意識してる?してない?
「何か怒ってる?」
「いえ、別に」
「またまた~ちょっとイラッとしてるよな」
「……いま、若干その傾向にあります」
「え?今?」
「ハイ、監督のそのしつこさに」
「え~~~ソコ?」
……何を言わせたいのか多方予想はつくけど、
そうそう乗ってあげませんよ。
そもそも、あの先輩が子持ちとか
知った上であんな態度を取るなんて
大人のすることじゃないし。
「も~ガード固いなぁ。
……それでも少なくともアイツよりは
お前の心、見せて貰ってると自負してるよ」
アイツ?……ああ。
気のせいでしょう?
と、言いたいところだけど
内容の是非は別として確かに他の誰より
本音を曝け出させられてる感は否めない。
それもこれも貴方の異様なまでの
イラつく行動に起因してるんですけどね。
「それよりも、さっきも言いましたよね、
藤左和先生が探してましたって。
行かなくて良いんですか?」
「あの先生、話長いんだよね~」
要は単に面倒くさいから
行きたくないんですね。
心底嫌そうな顔で溜息を付いたとこで
現実を回避出来るわけじゃなし、それに……
「先生が他の先生の愚痴を生徒の前で言うの
アウトだと思いますけど」
「じゃ俺、誰に愚痴ったら良いんだよ」
「そこを我慢するのが大人でしょう?」
この人、ホント大人子供だ。
こんな人を先生と呼ばなければならない
生徒側の苦痛こそ何処に愚痴ったら良いのやら。
「なぁ」
監督が腕組みをした格好で
改めて俺を見下ろしてきた。
「俺の事、少しは意識しだしてるだろ?」
いきなり、からかうようにでは無く
まるで雰囲気が違う言い方にドキリとした。
「変な人だと最初から意識してますけど」
「それだけ?」
意味深な言い方は、随分自信あり気に
聞こえてくる。
「他に何があるって言うんです」
「勿論、そういうイミで。
俺がアイツとどうにかなるんじゃないかって
焦った?」
「は?そんなこと思ってませんよ」
「……思ってよ。
俺のこと誰にも取られたくないって」
聞いたこともないくらい優しい声で
見たこともないくらい真剣な顔で
そんな事を言うとか……卑怯ですよ。
「ほ、絆されませんから」
「そう?時間の問題だと思うがなぁ。
キスとかしてみたら案外気持ちに気付くかもだけど。
ちょっと……してみる?」
「しません!大体こんなとこで
するわけないでしょう!?」
「じゃ何処だったら良い?」
「!!!!」
違う、違う違う、絶対にいまのナシ!
変な誘導に引っ掛っただけで
そんな事なにも考えてない!
「岩倉……顔、真っ赤。可愛いな」
「秋一!」
その声に驚いて振り向くとトシが
此方に歩いて来るのが見えた。
そして近づくなり辺りをキョロキョロとした後、
不思議そうな顔を向けてきた。
「お前こんなトコで何やってんの?」
「何って……監督と話してただけだよ」
心臓がバクバクと音をたてている。
まさか見られて、ないよね?
「は?監督?いたか?」
幸い向こうから来たトシには監督の位置が
丁度死角になって見えなかったようだ。
良かった、見られてないと
安心した反面、嘘を付いてると
思われるのも嫌で、ホラ此処にと
水を向けた相手は何故か忽然と
いなくなっていた。
「…………ええ!?」
さっきまでグダグダ言ってたのに
何時の間にか影も形もない。
「お前、熱でもあんじゃねーの?顔赤いし。
じゃなきゃ、頭でも打ったか?
一人でブツブツ言ってるように見えたぜ」
「いや、ち、ちょっと!?
可哀想な的な目を向けるの止めろよ。
いたんだよ、ホントに」
ったく、監督も行くなら行くって
声かけてくれれば良いものを。
変な事をいうだけ言って姿をくらますとか
酷すぎる。
「へぇへぇ。
じゃあ……そいうことでいいや」
「じゃあ、って何!?
その納得の仕方、納得できないっ!」
「岩倉~」
最近、俺が他のヤツと話しているのを
見かけるとやたら呼ばれるようになった。
女の子と話している時は
特に邪魔してこないけど要は男。
ったく皆が皆自分と同じ趣向だと
思わないで下さいよ、迷惑極まりない。
しかもそれが先輩であろうと、
はたまた教師であると例外なくとか。
「監督、一々どうでも良いことで
呼びつけないで下さい。
こっちも大事な話をしてるんですから」
小言を言っても、俺との話の方が
最優先だとかぬかす。
も~~~~面倒くさい。
―――この男、絶対束縛系だ。
って、そう思ってた。




