スカウトの方、彼はまだ無所属ですよ~(棒)
そもそも母さんはあんなコントじみた性格じゃなく
いつもは真面目で凄く気を遣うタイプなんだ。
それがさっきのようになおかしな言動するとか
息子の俺だって初めて見た。
きっと、料理や接待で忙しすぎて
ちょっと自我崩壊したけたんだろうな。
……予定外の珍客が紛れ込んだせいで。
「疲れた……」
俺は横の父親に、まぁまぁセンセー
もっと飲んでそろそろ一芸でも見せて下さいよーとの
父の言葉に掴まった監督を残し自室へと戻った。
うちの飲みごとは必ず参加者に一芸を求められる。
それを断ることは禁忌という決まりがある。
監督は親戚筋ではないにしろ
一旦参加してしまえばこのルールからは何人たりとも
逃れることが出来ない。
さて、監督がどんな芸を披露するのか
興味はあるが、それ以上に恐ろしくもある。
あの飲んだくれ達は自分の一芸に命をかけ
他人の芸にとても厳しいから適当なことやっても
許してくれませんよ?
アホですね。
精々、頑張っ……
と、突然、階下から、
ワァー!!!っと割れんばかり喝采と笑い声が沸き上がった。
何事かと思っていると
程なくしてダダダと階段を駆け上がって来る足音が。
「ね!兄ちゃん、あの人ダレ!?」
普段、何事にも動じず反応の薄い秋助が
珍しく高揚した面持ちでそんな台詞を言うなんて。
「何て名前の芸人さん?事務所どこ?」
「……うちの顧問の監督」
「は?監督?サッカーの?え?素人なの??」
弟の秋助が目をまん丸くして驚いている。
どんな芸をお持ちなんだか、あの人は……。
「なんだ……そうか。
でも、どうして学校の監督さんがうちに来てんの?」
さぁ、何ででしょーねー。
俺も知りたいとこだけど。
「俺が呼んだ(らしい)んだよ(棒)」
「……兄ちゃん、変わってるね」
「ハハハ、本当何で呼んじゃったんだろう?俺(棒)」
いや!あの人がねっっ!!!!!
「あ、もういいや」
兄の心の叫びを知ってか知らずか
中学生の弟は興味をすっかり失くした顔で
俺、友達んとこ遊びに行ってくると
出て行ってしまった。
……芸人で通せば良かったんだろうか?
でも芸人じゃなくても、
ある意味全然普通じゃないから、あの人、と。
言った方が……良かった?秋助。
てか、何を見たんだ?お前。




