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どんな家庭だYO!

「ねぇ、ケーキがあるけど食う?」



「ケーキ?」



「そうそう、うちの家甘党が多くって

いっつも何かしらのケーキがあるんだ」



「そう、なんですか……」



アレ?

さして気にした様子がないような?



「俺の部屋この先だから」



そう言って監督は自分一人

台所の方へ行ってしまった。



(先って……いわれても、どっちだよ!)



初めて来た家の勝手も分からないまま

このだだっ広いとこを他人の俺が歩き回るわけにも

いかず、どうしようと迷っていると、

何かにクイクイとTシャツを引っ張られた。



反射的に振り返るとそこには

若い着物姿の女の人が立っていた。



「こ、こんにちは。

あ、あの監督、あ、えと紺里先生の生徒で

今日お邪魔させて貰っています」



もー何回噛んでるんだ、俺。



そんな挙動不審な俺にその人はニッコリ笑って

こっちと言わんばかりにまた袖を引っ張った。



何度か角を曲がると漸く渡り廊下が見えて、

女の人がその先を指を指した。


どうやらアレが監督の部屋だと

教えてくれているらしい。



「有難うございます」



礼を言うと、再びその人はニッコリ笑い

そして何処かへ行ってしまった。




ホント助かった。

家の人?もしかしたらお弟子さんの誰かかも。


ったく広すぎるよ、この家!






案内された離れになっている監督の部屋は

八畳二間で手前が畳の敷の書斎兼居間で

奥が寝室になっているようだ。





「どう?このケーキ美味いだろう?」



実際は甘党ではないので苦手なんだけど、

監督が美味そうに頬張っているのをみて

否定する気にはなれない。



「ええ、まぁ」



座卓を挟んで男二人ケーキを食すって

なかなかシュールな絵面だ。




それにしても……


今いる畳の部屋の方は壁一面の本棚に

これでもかというくらい本が詰め込まれていた。



「これ全部読んだんですか?」



「うん」



千冊は軽くある……よな?


古書に混じって囲碁系の本もかなりある。



これだけ読んでるってことは頭が良いのか、

ひょっとして良すぎて壊れちゃってるのか

どっちなんだろうかと悩み始めた頃、



ダダダダダダダダダダダ!!!!!!



物凄い勢いで廊下を

誰かが走ってくる音が聞こえた。



「夏以ちゃ~~ん。

あんな言い方して、ゴメンネ、怒ってる?」



スパーンと勢い良くふすまが開いたと同時に

飛び出してきた男の顔に

激しく見覚えがあるんだけど……



「いえ、まさか怒ってませんよ。


立場があるんですから当然だと

いつも言ってるじゃありませんか。

俺のことは気にしないで下さい」



「本当?良かったぁ~

もー帰ってきてくれて嬉しくて嬉しくて!」



そう言って監督に抱きついた。



「ハイハイ、分かってますから」



「…………」



いや、やっぱダ、ダレ!???この人?



これでもかってくらい顔の筋肉がが緩んでていて

こんな人いたか?って頭が混乱する。



「それより実は紹介したい人がいまして」



「ん?」



その時初めて俺に気が付いたらしく

お客さんか!?と飛び上がらんばかりに

驚かれ声のトーンが急降下した。



「夏以、それならそうと言いなさい」



しかも先までとは打って変わって

いきなり厳格な表情でだ。



その瞬間、俺の脳の中の記憶処理が

一気に答えを弾き出した。



あの、お父さんだ!!!!





「父さん、もう良いですよソレ。

いま全部見られてたじゃないですか」



「ああ、そう?」



「こ、こんにちは紺里さん」



「やぁ!」




やぁ?



マジか。


……大変だな、監督もこの人も。



そして、無論居合わせたこの俺が一番にね!!



もうどっちの態度に合わせていいのか

決めかねてムズムズするのが止まらない。




「で、どなた?」



「俺の恋人です」



は???


何言ってんのアンタ!


いきなりそれは、いくら何でもマズいでしょう?




「おおっ!こりゃまた若いな。

夏以の父です、以後よろしく」



なんでそうすんなり話通るんだよ!

驚く箇所も絶対間違ってんだろ!



この場合、俺なんて返事するのが

正解なんですかね!?



不思議すぎるでしょ!この家庭。

非常識が常識なのか?



もうどのタイミングで否定していいのやら

頭がおかしくなりそうだ。




「父さん、そろそろ戻られては?

トイレだと言ってお弟子さん達を

待たせているのでしょう?」



「……あーそうだった。まだ帰らない?」



「ハイ、帰りませんよ」



「絶対?」



「ハイ」



何度も名残惜しそうに振り向きながら

帰っていく姿は、入園した初日

保母さんに連れられた子供が見送りの母親を

振り返る様に似ている、気がした。



「なんか……」



「オヤジ、子離れしそこなってるからな」



その一言で片付けられるレベル?



「このうちでの常識人は

母親と俺くらいのものだ」



「へ……?」



何で貴方がちゃっかりそっち側サイドの頭数に

入っちゃってるんですかね。



まぁ……確かにあのお父さんから見ると

監督が幾分マトモにみえるから恐ろしい。



「母さんから、流石に注意されて

せめて人前では自重するように

努めているらしいんだけどね」



あれで?ね、あれで?

もう一人ツッコミが止まらないんだけど。



「色々あったから門下生の手前

厳しくしてないと師匠としての立場があるし」



「はぁ……というか、ゲイって

そのお父さんは知ってるんですね」



「ああ、高校生の時に家族皆の前で言った」




皆の前で……



「反応は?」



「“あ、やっぱり~?”だったかなぁ」




一体どんな家族ですかね!



てか、お願いだから

ちょっとはツッコミ休ませて!!!!!!




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