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幼馴染


ドクドクと心臓の音が煩い。



誰にも知られたことなんかないんだ。



大丈夫。



初対面の人なんか気付かれるわけない。



「……ち、違います、

俺は違います!!違いますからっ!」




「ふーん。それは失礼」



が、明らかにそこには謝辞の意志は

込められていない。




「ま、覚えておいて」




「…………」




何の為にですか?

と聞くのが怖かった。



下手に聞き返してしまうと

ヤブヘビになりかねないから。



ただ、立場上

釘だけは刺しておかないと、と



「趣向なんて別に人それぞれです。

わざわざ言わなくって良かったのに。


でも聞いた以上これだけは言います。

くれぐれも部員に手は出さないで下さい」



紺里はニッコリ笑って

俺に親指を突き出すポーズを取った。



どっちの意味なんです!?ソレは!



それも動揺と恐怖で

聞くことは出来なかった訳だけど。



「さて――」



先生は徐に立ち上がった。



「皆に挨拶していかないんですか?」



「うーん、今日はいいや。

一応見たいもの見れたし。

それに雨降りそうだから帰る」



んじゃ、と片手を振って

歩く後ろ姿に開いた口が閉じれない。




……雨が降るから?



もう呆れる。


心の中で‘とっとと帰れ’コールが

鳴り響いてて五月蝿いくらいだ。




初めての監督だと期待していたのを

いきなり衝撃告白をかまし、

見事に打ち砕いてくれた。



これがこの人と俺との出会いだった。






あの後、部活が終了しても

トシは戻って来なかった。



校庭ならともかく外周ともなれば

グランドも含む訳だから相当広い。


そもそも百周もなんて馬鹿げている

戻って来れる筈が無い。


キャプテンはそれが分かっていて

走らせている。




「…………はぁ」





今回の事は、どう贔屓目に見ても

トシが悪いのは本人だって

きっと分ってるだろう。



じゃなきゃ

素直に走りに行ったりしない。







分かってる。



キャプテンは悪い人じゃない。


どちらかというと温和な性格なんだけど

それが仇をなして他の発言力の強い

先輩達を諌めることが出来ず、結果

後輩が割を食う事が多い。



今日だってもっとしっかり

注意してくれればトシがわざわざ

言う必要なかったんだ。










三十分前から雨が降りだした。


その雨は最初こそ小雨だったけど

数分前から本降りになってしまった。



「あ、トシ!」


俺を見てトシは怪訝そうな顔をして

近寄ってきた。



頭の先からつま先までびしょ濡れ

息も上がって苦しそうだ。



まだ五月で夜の風は冷たい上に

この雨だ……絶対風邪を引く。



だからって何を言った所で

トシは言われた以上、意地でも百周

するだろう。



「後、何周なの?」



「あと十六周……ハァハァ。

いっから……帰れ」



「でも」



「バーカ、お前は関係ないだろ。

いいか……次、走ってきて

此処にまたいたらマジ殴るからな」



「うん……あ、トシ、これ。

ちょっとだけ休憩してよ」


せめてもとスポーツドリンクを

渡すとサンキュと受け取ってくれた。



「……なぁ秋、頼みあんだけど」



「何?何?」



俺は珍しいトシからの頼まれごとが

嬉しくって浮足立った。



「この先の駐輪所あんじゃん?

そこにキャプテンいんだわ。

隠れてるつもりなんだろうけど

部活終わってからずっと」



え?全然気が付かなかった。



「このままじゃお前と同じで

俺が走り終わるまで待っていそうで

怖ぇんだよ。

誘って一緒に帰ってくれないか?

見張ってなくてもちゃんと百周

走りますって言ってたってな」



「お前がズルするとかキャプテン

思ってないよ」



「理由とか何でも良いし。

兎も角、お前のことだ、

予備傘も持ってきたんだろ?

濡れてるみたいだったから貸してやんな」



それはお前が忘れた時用の傘なのに。


今日だって絶対持ってきてないだろ?



「じゃ頼むな。

こんなことお前にしか頼めねェから」




「――!」




“お前にしか”




ソレ、たまに無自覚で使うね。




「……うん」



逆らえなくなるって知ってる?




「分かった、トシも気をつけて」



「うぃ~」



トシは俺の返事を聞くやいなや

踵を返して暗がりに再び消えていった。




昔から変わらないね、



要領悪すぎなんだよ、トシ。


一本気で、正義感強くって

不器用で見てるこっちがハラハラする。




でも、そういう所が





俺は―――ずっと。






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