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やる気なし勇者の異世界道  作者: 国衣任谷
一章
19/57

お風呂

 さて、お風呂と言えばパッと思いつくのは浴槽にお湯を張った状態の、あのお風呂だろう。ほぼ各家庭に一つはある代物だ。

 しかし、おそらくミリンダスト王国には湯船に浸かる習慣が無い。そのため部屋についているのはシャワーのみで浴槽が無く、湯船も作れない。

 雄哉は全力で考えた。

 風呂に入るために最低限必要なもの。それはお湯と、その入れ物。この二つだけでいい。ようは熱いお湯に全身を浸すことができればいいわけだ。

 お湯に関してはシャワーの温水を溜めるだけでもいけるだろう。問題は入れ物。

 当然、浴槽――いわゆるバスタブを作る技術など持ち合わせていない。そして作れないのならば、それなりに工夫を凝らす必要がある。

 取りあえず、雄哉はシャワー室を改めて観察してみた。

 中はさほど広くない。縦横が1.4メートルの正方形で、高さが2メートル弱の直方体空間。本当にシャワーを浴びるためだけの仕様になっている。

 例えば一番簡単な方法だと、ここにバスタブ代わりとなる何かしらの物を置けばいい。そこにお湯を溜めてしまえば、簡単にお風呂の完成だ。

 問題はそのバスタブの代替として、何を使うか。


「……探してみるか」


 雄哉は美咲に留守番を頼み、町に出た。

 そして住宅街を抜け、様々な店が建ち並ぶ大きな道へ。

 雄哉はバスタブを求めて、片っ端から店に入っていった。しかし、そう簡単には見つからない。

 というより、探しているうちに気が付いたのだが、あまり大きなものを買っても部屋に入らないという可能性が浮上してきた。ある程度の重さならば強化魔法を使うことで持ち帰ることはできるが、ドアの大きさは限られている。


(待てよ、さっき考え出した『陰空間』を使えば……)


 とも思ったが、すぐさま雄哉は首を横に振る。

『陰空間』は確かに物の持ち運びに便利そうではあるのだが、自分の陰の大きさを超える物は入れられないだろう。『陰空間』を発動して陰が波打った……つまり出入り口となったのは魔法陣の中をだけだった。直径で言えば30~40センチ程度。


(ううーん。とにかく、何かいいもの見つからねーかな)


あらゆる店を探すも、やはり見つからない。

最終的に行き着いたのは。


「出来れば使いたくなかったんだけどな」


 レーテ商店。雄哉が以前、美咲を買った店である。正直なところ、奴隷を売っていた件で心証が悪かった。だが、ここが城下町で一番大きな商店であり、品揃えがいいのは事実だ。ここまで来て利用しない手はない。

 結局、久しぶりに店内へと足を踏み入れる。相変わらず大量に、多種多様な物品が所狭しと並んでいた。

 広い店内をうろうろ探し回って、5分弱。雄哉の足が止まった。

 円柱状の、鉄でできた筒のようなものが置かれていたのだ。パッと見はドラム缶で、中に人が入る程度の大きさもある。商品の説明文には「採掘場などで採った鉱石を詰め込み、運ぶための缶です。蓋は別売」と書かれている。

 中をのぞいてみると、底は溶接されているようで水が漏れるような隙間は見当たらない。側面にも穴らしい穴は無く、お湯を溜めても問題はないだろう。値段も手ごろだった。


「これでいいか」


 お湯を溜めて肩まで浸かることができればそれ以上は望まない。さっそく購入することに決めた。



 ◇◇◇◇



 雄哉は強化魔法を使って負担を軽減しながら、購入した缶を部屋まで運んだ。道中、周囲から変な目で見られずに済んだのは影が薄かったせいかおかげか。

 ともあれ、さっそくシャワー室に円柱状の缶を設置する。ちなみに大きさは雄哉の腰あたりまであるのでそのままでは入れないため、階段になっている台も買っていた。

 シャワーの温度は火属性魔法陣を調節し、少し熱いぐらいに。お湯を出しっぱなしにして缶の中に突っ込む。待つこと数分でお風呂はあっさりと完成した。

 湯煙を立てる湯船を見るのは実に数か月ぶりのことだ。雄哉は感動のあまり、泣きそうになっていた。


「入ろう……入ろう!!」


 居ても立ってもいられなくなり、すぐさま寝間着と替えの下着を取ってきて服を脱ぎ捨てる。一度シャワーと石鹸で全身の汚れを流し、いざ湯船の中へ。

 台に登り、つま先からゆっくり、ゆっくりと体を入れていく。


「は~~~~~!!!! これだよ、これこれ!!」


 ザパッ! と缶の端から大量のお湯を溢れさせながら、肩までお湯に浸かる。その瞬間、雄哉は肺の中から思いっきり空気を吐きだした。

 久しぶりのお風呂は凄まじい心地よさだった。お湯から伝わるやさしい熱が全身を包み込み、骨の芯まで全身を温める。筋肉の緊張がほぐれ、今まで溜まりに溜まっていた疲れが溶かされる。

 まさに極楽。


「出来れば足を延ばしたかったけど、これでも十分だぜ……」


 夢見心地でお風呂に浸かる雄哉。意外にも保温性が高かったのか、お湯の温度はしばらくしてもあまり下がらない。十数分ほどじっくり体を温めてようやく満足する。

 これは美咲にも入らせてやらなければ。そう思い、熱いシャワーで再びお湯の温度を上げる。

 風呂から上がり、雄哉は体育座りで小さくなっている少女に声をかけた。


「美咲、お前もお風呂入ってこいよ。最高だぞ」

『お風呂とは、なんですか?』

「えっ……説明しづらいな。いいや、シャワー室にお湯張ってる缶があるから、そこに入ってみろ。最高だぞ」

『かしこまりました』


 言われるがままに着替えを持ってシャワー室へと入る美咲。

 お風呂の感想を訊こうと思い、寝る準備を済ませてしばらく待つ。

 十分経過。いつもなら五分ほどで上がってくるので、お風呂を満喫しているらしい。

 さらに十分。さすがに長い、とも思ったが、よくよく考えてみると雄哉自身もそれぐらいの長さは入っていた。決しておかしなことではないだろう。

 しかし、さらに十分が経ち。


「いや、30分はさすがに長くないか?」


 女の風呂は長い、なんて話を聞いたことはあるが、シャワーとドラム缶風呂モドキで30分はさすがにおかしいのではないか。もしかしてのぼせてしまったのかと心配した雄哉は、シャワー室の前にやってくる。


「おーい、美咲? 大丈夫か?」


 返事はなし。というか、美咲は声を出すことができないので返事が返ってくるなどあり得ない。

 非常に困ってしまった。一応、じっくり湯に浸かっているだけという可能性もある。しかし、もしのぼせていたり、いつの間にか寝ていたりすれば溺れてしまう可能性がある。命の危機だ。すぐにでも助けなければならない。

 ただ、このままドアを開けて普通にお風呂に入っているだけだった場合、完全に覗きである。日本では立派な犯罪だし、たぶんこの世界でもそうだろう。

 いや、美咲は一応雄哉の奴隷、所有物ということになっている。であれば犯罪にはならないのではないか。だが雄哉は美咲を奴隷として扱わないことにしているのでそうもいかないのではないか。

 そう、グダグダと考えていたのがいけなかった。

 ガチャッ、とドアが開く。


「……」

「は……?」


 時間が止まる。

 なんと、美咲は一糸まとわぬ姿でシャワー室のドアを開けてしまったのだ。

 当然、目の前の少女の裸体に雄哉の目は釘付けになる。


 買ったばかりの頃からは想像できないほどしっかりと肉が付き、もう痩せ細っているという感じはしない。かといって余計な部分には一切栄養が溜まっておらず、抜群のプロポーションだ。

 胸はおそらく以前より大きくなっており、ドアを開けるというほんの小さな動きでもかすかに揺れている。腰はキュッと引き締まっていて、美しいくびれだった。お尻は少し大きめの安産型である。肌はシミ一つなく、水滴がつーっと伝う様は異様に官能的。

 さらに、なぜかとてつもなく良い匂いがする。シロップのような、甘い香り。それが雄哉の鼻腔を蹂躙し、脳みそがジンッと痺れる。

 というか、タオル一枚すらない状態なので、大事なところがすべて丸見えであり、雄哉は一気に顔を赤くした。それでも一切目は閉じることができず、むしろ人生最大レベルで見開かれていた。男の悲しい本能だ。

 全身をくまなく瞬間記憶で脳に焼き付けたのち――その間、わずか0.5秒――、ようやく雄哉はギギギ、と壊れたロボットのように顔を動かして美咲の顔を正面から見る。

 無表情だが、おっとりした目に二重の瞼、小さな鼻と薄い桃色の唇、少し赤くなっている頬は実に魅力的だった。明るいオレンジ色の髪はろくに切っていないせいで、肩にかかる程度だったものが肩甲骨あたりまで伸びていた。かなり伸びた前髪からポタポタと水の玉が落ちる。

 ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ。

 合計五滴の水が垂れたと同時、雄哉はこんなことを思っていた。


(めっちゃかわいい。死にたい)


 すると、美咲が動く。全身を濡らしたままテケテケと部屋へ歩いて行く。

 雄哉はなぜか一歩も動けなかった。美咲はすぐに戻ってきた。その手には一枚の紙切れ。


『大丈夫です。もう出ますので』

「あ……そう……なら、いいんだけどさ……」


 バタン、とドアが閉じる。雄哉は全力ダッシュして、布団にもぐりこんだ。

 そう、よくよく考えてみると、だ。雄哉はここ数か月、性欲を放置してきた。なんやかんやで日々の生活が忙しかったし、この世界におけるいわゆる「おかず」なんて何があるのか知らなかったこともある。美咲のこともある種、共に暮らす家族だと思っている節があった。

 それがここにきて、危うく爆発しそうになる。


(ヤバイヤバイヤバイ、マジでこれはヤバイ!!)


 意識し始めると、止まらなくなる。

 なんせ、雄哉は今、美少女と一つ屋根の下で暮らしているのだ。

 しかも、雄哉の命令に美咲は従順に従う。従ってしまう。彼女は奴隷であり、雄哉は主人なのだ。雄哉がそう思っていなくても、美咲はそう思ってしまっている。

 誘惑。

 もちろん美咲に誘っているという意識は皆無だろう。しかし雄哉にとっては非情なまでに強烈な誘惑だった。


(耐えろ、耐えろ、耐えろ、耐えろッッッッ!!)


 思考回路を強引に断ち切る。

 もし美咲を襲えばどうなる。

 おそらく美咲は、痛くても怖くても何も言わないだろう。それが奴隷の運命だと、受け入れてしまうに違いない。だが、それは強姦以外の何でもない。日本では犯罪行為なのだ。

 常識を思い出せ。道徳的に考えろ。

 ここは男の見せどころである。


「なんとかしないと、なんとか……つっても、どうやってだよ!?」


 自問自答しても解は出ない。

 一時的に興奮を抑え込んだ雄哉だが、これからの生活にとてつもない不安が募るのだった。



二人の関係はこれからどう変化していくんでしょうね。私にもわかりません

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