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ドアの背後に注意

「ね、俺のこと考えてた?」



改めて監督は俺の顔を見ながら

質問してきた。



「……はい」



本当は監督のことなんかって

言うつもりだったのに、口に出た言葉は

自分でも驚くほど素直な気持ちで。



「どれくらい?」




「少し距離を置くって

話しかけるなって事?


せめて部活の事とか普通の会話は

大丈夫だろうか、

期限は?何時まで待ったら

良いとか……ずっと」




「ホント……参るな。

そう素直に出てこられると

こっちも対応に困る」




「軽く言わないで下さい。

どれだけ悩んだと思ってるんですか」



「光栄だって言ってるんだって、

な、理由聞いても良い?」




監督は嬉しそうに笑う。




「そんなの!好きだからに

決まってるじゃないですか。

自分でもおかしいんじゃないかってくらい、ずっと

監督のことばかり考えてて」



「アイツのことより?」




「日野のこと……ッ」




最後まで言えなかったのは、

突然壁に押し付けられて

キスされているからだ。





ガチャガチャ、ギィ。



「あぁ?確か先に秋一行ってるの

見掛けたのにいねーな」





トシ!?



部室のドアが開いた拍子に丁度その真裏に

隠れるような位置になっている俺達の姿は、

一歩でも部室に入ればすぐ見えてしまう場所だ。



(……ん……ん!!)





「チッ、どこ行きやがった、

聞きたいことあんのによォ」



な、監督!?


それでも監督は離すどころか

キスをやめようとしない。



(バレるって、ドア一枚隔てたすぐそこに

トシがいるのに)




「しゃーねーな、他あたるか」




ドアが閉まってようやく俺は

監督から解放された。



「な、何考えてるんですか!?」



「え?何も」




「…………キィ!」



ええ、でしょうね。



でしょうね。で、しょーね!!!!



この馬鹿!!!




「いま、日野が……ぐ」



今度はキスの代わりに手で口を塞がれて、




「俺の前でその名前を口にするなよ」




「…………」



何が“え?何も”だ。




もう、どんだけヤキモチ焼きなんですか。




「……ハイハイ」



我儘で勝手で絶対俺じゃなきゃ

相手務まらないから。



ちょっと嬉しかったりするのは

監督の顔が今たまたまカッコよく

見えたからですよ、ええ、たまたまね。


「まだ疑ってるんですか……?」



「俺の場合疑うというよりも

単に嫉妬深いだけだ。


まぁ性格だから諦めた方が良いかもな」




「……程々でお願いします」





それから時間を置いて部室から出ると

まだ案外近い部室棟の階段傍にいるトシを見つけ

心臓が跳ね上がった。



「アレ?お前どこいたよ」



「何処って、えーっとその」



さっきの事を思い出してしどろもどろな

返事になってしまった俺に、



「ああ、監督と部の相談か」




「へ?」




(うわーっと!)




振り向くとほぼ真後ろに監督、ハケーン!!




げ!何でそんな近くにいるの?



折角さっきバレなかったのに

いきなり二人で現れたら怪しまれるでしょうが。




俺の心の焦りと絶叫をよそに

トシは、なーんだと納得している様子で

特に気にも留めてない感じだった。



「なぁ、それより

俺、明日当たる英語のトコの訳な、

全部丸写しさせろ」




「え?あ、や、訳ね、うんうん」




トシがこういうのに鈍感で本当に良かった。






ん?丸写し?





や……それフツーにダメでしょ、トシ。




「そういうのは自分でやんないと」




「ケチケチすんなって。

お前のことだから、どーせ無駄に先まで

和訳チマチマ書いてんだろ?」




って、言い方!




「絶対貸さない」




羽交い絞めにされてウンと言うまで

腕はなさねーぞ、ゴルァとか言ってるし。


何でお前がキレんの?全く単細胞なんだから。



(…………ぁ)



ヤバイ……背後から物凄い怒気が

漂ってきてんだけど。




「テメ、今日お前の家に行って

させてくれるまで俺帰らねーかんな。

風呂にもついてくから、何なら又一緒に入るか?」



「ば、ばっか、離せよ、日野っ」



させるとか変な所で短縮しないで

そこは(写)させてくれなかったらって

ちゃんと言おうよ。


“またお風呂”っていうのも語弊ありまくりだし、

そもそも最後に一緒に入ったのって

小学生低学年迄だろ。



ホラ誤解する人もいるかもしれないし、

いや確実に背後にいるから!



やっと仲直りしてんだから

もう監督をこれ以上刺激しないでよ!!




「おやおや、仲いいねぇ~

高校生のお子様がさせるのさせないとかの

会話は如何なモノかと思うな~」



ひっぃぃ!



流石に黙っていられなくなったのか

初めてトシと一緒に居る時に

監督が話しかけてきた言葉がソレとか。



しかも全然その顔が笑ってない。



貴方すぐそこいたじゃないですか

内容聞こえてたでしょう?

そういう意味じゃないって分かるでしょ!




大体ソコじゃなくて曲がりなりにも

教師だったら丸写し云々を

真っ先に注意すべきじゃないんですか?




「しかも一緒にお風呂……かぁ。

いいなぁ~お風呂、楽しいだろうなぁ~


んじゃ、俺は先に行ってるから」





チラッと合った目が一瞬キラリと

光ったように見えたんですけど。




「ちょっと、ちょっと監督!待って」





「オイ、秋一英語は?」




「自分でやれって!

日野、もうそれ以上言ったら絶交だからな!」





急いで監督の後を追いかける背中に、





「あ?なに怒ってるんだ?意味わかんねぇ」




と、トシの声が聞こえた。



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