄哉はギルドに毎日おもむき、一日に10個近く依頼を受けて一万リアンほど稼ぎ、食事と宿代以外で余った分を全て貯金した。ギルドは登録した冒険者のお金を預かってくれる便利なシステムがあり、それを利用したのだ。

 そうして一か月の間、同じような生活を繰り返した結果、貯金が十万リアンほどできることとなる。その段階で雄哉は毎日宿を借りるのをやめ、ギルドに最寄りの賃貸住宅に住むことにした。17歳だと日本ではまだ未成年として扱われるが、ミリンダスト王国では15歳で成人扱いされる。おかげで賃貸契約もプレートを見せて金を渡すだけですんなりと終了した。

 すると途端に生活が安定し、一気に貯金が溜まり始めた。まだこの世界の娯楽を知らず金は必要最低限しか使わなかったし、とにかく生きるためには金が必要だとひたすら依頼を受注しまくった結果だった。



 ◇◇◇◇



 この世界に来てから二か月。

 雄哉は冒険者の仕事に慣れてきて、ようやく心に余裕ができ始めていた。

 そのせいだろうか。夜、部屋のベッドで仰向けになって天井を見つめていたとき、ふと両親のことを思い出した。


「あぁ……そういえば、日本じゃ俺は失踪しちまったことになる、のか?」


 実に今更の事であった。しかし、一度考え出すと止まらなくなる。

 親は当然、心配しているだろう。友人はいなかったからいいとして――いや、幼馴染のあの子だけは涙を流しながら必死になって今も雄哉を探しているかもしれない。

 急に、心臓が締め付けられる。


「でも、仕方ねーじゃん。俺のせいじゃないんだからさ」


 すべては国王カルテリオの召喚儀式魔法が悪い。

 彼が、元の世界に返す方法もまだわかっていないのに勇者を召喚した。

 しかもそれは失敗、雄哉というただの平凡な高校生を拉致しただけのようなものだった。

 だんだんと怒りが込み上げてくる。しかし、それにつれて頭は冷静になっていった。


「面倒くせえ。寝よ」


 これ以上は考えても仕方がない。元の世界に帰る方法は自分で探す。確か最初にそう決めたはずではなかったか。


 ちゃんと生きて日本に帰ればいいだけの話だ。それまで、ちょっと長い家出をしているようなものだと思えばいい。するといくらか心が軽くなった。

 雄哉は目を閉じる。これからは魔法について勉強をする必要があると思い始めていた。


そろそろ物語を動かさねばなるまい(動かすとは言ってない)

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