疑惑の三角関係
「オイ、秋一。
お前今度の中間の英語の範囲知ってるか?」
「え、今頃?試験明後日だよ、どうすんの?」
「あ?前の日にすりゃ充分だろ、
別に満点狙ってるわけでなし」
満点どころかいつも赤点ギリギリのくせに
なんでそう余裕に構えてられるのか
ある意味羨ましいんだけど。
「確か……あ、今日英語の教科書持ってきて
なかったんだ」
「使えねーな」
「トシにだけは言われたくないよ」
昇降口で言い合ってると
そこに監督が通りかかった。
(あ……またどうせ何か言ってくるだろうな。
ヤレヤレ面倒くさいな)
「んじゃ、お前ん家に行って
一緒にお勉強でもすっか」
「そんなこと言ってトシ、いっつもTV観て
ご飯食べたらそのまま寝るくせに」
(ホラホラ、もうすぐ“オーイ岩倉”って)
「つか、お前のベッド狭まくね?
前の時お前に落とされて風邪引きかけたぞ」
が、予想に反して監督はそのまま
俺たちの横を素通りして行ってしまった。
(アレ?何も言わずに行った?
珍しい、でも良かった。捕まらなくて)
最初は単純に気が付かなかったのだと
思っていた。
でも回数が重なる毎に
流石に俺もその法則性に気がつく。
トシといる時だけ、
例え話してなくても傍に居る時に限って
監督は絶対に話かけてこないってことに。
何なんだよ、
普通に話しかけてくれば良いのに。
トシの時だけとか、それこそ
余計な気を回しすぎ。
逆にこっちが意識する羽目に
なるじゃないですか。
「……ったく」
俺、なんか最近トシのことより
この問題監督のことを
考えてること多くないか?
すっごく不本意極まりなんだけど。
そりゃ……
“好きだ”とかハッキリ言われると
やっぱり嬉しい、気はするよ。
想うことはあっても想われたことはないし。
あんな人だから、つい言い返してしまうけど
前ほど嫌いじゃなくなってる。
いや、それどこか……。
前に“俺の事意識してるだろ”って
言われた時、正直本当は内心焦ってた。
恋愛とか疎い多感な時期に
好きだって言われ続けて嫌な気なんか
するわけないじゃん……。
もう向こうの思うツボみたいで自分に
スッゴイ腹が立つけど、
気になって仕方ないんだから
どうしようもないんだよ!
案外単純なのかもしれない、俺。
「お、やっと俺のモノになる宣言キター!」
や……言ってないから。
「好きかもって言ったんです。
まだ断定ではありませんし、その過剰なまでの
前向き的捉え方やめて貰えまんせんか?」
「なんで?」
「よ~く聞いて下さい、今とても大事な
センテンスが完全に抜け落ちてましたよ」
「え?嘘?どこ?」
なかなかどうして演技派だ。
しらばっくれる態度が気に入らない。
「監督のことが」
「俺が」
「少しは好きかもしれない」
「大好きだ、と」
「……はぁ。
古文のやりすぎで現代文の
解釈を理解できないですかね」
この際、“少し”を省略していることには
目を瞑るとしても。
「アナタ、ニホンジン?
ニホンゴ、ワカリマスカ?」
「OKOK!日本語全然大丈夫!」
嘘つけ!!!
にこやかに答えてても
その言葉に全く説得力ない。
「……だったら!!“かも”って所に
是非とも注目して頂けませんか?」
「いらなくない?」
「いるんですよ!そこが一番!!」
あー疲れる。
俺、なんでこんな人なんかに
ちょっとでも好意を持ちかけてるんだろ。
「…………」
アレ?ひょとして……俺、
自分で気が付いてないだけで
本当は最近何処かで頭でも打ったんだっけ?
「幼馴染は良いのか?」
「トシの事はもうだいぶ前に諦めました。
もうとっくにそんな目で見てません」
「でも、ベッドで一緒に寝たりしてるんだろ?」
あの時の会話……やっぱり聞かれてたんだ。
「それは……アイツが勝手に、
それにそういう意味じゃな……」
バンっ!!
壁に手をつかれて監督の顔が近づく。
「……!」
「だとして、イイ気はしない。
アイツとじゃれてるのを見るのも
そんな話を聞かされるのも。
―――だろ?
惚れた相手が別の男と一緒のベッドで寝てるとか」
「だからそんな意味じゃ――」
「俺かアイツかまだ迷いがあるんじゃない?」
その言葉に俺はまじまじと監督を見返した。
監督は真顔でフザけた感じはまるで無くて
それがかえってショックだった。
これでも考えた上で意を決して
自分の素直な気持ちを伝えたつもりだったのに
根本を否定された気がしたからだ。
まるでトシがダメだから監督に乗り換えたみたいに
捉えられている、そう感じた。
「やめて下さい、そういうの。
二人に同時にとか俺、器用じゃない。
……それとも、そんなにいい加減見えますか?」
「いいや、見えない。
確かめたかっただけ……悪かった」
監督はそう言ったけど
多分、疑ってる。
俺を見る目がそう告げてる気がした。




