師匠と弟子
「仕方ない、後で連絡入れるか。
どうせ明日から大学に行くまでは暇だし
何なら監督の家に入り浸っても良い……よね」
頭の中で色々なことを想像してカァァと顔が赤くなってしまう。
そりゃイチャイチャしたい、当然。
だって監督は彼氏だし恋人だったらフツーのことだし
今まで抑圧されていたんだから、とか誰に言ってんだか、俺。
自宅が見えて来た辺りからなんか騒がしい。
近所で飲み会でもあっているのかオヤジ達っぽい
大きな笑い声交じりの物凄い声が飛び交っているのが聞こえる。
ヤだな……こんな真っ昼間から。
近所迷惑だって思わないんだろうか。
ホントにどこだよ、たく。
「………………うちかい!!!」
思わず声が出ちゃったよ。
何でこんなに大騒ぎしてんの。
玄関開けてただいまの声もギャハハハハという誰かの声で
かき消されてしまって、誰もお帰りなどと迎えに出てくる者もない。
「ただいま!!」
「わははははははは」
あ、それが返事なんだ?
虚しくなって台所へと直行すると
母が忙しく料理を作っている姿を発見。
「母さん、ただいま」
「ちょっと、そこの皿取って」
「あ、うん、コレ?」
「違う、その横の大きいの」
「ハイ」
「あと、その空いたビール瓶邪魔だから外に出して」
十本以上はある瓶を勝手口から出して戻ると
更にあれやこれやと用事を頼まれて
気が付けば揚げ物担当に就任していた。
やりだしたらこれがなかなか手強くて
もっとカラッと揚げるには氷を足せだの
引き上がるタイミングがまだまだ甘いと
母もとい師匠からの厳しい指導の元、
漸く唐揚げを揚げきったところで免許皆伝のお墨付きを賜った。
「よく頑張ったな、修業は辛かったか?」
「いえ、とんでもない。それもこれも師匠のお陰です」
「ヨシヨシ、良く言った!これで何時でも店を開くが良い」
「え?暖簾分けですか?ありがとうございますっ!師匠~~~~っ」
「ね……何してんの?お兄ちゃん達」
台所で母さんと抱き合っているところに
弟の秋助が頭を横に傾けての声でハッと我に返った。
「あ、あら?アンタ帰ってたの?」
それは母さんも同じらしくあら、いやだとか笑って誤魔化している。
そこを突っ込むと俺まで墓穴を踏むので
ああ、さっきねとかテキトーに返事を返す。
「卒業おめでとう。
秋一、大学はバイトしながら学費を稼ぐのよ」
「う、うん」
有難い気持ちに浸らせることなく、
すかさず現実を突き付けてきたな。
「ねぇ、所で母さん。
今日俺の卒業祝いで親戚が集まるって聞いてたんだけど、
もう既に宴もたけなわって感じで盛り上がってない?」




