本音と建前
「え~~~俺が!?」
「そうです」
なんでそう驚きますかね……
俺は今度の交流試合のメンバーを
決めて下さいとお願いしただけですけど。
「先生、曲りなりとも監督でしょう?
その監督が決めなくて誰が決めるんですか」
その嫌そうな顔やめて下さい、
見ててムカつきます。
「主将いたよな、名前忘れたけど。
アレにその権限全部譲るよ」
「譲る譲らないとかじゃなくて
これは監督の仕事です。
第一、アレじゃありません、譜都主将です。
いい加減覚えて下さい、
名簿、確か随分前に渡しましたよね?」
そうだったか?と、とぼける態度に
ムカムカ度は増すばかり。
「先生……ちょっと聞きたい事が
あるんですけど?」
「好みの体位か?」
「いえ、それは物凄くどうでも良いです」
なぁんだとか口に出さないで下さい、
手が出そうでプルプルしている
この拳が貴方の目には映りませんか?
「どうして先生に
なろうと思ったんですか?」
――前置きしておきしておくと、
これは可能な限り感情を抑え
言いたいことから失礼のない言葉を
厳選し寄り集めた結果の質問だった。
本心としては……
“ねぇ先生、いや、もうね~
そこの変なお兄さん、どーして教師とか
最高に向かない職、選んじゃったかな?
ぶっちゃけ、ほ~んっとに向かないから。
まだ遅くないし、別の職を見つけた方が良いって、ね?
そうだな~機械とか細菌とかそっち系
相手が合ってるんじゃないかな~
おかしな事いっても向こう分かんないから。
少なくとも人間相手はダメだよ、分かるかな?”
――を、飲み込んだ質問内容だと
言ったら俺がどれだけ自分を抑えたか
その程度の度合いが伝わるだろうか?
「俺もさ~最近思うわけ。
何で教師なんかなったんだろうなって」
今?……い、ま、ですか?
どうしてそんな重要なこと、
教師になる前に気付かないんですかね。
周りがとっくに感じてるのに
当の本人が今頃疑問に思うとか
有り得ないですよ……先生。
とはいえ、少し言い過ぎた感がして、
「そんなことないじゃないですか?
立派に先生やってるじゃないですか~」
つい癖で思ってもいないのに
フォローしてしまう。
「あ、そう?
俺、ちゃんとやれてるのか。
なんだ、ちょっとだけ心配して損した」
社交辞令ですよ!
子供のおべんちゃら信じて
本気にしてどうするんですか!!
この人、自分に都合のイイ事だけ
受け入れるタイプの人だ。
褒めるの大概にしてないと
そのうち校長を目指すとか言い出すんじゃ
……いや、そこは大人だからない……
「俺、いつか校長に―――」
あ、もう何か言いかけてる!
教師って試験に適性検査とか
無いんだろうか?
あったとしてどうして受かったんですか?
面接どうやって切り抜けたのか
もうその興味に尽きるんだけど。
ていうかマジで
関わり合いたくない。
「せ、先生!兎に角メンバー決めた後、
作戦とか皆で話し合いましょうよ」
「え……面」
「面倒とか言わないで!」
その為の顧問でしょう!!
自分の存在価値他何処にあると
思ってるんだ、この人。
「お前さ、一体あの先生と
何話してんの?」
トシが何故かしみじみとした感じで
話しかけてきた。
「え?いや大したことは……」
疲れた。
マネージャー業務ってこんな
心労が溜まるモノだとは。
「ふーん、紺里がまともに
話してるのってお前だけだよな」
「いや、だからまともに
喋ってないんだって」
「そうか?えらく盛り上がってたじゃん。
しかもメッチャ楽しそうだったし」
はぁぁぁぁ???
「誤解だよ、全然楽しくないって。
今度ある試合のメンバーとか作戦を
キャプテンと決めないとって
言ってたくらいだよ」
「――よく笑ってるぜ?お前。
スゲー楽しそうにな」
「!?」
俺が?楽しそう!?
「お前のそんな顔、久し振りに
見た気がする」
「―――!」
「お前ってさ、昔っからよく
わかんねぇんだよなぁ。
他人に腹ん中見せねぇし」
「え~そんなことないよ、
俺の腹の中なんて何もないしさ」
「嘘つけ」
「アハハ、ホントホント」
だって、
見せたら引くよ、きっと。
真っ黒だもん……お前の事以外
どうでもいいってくらいにさ。
乱暴者で気が強くて
そのくせやたら正義感が強くて
周りを振り回す幼馴染に気を取られて
思春期に女の子に興味を持つ前に
お前を好きなってしまっていた。
俺からお前を取ったら
何も残らない。
昔っからお前だけ見てきたんだよ。
今更他の奴好きになんかなれない。
一番近くにいるお前に
心を隠す事を覚えてから
他の人にまでこうやって
笑って誤魔化す癖がついてしまった。
もう日常的なものだから苦にも
ならないけどね。
でももし、見せたら?
お前はどんな顔するんだろう。