成長してるんですよ
――――と、
まぁこんな感じで色々あった訳だけど
これはだいたい二年位前の話。
それはそれで懐かしい。
とはいえ、出会いから現在に至るまで
相変わらずあの人に振り回され続け、
日々苦労が耐えない事に変わりなし。
ただ違うのは、
前より比べもにならないくらい
そんな監督を好きになってるのが分かる。
二年前と全然。
好きの度合いがまるで違うんだ。
現在俺は三年生に進学し、
可愛い後輩達も出来た。
取り分け同じサッカー部二年のGKのユズとは
とある出来事から仲が良くなって
暇をみては共通の話題に花を咲かせる事が
多くなった。
「岩倉さんって凄いですね。
あの紺里……監督と、なんて」
「褒めて、もっと!」
「え?あ、ハイ!
マジで凄いです!尊敬してます!
ご苦労様です!!」
「プッ、ホント素直だねユズは」
最後のご苦労様が
つい出た本音だろうなって
考えるとツボに入った。
こんな具合に互の相手を知ってる俺らは
今や恋の相談相手というか、
労をねぎらう激励会メンバーとして
こうやってたまに近況報告ならぬ愚痴を
零しあっている。
相手が同性の上、教師と生徒。
公には出来ない関係で、
周りが彼女の話で笑い合ってるのを
ずっと横で恋人のいないふりをしなければ
いけないのは結構辛くて、
俺だって誰かにノロケてみたいのにって
ずっと思っていた。
それはユズも同じだったらしく
二人になると向こうからも
結構色んな話をしてきてくれた。
その八割は愚痴なんだとしても
隠し事をしなくていい秘密の会話は
時間が忘れるほど楽しくて、
時々、監督から杠と仲良すぎだとか
……たまにあの近衛から睨まれている
気がしなくとも無い。
「近衛からも言われるだろ?」
「いや、そんなこと……アイツからは
いつも意地っ張りだって言われるし」
「好きだから素直になれない。
俺にもそんな時期あったなぁ」
「ち、違っ。あ、違わないのか?
スミマセンよく分かりません」
「はははは」
この可愛さが近衛にはたまらないんだろうな。
「見てくれは良くても中身を知ったら
ご遠慮したい人種だよね、俺らの相手って」
横でブンブン頭を縦に振っている
ユズを見て、
「それでも好きになちゃったもんは
しょうがないよね」
と苦笑いした。
真っ赤になってぎこちなく笑い返してくれた
後輩が堪らなく可愛く見えた。
(ホント大好きなんだな、近衛のこと)
羨ましいな……
それもこれも俺達は付き合って
二年も経つのに殆ど進展がない。
前に生徒である間はうっかり
手を出せないしなぁとか
言われて半分諦めも入ってたけど。
この間、ユズと近衛の空き教室での
アレを目撃して以来、触発されて
何度か監督にモーションをかけてみても
やっぱりいつもの様にはぐらかされてしまった。
後輩達のあんなの見せつけられて
堪らない気持ちになった。
ユズの凄く良さそうな声とか表情。
思い出しただけでも……
「監督、俺達ってキス以上はしないんですか?」
「ほへ?」
……そんな漫画みたいな返しいらないです。
いつもの旧校舎の所で監督に疑問を
ぶつけてみると案の定この反応だ。
「どした?急に」
急にじゃないずっと思っていたことだ。
「監督はその……俺と……って
思わないんですか?」
「え?何て?」
「お、俺としたいって思わないんですか
って聞いてるんですよ」
恥ずかし過ぎて声が裏返ってしまった。
「もう一度、何て?」
「聞こえたでしょ、難聴でしたっけ?」
何度も言えるかこんな事。
「あれ?もう終わり?
校内での大胆発言、加えて照れてる顔で
あと何回言ってくれるのかなぁと思ったのに」
「ハイ、さっきので終了です」
ダメだ、また監督のペースになってる。
このままじゃいつものように
誤魔化されてしまう。
「で、どうなんですか」
極力低音且つ威圧的に問うと、
「したいよ、お前と。当たり前だろ」
随分あっさりと答えられたその返事を
聞いた途端、安心と気恥ずかしさで
少しだけ動揺してしまった。
「あ、そう……なんですね、
じゃ、じゃすれば良くないです?」
「うーん、やめとく」
「理由は?」
生徒だからって言われたら
そんなの理由にならなって言おうと
思っていたのに、監督から出た言葉は
予想と大きく外れていて、
「一度抱いたら俺きっと際限なく
お前を求めると思う。
ヤってないからこそ我慢できてるんだ」
それって……
「な、何ですか、その理屈」
「岩倉、もし俺が近衛みたいに相手が
同世代ならとっくに手を出してるよ。
これは勝手な大人の都合だ、
だから理解しろとは言わない。
言わないけど分かってくれると助かるなぁ」
狡い言い方だ、とても。
「…………ハイハイ」
とか引き下がるとでも
思ってるんですか?
ね、監督。
俺も出会った頃の
一年生坊主じゃ無いって事、
……よもやお忘れではないですよ、ね?




