酒宴の主役は誰だ!?
大声の響く居間を恐る恐る開けて、挨拶をしてみたけど
誰からも返事は貰えず、自分らの話に夢中になって騒いでいる。
皆さん、今日の目的で集まってらっしゃるんでしたっけ!?
って大声で叫びたいところだけど、
酔っ払いにとってそのこと自体が二の次なんだと経験上分かってる。
もう皆が皆、今日が何の集まりかなんてどうでも良くなって
単なる酒が飲めれば何でもOK!って状態になっているし。
いや……もう開ける前から予想はついてたけどさ。
にしたって、誰か一人ぐらい俺に気付いてもい良いのに。
うちの親類みんな酒豪揃いだからな……。
昔っからやたら何かにつけて酒が絡むと出席率が異常に高いし。
せめてお父さんくらいはと赤ら顔の面子の中から
探して……あ、いた!
「ん???????????」
その……自分の父親と肩を組んで陽気に騒いでる人物に凝視してしまった。
そこにはずーっと探していた卒業式後に忽然と消えた例のあの人。
なんで監督がいるんだYO!!!
本日の主役(お忘れかもしれませんが一応俺です)を差し置いて
何故、貴方が酒宴のど真ん中ではしゃいでいるのか
理解不能なんですけど!!
酒を一滴も飲んでいないのに立ち眩みがしそうになった。
小声で、
「ちょ!一体どうやって入り込んだんですか?」
「お、おかえり~秋ちゃん~~~皆さん~今日の主役登場ですよぉ!!」
秋ちゃん??
監督の声かけで皆、一斉に俺の方を見てくれてた。
で、おお~卒業おめでとうと言ってくれるのかと思いきや、
だから何?と言わんばかりの表情で一瞬だけ静かになっただけで
また思い思いの会話に戻っていく。
辛うじて父だけが俺を認識し、おめでとうと言ってくれたのが
唯一の救いだった。
「サッカー部の皆、監督に一言挨拶をって言って待ってたんですよ?」
一言だろ?それだけならいてもいなくても同じだろ。
俺別に感謝も尊敬される様なこと何一つやってないし」
あ~自覚はあるのか……自覚してもなぁ……やらないんじゃ、
全く意味ないんですけどね。
教師としての資質云々は本気でどうでも良いらしく、
それよりも今日はこっちの方が大事だったからとか言ってる。
「俺の家族は紹介してから、今度はお前の家族にと。
仲良くなっておかないとな。いづれ俺の義父、義母になる予定だし」
「え!?」
「違った?」
違う違わないという問題じゃなく、いきなり真顔で言われて
返答に困るというか。
「で、……で、どうやってこの輪にまんまと入ったんです?」
そう話を逸らすのがやっと。
「俺に特に世話になったので今日の卒業祝いに
是非とも来て欲しいと何度も頼まれて、その度に
いや親子、親類水入らずで方が良いだろうと遠慮していたんですが、
秋一君がどうしても来てくれなきゃ嫌だと泣きつかれまして」
「へぇ~どこの秋一君なんでしょうかね?その子」
「そしたらお義母さんが、
『まぁ~スミマセン!うちの子がそんな我儘を。
さぞやお困りでしたでしょう?
連絡もしないであの子ったら』
って言われたんで、俺が最後まで先生との慰労会を断れたら行くよと
ギリギリまで返事できなかったからです。
彼を叱らないでやって下さいって言っておいたぞ」
どの口が言ったんスかね!??
おかしい。
全部おかしい。
ツッコミどころ満載過ぎて、しかも最後何気に俺をフォローした形に
なっているけど、俺の心のフォローが出来てないから。
何でこの人はどうでもいいことばかり知恵が回るのか。
もっと他に使い道があるだろうと思うけど
きっと使いたくないんだろうな。




