心臓に毛は何本?
「はぁ、だからダメだって
言ってるじゃないですか」
「何で」
「なんでって。
家族でお祝いするでしょ普通。
次の日じゃいけませんか?」
「え~嫌だ」
「子供ですか?貴方」
長いようで短かった高校学校生活も
残り僅かとなったここ数日、
やたら監督が同じ事を言ってくる。
「お前……本当にアレと付き合ってんのか?」
やっとチャイムが鳴ってすごすご帰っていく
監督の後ろ姿にヤレヤレと深い溜息を
つくと、オイと幼馴染に声をかけられての
この台詞である。
「そだけど」
「…………」
すっっっごい間。
トシ何か想像してる?
「何処がイイわけ?」
あ、ソッチか……良かった。
「うーん、あれで良いとこあるんだよ」
「ほう。例えば?」
「え?………………色々だよ」
まさか食い下がってくると思わなくて
即答に困る。
「まさかお前が男と付き合うなんてなぁ。
全く世の中どうなってんだか」
「…………」
トシってブーメランって言葉
知らないのかな?
お前こそ何処の誰と付き合ってんのか
言ってみろって言いたくなっちゃうよ。
「人の趣味ってわかんねーな」
いや、だからね!
「それで?さっきは何を揉めてたんだよ?」
「え、なんでも無いから」
聞いてたんだ。
「あ、そう。
まーツッコむ気はねーよ、ただ」
「ただ?」
「なんか向こうが迫ってたみたいだから
まぁ、なんていうかお前のことだし
ねェとは思うけど無理やり付き合わされてん
だったら俺がなしつけっけど」
一瞬、何を言われてるのか分からなかったけど
つまり監督が一方的に俺の事をって?
「無い無い。
どっちかというと俺の方が
好きだと思っているくらいだよ。
心配してくれてありがと」
「べっつに。
一応、幼馴染だからな、
嫌なことあったら言えよ、シメっから」
トシにかかっては
相手が年上だろうが先生だろうが
関係ないらしい。
あまりにらしくって吹き出してしまった。
「うん、監督に言っとくよ」
「ああ、言っとけ、言っとけ」
……いいな、幼馴染って。
お互い好きな人はいるけど
この友人関係は続いていく
それが今はとても心地いい。
「ねーねー、ねーってば」
残る問題はコレだ。
「はぁ……駄々をこねないでクダサイ」
「だってさぁ」
もう、何なん?最近。
「だから言ってるじゃないですか、
明後日の卒業式の後、
家族でお祝いするって」
監督が言ってきてる内容は卒業式の後
家に来いだの、家族より俺を優先させろだの
かなり面倒臭いことを壊れた機械のように
繰り返している訳で。
卒業したら会えなくなるわけじゃなし、
それこそ大学に入るまでは毎日でも
会いに行くのに、なんだってその日に
こだわるのか。
「……お前、もしかして嫌なの?」
「は?何がです?」
「俺とセックスすんの」
「!?!?」
今、仮にも学校構内で、
結構人通りが多いこの職員室真ん前の廊下で
自分が何を口走っているのかお分かりか?
「アレ?分かんなかった?俺とセッ……」
「うぉい!!!!監督!!」
聞こえましたともこの至近距離ですからね。
分からないとしたら
貴方の脳内構造の方ですかね!
「貴方教師辞めたいんですか?」
「いんや」
「だったら時と場所を弁えたら
如何でしょうか?」
職員室見てくださいよ?
何人かの先生がこっちを
自分の耳を疑うかのように
可哀想な表情で固まっていらっしゃるの
貴方の目には映らないんですか?
そこにすぐ戻られるんですよね。
……心臓に何本毛が生えてたら
貴方みたいに自由に生きれるんですか?
教え……いや、俺には無理か。




