扱いづらい後輩No.1
「……ってことは来年から
タメ口で良いッスか?」
「うわぁっ!!」
俺はその声に驚いて飛び上がってしまった。
「え?こ、近衛!??」
どっから出てきた????
監督と話してる時はかなり周りに
警戒して話してるのに、
全然気配すら感じなかった。
「……何時からいたの?」
頼む、せめてたった今
通りかかったと言って欲しい。
「一服盛った件からッス」
「…………」
やっぱそうくるよね。
てか……殆ど最初から
聞いてたに等しいね、ソレ。
スポーツドリンクを
飲みながら堂々を盗み聞きを
告白する後輩の姿はいっそ清々しい
と思えばいいのか本気で迷うよ。
しかもさ、
「修学旅行ではお楽しみでしたッスね」
しれっとした顔で
棒読みのダメ押しするあたり
ホント怖いから。
「それほどでも……ハハ」
流石に笑いが強ばってしまう。
あの日野をもってして
“一番扱いづらい後輩”と言わしめる
だけのことはある。
「…………」
こうなってくると
単にからかいに来たとは到底思えない。
相手は近衛、恐らく別の意図がありそうだ。
その証拠に笑いもせずに俺を観察してる。
「修学旅行――イイすね」
うわ、二度目のダメ押しキタキタ!
やはりこれはわざわざこんな一言を
言うためだけに俺に声を掛けて
きたんじゃないな。
ハイハイ。
要はこっちから聞いてやれば
良いんでしょ。
「どうした?近衛、
聞きたいことでもあるの?」
「修学旅行先って毎年同じ場所ッスか?」
「うん、北海道でいつも
同じ旅館みたいだね」
へぇ、と近衛。
それから部屋割りとか建物の構造とか
夜の見回りとかやたら詳しく聞かれた。
もうこの時点で近衛の思惑の構想が
手に取るように分かってしまう。
だから敢えて、こちらも棒読みで、
「そんなに修学旅行が楽しみなんだー?」
と聞けば、ハイと返事が返ってくる。
「……そんな事しなくても
一緒に住んでるんだから何とでも
なるだろう?」
「“一服盛って他人の真横で”ってのは
家じゃ滅多に味わえないッスよ」
「……っ!!」
表情一つ変えずに言う近衛に
言葉を失ってしまった。
まさかとは思ってたけど
――そこに食いついていたんだ、ね!?
ユズって凄い……な。
改めてそう思う。
家でも四六時中この男と一緒なんだよね。
学校での近衛を見てる限り、
きっと家でもユズの事を一瞬たりとも
目を離してないだろうから
きっと心休まる時が無いよな。
まぁそれを当人が望んでいるとしたら
余計なお世話だけど。
参考になったと申し訳程度に
頭を下げてた男の姿を見て、来年被害者に
なるであろう後輩へ心の中で
ゴメンねと謝っておいた。
あっ、と。
他人の事を考えてる場合じゃなかった。
得体の知れない生き物二匹と
猛獣一頭か……。
ユズに問題の一匹を任せたいとこだけど
返り討ちにあうの分かってるから
少し気が引けるけど。
結局、後の二体は調教師は俺だけか。
ずっごく荷が重い。
女子マネ入れるの監督嫌がるし
せめて自分の面倒くらい自分で……
いや、
……監督だけは
仕方ないから俺がみても別にいいけどさ。
「はぁぁぁ」
言うことを素直に聞いてくれる
魔法のムチが欲しい。




