表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/56

信じて欲しい



「監督、今後の練習メニューですけど

一応、キャプテンと表を作ってみたので

確認お願いして良いですか?」



「あ、もう譜都に直接聞いたよ、

それで良いんじゃない」



「え?あ、分かりました」



そう言うと俺の方をチラッと見ただけで

スタスタとグランドのキャプテンの所へと

向かっていく後ろ姿に違和感を感じるのは

今日が初めてじゃない。




前だったら俺を見つけるなり

真っ先に話しかけてきてたし、

部のことだって俺を通していつも

連絡とか聞いていたのに。



最近……というか、あの告白をして以来

何だかよそよそしい。




なんか…………。




いや、考えすぎだ……多分。





避けられてるとか無視されるとかでは

いかないにしても、何かそっけなく

感じるのは、それまで事あるごとに

鬱陶しい程、絡んでこられていたせいで。


……なんか拍子抜けするというか、

思っていたのと違う。




もっと……


告白したら、きっと今まで以上に

接触してくると思い込んでその時は

どう対応したら良いんだろうとか

いらぬ心配をしていた自分が

凄く恥ずかしくなってくる。












俺、あの時……好きだって

言ったつもりだったけど、

上手く伝わってなかったのか?



確かに“かも”っては付けたけど

とてもじゃないけど恥ずかしくって、

そんな風にしか言えなかった。



―――大人なら、そういうの

フツー察してくれるんじゃないの?





それとも他に原因があるとしたら……



本当は冗談で言っていたつもりが

本気に取られて引いてるとか。



まさか……全部俺の勘違いで

最初からそんな意味じゃなかったとか。



「…………」




いや、キスされたし……それはない、はず。



じゃあ、釣った魚にエサはやらない主義?




一体どれだよ!!!!!!!!!!!




好きだって言ってきたのは

監督の方なのに。

なんなんだよ、その態度は!



もう!こんなことなら

言うんじゃなかった!



あのままずっと無視しとけば良かった!




…………とか、



思えないから悩むんだよ!!








ただ一つ思い当たる節があるといえば、



告白した時の監督の表情が

ずっと引っかかってる。




『いいや、見えない。

確かめたかっただけ……悪かった』




言葉とは裏腹にその目は

笑っていなかった気がする。


まるで真意を探るような目つきだった。




「ハァ」




つまり、“そこ”なんだろうな。











……好きだった。



本当にトシの事は。




と同時に諦めもかなり前から既に入ってた。



自分じゃダメだろうってことも

認めきれなかっただけで、ずっと。



だからってそんな理由で

簡単に監督に乗り換えたとかじゃない。




本当は好きだと言われる前から意識はしていた。



とはいっても勿論、

最初は恋愛感情とかではなかったけど。



男である幼馴染を好きなった事を

誰にも言えず悩んでいた俺に

監督は自分のことを引き合いに出して

軽い口調ではあったけど認めてくれた。


素直になれなかったけど

救われた気がして嬉しかったんだ。


自分を他人と比べて悲観することは

ないんだと教えてくれた監督だからこそ

言えた言葉だったのに。




ただでさえ隠すのに慣れてしまって

本心を伝えるっていうのは苦手だし、

もっと素直に自分の気持ちを言えたら

良いだろうけど、いざ本人を目の前にすると

なかなか上手く言えない。



他の人相手ならもう少し上手く

立ち回れんだろうけど

監督が、ああいう性格なだけに

つい俺も意地を張ってしまう。



でも、


簡単に心変わりするヤツとでも映ってて

それで呆れられてるのかもしれないとしたら。


だとしたら、今とられている態度にも頷ける。



ハァともう一度、

さっきより深く溜息が出た。



俺は多分、自分が思っている以上に

監督のことが好きになってるみたいだ。




「もう……よりによってあんな面倒臭い人なんか」




生まれて初めて勇気を出しての告白を

なんで信じてくれないんだよ、バカ監督。














「アレ?これで全員?」



放課後、夏に向けてのミーティングが

始まって間もなく譜都キャプテンが

周りを見渡して頭を捻った。



「あの……日野がまだ」



「アイツ、サボりか?」



「違います!補習を受けていて

決してサボリじゃありません」



日刀田先輩が生意気だなと言うのを聞いて

俺は思わず口を挟んでしまった。



一瞬先輩は驚いた顔をした後、


「知ってるって。冗談だ、アホ」


と俺の頭を小突いた。








「必死だな」




ミーティングが終わって部員達が

グランドへとゾロゾロ向かいだした時、背後から

思いがけない声が聞こえて俺は体が固まった。




「…………!」





振り向くと何時の間にか誰も残っていない

部室の一番奥のロッカーにもたれ掛った

監督がそこにいた。



しまった、と思ったのには訳がある。



近頃では余計な疑惑を持たれないように

監督の前では極力トシの話題に

触れないように気を付けていた。



さっきだって辺りには姿がないのちゃんと

確認したつもりだったのに一体何処にいたのか。




「誤解されたら可哀想だし。

……幼馴染だからって特別に

言ったつもりはないですよ」




「そう?」




“紺里先生、紺里先生至急職員室に

お戻り下さい、至急です!”



「ええ?……俺なにかやったかな。

アレか……いや、もしかしてあっちか。

兎に角戻らないとマズいんだろうなぁ。

あ~面倒臭い」



「あ……ちょと」



間の悪いタイミングとはこの事だ。


よくよく呼ばれるけど、この人

職員室でも色々やらかしてるんじゃないのか?

と普段なら軽口でも叩く所だけど、

生憎、今はそれどころじゃない。



「待って下さい、さっきの本当に違うから」



ちゃんと此処で否定しておかないと変に取られて

後々ややこしくなりそうだと慌てて言った傍から、




「おっ!お前の大事な幼馴染が来たみたいだ。

じゃぁ、ミーティングの説明してやって」






なにソレ、ムカつく!



この大人子供!



俺は日野のことそんな風に見てないって、

あれからも何度も言ったし、

こっちが折角折れてんのに

なんでそういう言い方するんです?




「大人気ない……よくあるでしょ、

そんな思いも引っ括めてお前を

受け止めるよ~的な」



だからつい俺も思ってもいないことを

言い返してしまうんだ。



「嘘くせェ。

こんなのに大人も子供もないからなぁ

惚れてる相手に1ミリだって

他人が入ってるのは嫌だね」



子供かっ!


大人のくせに。


大人のくせに!!




「ホント許容力狭いんですね」




「そうか?お前は嫌じゃないの?」



「は?」





「……俺が本当は別に好きな奴がいたけど、

今度ソイツが結婚する事になったから諦めて

学生時代に似ているお前を代わりに

しようとしてるって言ったら」




…………え?




「受け止めれる?どうなの?」




「どう……って」






それって、どういう意味……だ?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ