教員としての資質
初めて監督とそれらしいことをした
思い出の修学旅行から帰って来ての翌々日、
部活の相談をしている振りをしながら
その話題になった。
「長嶺先生、横で……あんな事してて
よく起きませんでしたね。
バレなくって良かったですけど」
他人からされるのは勿論初めてで
気持ち良すぎて結構声漏れてたんじゃないかと
自分で言ってて恥ずかしさが拭えない。
「まーありゃ起きれないだろうなぁ」
「え?何でですか?」
監督から出た確信めいた言葉に驚いて
思わず聞き返した。
「なんか最近碁を覚えたらしく、
しかも何処からか俺の過去までを聞きつけて
ちょくちょく昼休みとか捕まってたんだ。
でさ、初心者って早打ちか長考派のどちらかに
分かれんだけどあの人、後者なんだよ」
「……はぁ、だから?」
嫌な予感がしてきた。
「毎度一手がやたら長くって
対局時計でもあれば別だが
初心者にそれもどうかだしなぁ。
こりゃ泊まりともなると
クッソ面倒だなと思って――」
「もしや、一服盛ったってわけですか」
「だって~
まさかお前に夜這いされるとは
思わなかったけど結果良かった、だろ?」
いや、凄い微笑んで仰ってるそこの貴方、
これってそこそこ大問題でしょう?
何か流れ的に俺に同意を
求めてきているようだけど
同僚にクスリ盛ったって
告白しているんですよね?
生徒に対して。
笑いながら!!
し、か、も、だ!
どの口がいってるんでしょうね。
散々起きたらどうする的なこと言ってたくせに。
つまり最初っから起きないって
知った上でにアレコレ俺にどうする的な事
言ってたってことじゃないですか。
「何でそんな大事な事、黙ってたんですか」
「えーネタばらししたら面白くないもん。
それに、スリルあって燃えたろ?」
怒気を込めたつもりなのに
この人には嫌味とかそういうの
所詮効果はないらしくテヘッみたいなノリで
スルーされてしまった。
このふつふつと沸く怒りは
何処にぶつけたら良いのやら。
無駄な所ばかり知恵が回って
一方的にやられてなんて割に合わない。
「流石元天才棋士。
……とんだ策略家ですね、監督って」
「そんなに褒めるなって」
「いえ、褒めてません。
残念ながら呆れています、
加えて言うなら倫理的にも
かなり問題ですよ。
大体面白いとか面白くないとかの
問題じゃありませんしね。
もっと別の所に頭使ったらどうです?」
「あ、ソッチ?
裏を返ししたら頭良いって言いたいのか。
いやいや褒めすぎだって~」
「ソッチ、ってどれですかね!?」
やっぱ古文やりすぎてて現代文に
解釈理解が及ばないとか?
「監督。ね、よく聞いて下さい?
褒・め・て・ま・せ・ん」
それと許可なく反語仕様にしないで下さい。
なんかもう凄くムカついてきて
恨めしげに睨んでやると
先生は何故かニヤリと口角を引き上げた。
「なぁ、で、さっきの話、
誰かに見られるかもしれないと思うと興奮した?
随分積極的で俺がお前と同年代だったら
流石に自分を抑えられなかったろうなぁ。
危ない危ない」
「話を聞かんか!!!!!」
「お前の煽りにあてられたんだって。
本当想像以上にエロかったよ、岩倉。
ご馳走様、卒業後が今から楽しみだ」
「…………!!」
どっちが煽ってんだか!!
開いた口が塞がりませんよ!!!!
「早く卒業してくれよ~」
「留年してやりますよ」
それを聞いて監督は大笑いした。
“紺里先生、紺里先生至急職員室に
お戻り下さい、大至急ですよ!”
「え……俺なにかやったかな。
アレか……いや、もしかしてあっちか。
兎に角戻らないとマズいんだろうなぁ。
あ~面倒臭い」
「また、ですか」
俺が卒業する前に監督こそ
何処かに飛ばされるんじゃないですか。
もう、頭痛い……。
「はぁぁ……ったく」
俺は力なく壁に寄りかかって
そのまま座り込んだ。
あの人、ガチでムカつく。




