大人とは?
「いい加減先生らしいところを
見せてくれませんか?」
「見せたら俺に惚れる?」
「そこは別として尊敬はするかもしれません」
「尊敬とかどうでも良いかなぁ」
そこが教師として、いっっっち番
重要なことでしょうが!
……とかを、
この人に望む方が馬鹿かもしれない。
そう悟り始めた今日この頃。
「ハイハイ。
先生、せめて大人だと
思わせるような態度取りましょうよ」
「大人、ねぇ。
例えば――こういうコト?」
気付けばいきなり壁に押し付けられて
キスをされていた。
「……んっ」
俺は力任せに先生を突き飛ばした。
「なっ、に、するんですか!」
「初めて……か。ラッキー」
「!!」
その言葉を聞いて
思わず殴ってしまっていた。
「……最初はアイツとしたかった?」
バシッ!!
そして、今度は無言でもう一度頬を。
これは不可抗力だ。
決して生徒が先生を殴るイコール
校内暴力の図式ではない。
だって先生が先に――
キスされた唇に手を当てて、
「最悪」
その甲で口を何度もゴシゴシと擦った。
「セクハラ教師」
「お、まだ教師を付けてくれるんだな」
「何ていうか、そのポジティブさ、
凄くムカつきます」
そう言ってんのに
先生は平然と俺を見てるだけ。
いや、若干笑っているようにさえ
見えるんだけど……違いますよね?
もう良い。
金輪際この人に余計なことは望まず、
当たらず触らずの距離感で行こう。
「譜都キャプテンと交流戦の
段取りしましょう。
一応相手高校の最近の対戦データーを
先輩が入手してくれたみたいなので
参考に渡しておきます」
きっちり2メートルの間を取り
先生の顔を見ることなく俺は
極めて淡々と事を進めることにした。
「ヘイヘイ」
「…………」
先生が受け取ろうと近寄ると
俺はジリリ後方へ下がる。
「……おーい、受け取れないんだけど?」
「後で職員室の机の上に置いておきます」
「え~~今、くださいな」
「後で置いておきます!」
「ちぇ……面倒だなぁ」
「それはこっちのセリフです」
最初からこうすれば良かったんだ。
イチイチ俺が反応するからダメなんだ
何時ものように上辺だけ取り繕えばいい話。
相手のペースに乗るんじゃない。
「悪かった、今度からは
ちゃんと許可取るから」
「許可?」
「キスの――」
「そこ!その前に発言の許可が必要です!!」
ホント全然懲りてない。
「ヤーレヤレ、
じゃお前が望む“大人の態度”とやらを
とったらお前は俺を見直すんだな」
「どうでしょうね」
出来るわけがない、万事テキトーな
先生なんかに。
「忘れるなよ、今の言葉」
「どうでしょうね?ってとこですか?」
「い~や、その前。
俺を見直すってとこ」
ソレ、俺自体言って無い。
先生が言った言葉でしょう……
「……大体、何をするつもりですか?」
「そうだな、例えばアレとか」
その目線の先には――
一年を捕まえて何か嫌味でも
言っているのだろう、先日トシと
一触即発になりかけていた例の先輩が見えた。
「白刀田先輩?」
「お前ら一年、相当ヤラレてるみたいじゃん。
譜都も手をこまねてるみたいだし」
見てはいるんですね。
尤も、何もしてなければ気付いていないより
更に悪いですけど。
「アイツを大人しくさせてやろうか?」
「暴力は反対です」
「そんなメンドクサイ」
じゃどんな手で?
と、身を乗り出ししそうになって
慌てて自分に待ったをかけた。
ついさっき、この人のペースには
乗らないって決めたばっかりだろ。
「あーじゃ、一つお願いしますー」
棒読みで形だけのお願いをした俺に
ヨシ、と先生が珍しくやる気を
見せたあとの一言に耳を疑った。
「まぁ元々アイツには
興味あったんだよなぁ」
「は?」
はぁ???????????????
俺がタイプとか言ってませんでしたっけ?
いやいや、勿論、
そこは本当にどうでもいいんだけど、
ただ、中肉中背で平凡な顔の俺と比べて
長身ガッチリで男ぽい白刀田先輩とじゃ
何処をとっても全く似てませんが。
まさか先輩まで襲おうと
してるんじゃないだろうな……この人。
結局、誰でも良いんだ!?
単に年下の男なら誰でも。
凄い腹が立つ。
そんな人にファーストキスされたとか
自分にすっごいムカつく!!!!
何が同類だ!?
俺は一人に一筋なんだから、一緒にするな!