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貴方昔っからアレなんですね

待ち合わせは朝早く起きれないとの

たっての希望で午後一時。


場所は通りから離れた本屋。


人が多い場所では学校関係者に会う確率が高く

不味いだろうって事で決まったわけだけど……。



(まだ、来てない?)



まさか忘れて寝過ごしてるんじゃないかと

もう一度店内を見回すと、後ろからポンと

背中を叩かれた。



「オーイ、見えてないの?」



「え?」



(誰……?)




白シャツにジーンズ、加えて銀縁メガネで

少し前髪を上げた姿の男なんか

知り合いにいないんですけど。



「ちょ……っ」



馴れ馴れしくいきなり手を掴まれて

驚いて腕を振り回した。



「岩倉、俺だよ、おーれ」



指でちょいとメガネをずらした目と

視線が合って漸くそれが監督だということが

分かった。



「監督……?」




普通に考えれば声で分かりそうなものなのに、

あまりにも雰囲気が違ってて気が付けなかった。




それくらいなんていうか、その―――




「どした?格好良すぎて分かんなかった?」




「ち、全然違います!

自惚れないでくださいっ!!」




「ちぇっ、冗談なのにそんな

強く否定しなくても良いのになぁ」



バカみたいに大声で否定してしまったのは、

自分の気持ちを見透かされたと焦ったからだ。



普段、学校でダラ~っとしたイメージしか

無いのに、そういうギャップって

反則すぎやしませんか?



「岩倉。手、つなぐ?」



「つなぎませんよ!」



「あはは、そりゃ残念」



繋げる訳ないじゃん……もう。



相手のペースにまんまと嵌ってドキドキしっぱなしなんだから

これ以上キャパ超えるような煽りマジやめて欲しい。












「は??じ、じ、実家!?」



てっきり先生の一人暮らしのアパートか何かに

行くのだと思っていた俺は先生の言葉に

メチャクチャ驚いてしまった。



「うん、ちょっと呼ばれてるんだ、ダメ?」



いや、ダメとかそういう話ではなく

いきなり生徒を連れて行ったら

先生の家族は何事だと思うだろう。


そもそも用事で家から呼ばれているんだとしたら

余計な俺が一緒に行くこと自体どうかと思うし。



「あの……俺、出直しますよ。

突然、俺がお邪魔したら迷惑でしょうから」



「え?何で?」




何でって……。



日野や同世代の友達なら兎も角、

俺がいきなり監督を実家に何の連絡も無しに

連れて帰ってきたら親が何事かと驚くのと

同じ理屈ですよ、ってわざわざ説明しなきゃ

分かんないんだろうか、この人は。




「いいじゃん、いいじゃん一緒に行こうよ」



子供か!?



……ホントこの人、大概大人になりきれてないな。




その後も再三断ったのに、

結局、監督の子供じみた説得に根負けして

俺は監督の実家へと一緒に行くハメに

なってしまった。







「此処……ですか?」



「そそ、入って」


和風作りのドテンとした大きい家で、

これまた松に囲まれた大きな庭には池があり、

そこには錦鯉が優雅に泳いているのが見えた。



「こんな家、テレビでしか見た事が無いですよ。

……実際あるんですねぇ」



「子供の頃よく此処で釣りしたな~

全部釣り上げた時は兄さんに記念写真

撮って貰ったりしてさ」




「はぁ……」



優に数十匹もいるだろこの大きな鯉達をですか。



「八匹目の魚拓を取ろうとした所で

母親に見つかってね……いやぁ楽しい思い出だよ。

あははははは」



「ハハ……」



鯉にとっては最悪の思い出だろう。

この家で飼われたばっかりに――気の毒なことだ。



その頃から……もう既に片鱗が……。


親御さん、さぞや大変だったろうな。


会ったこともない監督の両親が

不憫に思われて仕方がない。



「さて、行きますか」




(あ……)



池に座り込んでいた俺の手を

自然に監督に取られて立ち上がらせてくれて

そのまま玄関に向かって歩き出した。



(手、こんなトコでマズいよ)



監督の実家だし誰が見てるかもしれないと、

頭の中では思っているのに……俺は

自分からどうしても離す気にはなれなかった。






「只今、戻りました」




広い玄関入って左奥の障子を開けると

いきなりの怒号が飛んできた。



「入るな!!

お前はこの部屋に立ち入るなと

言っておいたのを忘れたか!」



「……申し訳ありませんでした、失礼します」



チラリとだけ見えた和服姿の男の人は

恐らく監督のお父さんだろう。



棋士だと聞いていたその人は

かなり気難しそうな印象を受けた。


――勝負師の人って皆こんな感じなのか?



その周りにいた人達はお弟子さんみたいな人達も

間に入って何だかザワザワとしてたようだったし。



……ああ、そっか。



例の白刀田先輩が言った“勘当”という

二文字が頭をよぎる。



いくらそうだとしても

呼びつけておいてあの態度はあんまりだ。

実の息子に手厳しすぎるだろ。



監督だって流石に傷つくと思う。



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