虎視眈々
さて、ここで一つうちの学校行事に
触れることになるんだけど……。
多分普通の学校では修学旅行は二年生で、
ってパターンが多いと思う。
そんな中うちは何故か受験の年の三年に
北海道に三泊四日。
進学校でないにしても結構珍しくない?
いや、もちろん三日四日旅行に行ったから
受験に失敗したとか言い訳はしないけど
何でわざわざその年にするかなとは
思うんだよね。
で、何故いまその話をしたかというと
ちゃんと意味がある訳で……。
「え?告るの?」
「マジマジ?勇気あるぅ」
それは一週間前――
俺は偶然クラスの女子達が
放課後、教室で話してるのを
耳にしてしまった事に遡る。
もちろん盗み聞きなんかするつもりは
毛頭なかったんだけど、話が話だけに
入りづらく、だからといって
どうしても机の中にある部誌が必要で。
タイミングを見計らって入ろうと
廊下で待っていた……。
言い訳がましいけど嘘じゃない。
「だってさぁ~普段メアド聞きにくいし、
学校じゃないからハメ外せる
絶好の機会でしょ?
上手くいったら自由時間一緒に
回れたりするかもじゃん」
「修学旅行の夜に呼び出しとか、
聞いてて超ドキドキする」
(………………。)
此処で聞いてる俺もバレないか超ドキドキ
してるんだけどね。
「すんなり呼び出しに応じてくれるか
メッチャ緊張するけど
もう最終学年だし、これ逃したら
卒業の時しかチャンスないもん」
「確かに~ライバル多いよねぇ、
ようやくウザイ上級生いなくなった今、
早く言っとかないと後はもう受験だからさぁ」
「うわ、ヤメテ」
「フラれたら勉強に生きればいいじゃん」
「ちょっとぉ、嫌なこと言わないでよ」
やっと受験の話に話題が移ったところで
今しかないと俺は意を決して
中に入ることにした。
「あ?ゴメン。
人いたんだね~ちょっと忘れ物
取りに来たんだ、入るね」
あくまで如何にも今来ました、って感じで。
さり気なく、ホントさり気な~く。
「…………。」
途端、急にシーンと静まりかえった教室。
彼女らの視線の痛いこと痛いこと……。
「ねぇ、岩倉君」
「ハイ?」
「日野君と確か幼馴染だったよね?
……彼女いるか、知ってる?」
うわ……さっきの話、ターゲットはトシか。
怖いもの知らずだな……。
「さぁ、よく知らない。
日野そういう話したがらないから」
「そう、今時珍しいそのストイックさが
魅力なのよねぇ……んで、
いるの?いないの?どっちよ?
超グッドタイミングで乱入してきた
幼馴染で同じサッカー部のマネジさん」
……やっぱり、甘かったか。
「いないよ」
例の一年生と何やら色々
揉めてはいるみたいだけど。
現時点でどうなってるかは不明で
……少なくとも“彼女”はいない。
「良い回答だったから今回は見逃してあげる、
他言無用でどうぞ~」
「了」
ドアを笑いながら閉めたは良いが
ブルっと体が震えた。
女子って怖いな……。
―――話がそれたけど、
これはあくまで蛇足の部分。
本題はここから。
奇しくもこれがきっかけで
常々監督攻略を考えている俺としては
この期を逃す手はないと思いついた。
彼女らの言葉を借りるなら
“学校とは違う修学旅行先で
ハメを外して貰おう”作戦を
密かに企てることにしたんだ。
聞けば監督は引率の教師メンバーに
入っているらしくガキのお守りは
面倒だなぁとか愚痴を零していた。
俺がいるからそれはそれで
楽しいんじゃないですか?とか言うと、
『二人っきりの旅行ならな』
などと意味深な視線を寄越して
煽ることだけは上手いくせに
手を出さないなんて焦らされ感が
ハンパないんですけど。
何で求めちゃいけない?
好きな人がいたら誰だってそう思う筈だ。
ましてや青春真っ只中の男なんですよ、監督。
我慢しろって方がどれだけ無茶か
全然分かってない。
“一度抱いたら俺きっと際限なく
お前を求めると思う”
口先だけじゃなくって
求めて頂こうじゃありませんか。
……俺だって高校最後の年なんだから
思い出が欲しいんですよ。
勿論、監督とのね。
この際、あの人の大人の事情は
無視の方向で。
だって強行でやらないとあの人の考えは
まず変わらないだろうから。
様々な欲と思惑を抱えて三年生最後のイベント、
(この際受験は頭に全くない)が始まろうとしていた。




