監督不在
それは、
忘れていたわけじゃない。
考えないようにしていたんだ。
「ハイ、分かりました」
自分の恋人をつかまえて
こう言うのも多少気が引けるけど、
何というか時間にルーズで面倒くさがりで
物事に対して適当で……いやいや、大好きだけど
コレばっかりは本当のことだから。
そんな監督だけどちゃんとした理由もなく
学校や部活を休むことはない。
いや、勿論教師として当たり前だけど
普段が普段だから、そう思われても
仕方ないと思って、補足というか
フォロー的な……果たしてなっているかは
別として。
監督が例によって変なのはもうここまで来ると
説明は不要だと思うので省くけど。
去年も不思議に思っていたことが
今年になってより明確になった。
今年もやっぱり休むんだな、と。
この日を明確に覚えているのは
その前日が単純にトシの誕生日だったと
いう理由でだけど。
「監督休みらしいな~ってことは、
今日、部活ねーのか?」
「……どうだろ」
「ハッキリしろよ、マネージャーだろーが」
いつにも増して機嫌が悪いトシは、
朝からこんな調子でやたら絡んでくる。
「ト~シ~、昨日誕生日だったろ、
おめでとう、また一つお兄さんになったね」
「あぁ!?何だその言い方」
「でさぁ、情報によると
昨日家で誕生日会やったらしいじゃん?」
「だ、誰がこの年でそんなんするか!」
「でも、したんでしょ?あの子もお呼ばれして。
何て紹介したの?その時のお姉さん達の様子、
是非詳しく知りたいなぁ」
「!!!!!!!!」
一気にトシの顔色が変わった。
ちょっと突っついただけなのに
コレは想像以上の相当な出来事が
あったんじゃないかと邪推してしまう。
「ウルセーっ!!!
それ以上そのことを言いやがったら
ただじゃおかねーぞ、テメー」
「ゴメン、ゴメン」
そうだよね……あのお姉様方が
普通に対応するとは思えない。
本当は聞き糺したいとこだけど
流石にやりすぎると本当に鉄拳が
飛んできかねないから、何時か
もう一人の方に聞けば良いやと
折れることにした。
トシは周囲に迷惑な威圧オーラーを
まき散らしながら自分の教室に戻っていった。
その後ろ姿の凶暴なこと……。
一体どんなお誕生日会だったことやら。
想像するだけでごはん三杯はいけそうだ。
「見学……したかったな」
さてと、そろそろ頃合いかな。
“お早うございます、起きてます?”
うやむやにするということは
真実を言いたくないのだと
分かっている。
それでも……
“知りたい”
他のことなら兎も角、監督の、
しかも自分にも少なからず関係している
としたら……その欲求を止めるのは
困難かもしれない。
監督に言った言葉は半分が本当で
後の半分が違っていた。
“過去は過去”
そう割り切ってしまえる人は、
案外少なく、とても強い人間の部類だと思う。




