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マスク


「ふぁぁぁ~~~面倒臭い」




それが先生兼サッカー部顧問の

紺里監督の口癖だと知ったのは、

監督初日も初日、監督になったんで

ヨロシクと簡素な挨拶の後、

一時間もしない辺りから。



中々インパクトのある出会いから

二日後正式に放課後の練習に

やってきたのは良いのだが……



皆の練習風景をボンヤリ見てるかと

思えば、先程の台詞を吐きながら

大アクビを繰り返すといった具合で。



喋るのか、欠伸をするのか

どっちかにしてくれないかな。


気が散って仕方ない。



「監督、監督!」



「……ん」



「うたた寝しないで下さいよ。

皆に気付かれたらどうするんですか」



皆の士気が下がるでしょ!


なるべく小さな声で注意を促すが、

それすらもウトウトしている

隣の男に届いてるのかどうか

怪しいものだ。



「もう紺里先生!コレつけてて」



「――何、これ」



「見たまんま、マスクですよ。

それつけてて下さい。

欠伸くらいは隠せますから」



「ああ、成程」



と言った後、何故か暫くそのマスクを

じっと見ていた。



「安心して下さい、未使用です」



「……使って良いのか?俺が」



「?何でです?」



何で聞き返してくるんだろ?



「いや、別に」



「どうぞ?」



手渡すと素直に装着して

再びウトウトし始めた。



で、寝るんですね。



「…………はぁ」



何だってこんな厄介な先生を

押し付けてくれたんだろう。

いっそいない方がどれだけマシか。



「岩倉」



「ハ、ハイ?」



ヤバイ、今の独り言聞かれた?



「いえ思っていませんから。

取り消しますっっ」




「キリが良い所で起こして」




許可がもらえた子供のように

安心しきって、あろうことか

クークー寝息を立てて本格的に

寝てしまった。




(嘘でしょう……

貴方、先生ですよね?)



……さっきの取り消すのを取り消し。








「……先生、一体此処に

何しに来てるんですか?」




その日も自主練も終わり学年毎のチームに分かれ

練習が始まった頃、ふぁぁぁと

大欠伸をしながら紺里先生が現れた。



「こんにちは」



「ああぁ~は」



今、何と?



もしかして、こんにちはと

欠伸で言い返したのだろうか?


いや……少なくとも“こん”という

音は一切含まれてなかった。



もう既に嫌な気しかしてこないけど。



マネージャーどうして

俺しかいないんだよ。


キャプテンはメンバーの取り纏めで

忙しくこっちまで気が回らないようだし、

今まで監督抜きで色々やっていただけに

そんな余裕もないのかもしれない。



結局俺しかこの人を相手する人が

いない訳か……




「せ、先生、今ですね、

チーム毎に分かれて……」



「了解~」



まだ話途中だって!




今日こそはまともに指導でも

するのだろうかと淡い期待を持った

自分が馬鹿だった。



「ね、今日はマスクないの?」



最初から寝る気満々じゃないですか!



んで、冒頭の台詞に繋がる、と。




「ありませんよ。

そもそも何時も持ち歩いてる訳じゃ

ありませんから」



「あ、そう。風邪治ったんだ」



「え?俺、引いてませんけど」



「…………」



って、無視なんだ!?





最初の頃は部全員が突如正式監督に

決まった紺里先生に対しドキドキ

ワクワクと色んな期待を思い描いていた。



来てもただ眺めてる

(本当は寝てるだけ)を見ても、



「先生、いつも寡黙に観察してるな」



(いえ、寝てるから喋らないだけです)



「きっと、ああやって油断させて

俺達の実力を見てるんだよ」



(……何の為に?)




「敢えて指導しないことで

逆に危機感を煽らせてるとか?」



(だから何の為に!?)



先輩方目を覚まして下さいよ、

大体うちに隠し球みたいな選手

存在しないでしょう?


そんな必要全然っないから。




しかしそんな皆の過剰期待の妄想も

流石に二週間も何も動きがないとなると

その評価は一気に下降した。



「オイオイ、誰だよ実力みてるとか

いった奴」



(貴方達です)



「危機感煽ってるとかも言ってたじゃん」



(お前らですよ、先輩達!)




「アレ……コイツもしかして

本当に使えないんじゃ?」



ソコソコソコ!!!!

やっと俺の気持ちに皆が追い付いてくれた!



横でうたた寝している男を

揺り動かす。



「ヤバイですよ、先生。

どうやら先輩達が先生の実態に

気が付き始めてます、どうするんですか?」



「あ、そうなの?

ヤレヤレ俺の目論見だとあと一週間は

のらりくらり出来る算段だったんだけどな」



俺、サッカー興味無いんだよねぇ、

とごく自然に爆弾発言をしながら

実にのんびりと立ち上がった。



コラコラコラコラ。



「い、今の言葉絶対皆の前では

言っちゃダメですからね」



「ハイハイ」



「……ったく何で立候補したんだか」



ぽそりと呟くと、先生は

別の目的があったからだと口にした。



「サッカー以外に何があるんですか?」



「……ま、追々」



「今、言うんです!」



今思ってることをこういう時こそ

口に出しなさいよ!!



「じゃあ、しいて言えばお前がいたから」




「…………は?」



てか、“じゃあ”っていうのも

若干引っかかるけども、



それより、何て???



「モロタイプなんだよ、お前」



顔だけ少し後ろ向きで視線が合ったまま

そう告げられた。



「…………!?」




先生は“皆、集合~”とか

全くやる気のない声で言うくせに。




その時の声と目は今までに

見たこともないようなものだったから。



全然らしくなさすぎて―――




俺は理解できずに固まってしまった。




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