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比べられない


「お、いたいた~秋一っ!」



ホテルでの夕食会場を出た所で

トシに呼び止められた。




「お前んとこの部屋割りどうなってる?」



「え?五人部屋だけど?」



そう答えるとほうほう、と

腕を引っ張られ壁際に連れて行かれた。


小声でしかも隠れるようにコソコソと

聞いてくるトシに何事かと逆に聞き返す。



「な、なに?」



「俺達の部屋さぁ、六人部屋なんだが

風邪で三人も欠席してて妙に部屋が

広く感じんだよ。

でな、お前夜こっち来ねぇ?」



「え?そんな勝手なことして良いの?」



普通、部屋広く使えて

喜ぶとこじゃない?



「相変わらず細けーなぁ。

良いじゃねーの?

同室、サッカー部の澄桜もいるし」



「いやでも、それなら同じクラスの

人を誘えばいいのに」





「バーカ。

お前じゃなきゃダメなんだって」




不意に肩を引き寄せられて

トシはそう言った。




「…………。」





―――コレ、





二年前に聞いたら、きっと俺は二つ返事で

トシの部屋に行っていただろうな、と

そんな事を思った瞬間、誰かの気配を感じて

視線を上げると部屋に帰る多くの生徒に

紛れて監督がこっちを見ているのに気が付いた。




ヤ、ヤバイっっ!!




「は、離れて!」



思わずトシを突き飛ばしてしまった。



「ッ!何だ!?」




「あ……ごめん、トシ」



トシはあぶねーなと不機嫌そうに俺を睨んで、

咄嗟の事とはいえ、突き飛ばしたことに

謝っているうち、その姿は消えていて。




どうしよう……。



今のは絶対勘違いしてる。


それらしい事を言ったりしてるのと

実際二人でこうやって話しているのでは

同じようでいて全く意味合いが違う。



浮気してるとでも思われたら堪らない。


早く誤解を解いとかないと。




「トシ!そんな勝手なこと

しちゃダメだろ」



「へーへー説教はいいからマジ来いよ、

お前来ないとメンツ足りねーんだ。

麻雀、そうそう出来るヤツいねぇんだからな」



やっぱりそんな事だと思った。




「待ってるからな!」




「行かないよ、俺」





そう言い切って俺は踵を返し

監督を探しに走った。





違う、違うから。



トシのああいう邪気のない言動に

俺はいつも一喜一憂していた。


でも、それは全部過去の話で

今は違う。




今は俺には監督が―――



貴方がトシより、いや誰とも

比べられないくらい好きなんですよ。





あーもーいない!



もう何処にいるんだよ、監督。




行きそうな所を探し回っても

他の先生に聞いても、さっきまで

いたのにって言われるだけで

全然見付からない。




くっそっ!!



早く、早く見つけなきゃ。




俺達はいつも相手の出方を

探っている気がする。


俺の場合は自分に自信がないから

本当に俺で良いのか、


もっとちゃんと本気で俺の事

好きなのか知りたくて。



でも、監督はどうなんだろ。



単にヤキモチで?


それとも俺と同じで本気で

自分に惚れているのか確認したいから

とでもいうのだろうか。



もしそうだとしたら俺、随分酷い事を

していたかもしれない。



逆の立場で同じ事をされたら……

さっきの現場を目撃したら

俺はきっと相手を疑う。




あの人は冗談みたいにぼかして言うけど

ちゃんと好きだと言ってくれてるのに。



誰よりも監督が好きだって

伝えたけど俺は今こうやって

ある意味監督の気持ちを知った上で

煽ってしまった。



しかも、一番あの人が嫌がるやり方でだ。






本当バカだな、俺。



他人を羨ましがってどうする。



比べたってしかたないのに……。







消灯までの自由時間どこを探しても

当の人物が見当たらなくて。



(もう!何処を

ほっつき歩いてるんだよ、あの人)




ドン、と誰かにぶつかった。




「あ、ゴメン」





ぶつかったのはクラスの、

それは……あの女子だった。



「あ……」



その子は俺と気付くなり俺を睨んで、



「ウソつき」



そう吐き捨てて真っ赤な目を伏せ

走って行ってしまった。





(トシ……どんな振り方したんだよ)







結局、監督を見付けたのは消灯ギリギリ、

生徒の自室誘導が始まった頃だった。



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