夜這い
「監督!」
「おう、どうした」
「何処いたんですか?探しましたよ」
「もう消灯だぞ、部屋に戻った方が良い。
俺達はお前らがウロウロしてないか
見回ってたとこだ」
監督の態度はいたって普通で
俺の杞憂だったと少し胸をなでおろした。
「どうしました?紺里先生」
隣のクラスの担任、來嶋先生が
俺と監督を見ながら声をかけてきた。
「あ~いやぁ、生徒がトイレから
部屋に戻るのに迷って聞きにきたんで
教えてたとこです」
「そうですか、お疲れ様です。
じゃ私は向こうを見回ってきます。
オイ、部屋ちゃんと帰れよ」
「だ、そうだ。
気を付けて部屋に戻れ~」
「いやだ」
「ん??」
「帰って良いの?
俺の同室……日野って知ってた?」
「そんな筈ないだろ。
第一クラス違うし、確か加賀谷らと……」
へぇ……。
ちゃんと俺が誰と一緒の部屋かってことは
チェックしてるんだ。
ヤバイちょっと嬉しい。
「……さっき日野に自分の部屋、
三人病欠者がいるから俺に部屋に泊まりに
来ないかって誘われていたんですよ」
「それで?」
「断ろうとは思ったけど、一応
行っても良いのかご相談に来たんですが、
忙しそうですね」
つい今しがたまで反省していた
気持ちは何処えやら監督の別に
気にしていません的言い方にちょっと
ムッとしてしまった。
我ながら姑息だとは思うけど、
こうでもしないとやっぱり監督は
動いてくれそうにない。
「じゃ、お休みな――」
途端、腕を掴まれ部屋へ引き込まれた。
「うあっ」
そのまま隠すように監督のベッドの中に
押し込まれる。
(静かに、隣のベッドに長嶺センセが
寝てるからさ)
先生の小声でハッとした。
そういえば……寝息が聞こえている。
電気が消えてるとはいえ、同室の長嶺先生に
気が付かれなかっただろうか?
「…………!」
「どうか……し……か、ゴォ~~」
「凄いイビキ」
「どうせ寝れない」
布団を被って密着してるから
監督の体温と息遣いが直に当たる。
その上、ほぼ耳元で声まで。
「……監督」
「何もしないよ、
もう暫くしたら自分の部屋に戻って」
「嫌です、して欲しい」
「ダーメ」
「もし今俺がこの場で
大声を出したらどうなると思います?」
「淫行で免職だな」
「マズくないです?」
「マズイマズイ」
「じゃこのままいさせてくれたら
黙っています」
「それも、マズイマズイ」
「…………。」
「…………帰えろう、な?」
「好きだとか言いながら
口先ばかりじゃないですか。
本当は俺のこと
そこまで好きじゃないんでしょ」
「ずっと手を出さないとは言ってない、
卒業したらそれこそ出しまくりだ」
「だったら、卒業する時に告白すれば
良かったじゃないですか」
「ヤダよ、誰かにお前を取られるだろ」
埒があかない。
「キャー助け……」
「オイオイ?」
大きな声を出そうとして口を手で塞がれた……が、
「いてっ」
すかさずその手を噛んでやった。
「えーえーもう、分かりました。
部屋に戻って日野の布団に
潜り込んでや――」
「あ??なにか……気のせいか?むにゃ」
隣で寝ている体育の長嶺が
一瞬反応したみたいだったけど
途中で聞こえなかった。
だって―――
「……っ」
布団の中、監督の口で
声を塞がれてしまっていて
それ以上声を出すことができなかったから。
「監……っ、ん」
酸欠で頭がクラクラして。
初めてこんなキスをされた。
こんな風にちゃんとできるじゃないですか。
「大人を煽ると痛い目にあうぞ?」
「あってもいい」
だったらちゃんと応えてくれれば良いのにと、
そう思って俺は先生の背中に手を回した。




