補導現場目撃!?
なんだよ、なんなんだよ!
俺のことがタイプとか言ったくせに。
あの人より俺の方が……可愛いとか
言ってませんでしたっけ?確か。
別にホントそこはどうでもいいけど!
(あの人らの事よりデーター取んなきゃ)
何で俺があの人のテキトーに言った事に
振り回されなきゃいけないんだよ。
あの人の勝手さは今に始まったことじゃなし、
放っておこう。
(そうだ、俺には関係ない、全然。
それより自分の仕事を……)
「いやいや、馬鹿にしてないって、
可愛いと思ってさぁ」
再度楽しそうに笑う紺里監督の声が
聞こえてきた瞬間、
俺は思わず立ち上っていて、
「監督!ちょっと確認したいことが
あるんで向こうのベンチに
戻ってきてくれませんか?」
気付くと相手チームのベンチいた
監督の腕を掴んでいた。
「あ、この子はうちのマネージャー宜しくな」
俺もおざなりにしか頭を下げなかったけど
向こうの先輩は頭を下げるどころか、
口角を少し上げただけで一言も発することなく
目深に被った帽子で表情すらも見せないまま
前方に向き直った。
は?この人何様??ムカつく。
この人にも、監督にも
本当に超ムカつく!
「ホラ、行きますよ」
襟首を掴んでうちのベンチへと
引きずり戻した。
「何やってるんですか?監督。
交流試合とはいえこれは歴とした試合なんです。
監督同士の親睦だけを深めたって
意味ないでしょう。
監督なら監督らしく選手たちに
指示とか作戦立てたらどうですか」
「でもさぁ――」
「でもじゃない!!やりなさい!」
堪らず怒鳴ると監督は背筋を伸ばして、
「ハイ!しますします!
あ、でも試合終わったみたいだぞ」
「…………」
週末、学校帰りに本屋に寄っての帰り道、
俺は意外な現場に出くわしてしまった。
駐車場脇でタバコを吸っている高校生を発見。
何故高校生と分かるのかというと
見慣れた制服の見知った顔だったからだ。
それは紛れもないヤンキー高の三年、
名前は確か六伽とか言ってたっけ。
(オイオイ……こんな所で制服を着て
堂々と喫煙ですか?)
その上、車に乗り込み
車を発進させようとしている。
(ちょちょっと!?制服で車の運転とか
大胆すぎやしませんか?)
と、突然脇から巡回していた警官が
車の前に飛び出て声をかけた。
あーあ、言わんこっちゃない、
職質されているっぽいな。
ちょっとだけ離れているから
会話の内容までは分からないにしても
無免許運転と喫煙で補導されれば、
停学か運が悪ければ退学とかに
なるんじゃないのか?
他人事とはいえ嫌な現場に遭遇したもんだ。
気になって事の成り行きを見ていると
警官と暫く話し込んだりしてた後、
何故か六伽はそのまま解放された。
え???放免???何でだ?
信じられなくて凝視している俺と
再び車に乗り込もうとしていた六伽の目が
バッチリ合ってしまった。
「んだ?テメェ、俺に用か?」
巻き舌で凄まれて、
これが全く知らない人だったら流石に怖い。
「こ、こんにちは、えーっと……
俺、ラギ高のサッカー部のマネージャーです」
「あ?そういやどっかで見たことある顔だと
思ったら、あのセンセんとこの男子マネか」
変わった先生――他校の生徒からそう言われても、
尤も過ぎて反論できやしない。
「いま学校帰りか?
お前んとこは随分遅くまで部活やってんだな。
センセにこの前はお世話になったと
言っておいてくれ」
車内でタバコを燻らせながら話す態度は
余裕綽々でなかなか堂に入ったものだ。
見逃して貰えるなんて警察にコネでも
あるのか?この人。
「この間?あ、試合のことですか?」
「そっちじゃねーよ。
あの日うちのガキが熱を出して
練習試合に行けないかもしんねぇっつたら
知り合いの病院てのを紹介してくれてな、
大事にならなくって済んだし助かったぜって事。
ま、道が混んでて結局遅刻はしたけどなぁ」
ん……?
「ガキ?」
チームの後輩って意味?
「あ?俺の子供」
「へ???子供???」
「アレ?センセ、言ってないのか?
デキ婚でガキいるって。
ヨメは働いてるから基本ガキの送り迎えは、俺。
だから遅くまで部活できねーんだよ、
因みに今日はお泊り保育で送ってきた訳」
そういえばすぐそこに保育園が見える。
「あ、の~高三ですよ、ね?」
「ああ、ただし二回ほど
ダブってるから、もうハタチな」
二十歳????
どうみても高校生にしか見えない。
童顔すぎるでしょう……あ!
腹立つ!あの変人監督!
そうならそうと―――
「最初から言えば良いじゃないですか」
「だって初めてあんな顔して怒鳴るから
嬉しくてもう少し見てたかったんだよ」
「は?怒鳴られたのが嬉しい?」
「その過程がってとこ。
俺の事、気になるか?」
「……はぁ!?」
……何言ってんの?この人。
ペース乱されてることは認めるけど
意味が良く分からない。
「勘違いもいいとこです。
俺は監督なんかに興味は微塵もありませんよ」
これは真面目にやっていない
この人に腹が立ってであって
別にそれ以外の感情とかあるわけないから
いい加減にして欲しい。
そんな心の中の真っ向否定をよそに
監督はニヤニヤと笑うばかりで
俺の言葉をちゃんと聞いているのか
甚だ怪しすぎる表情でもう一度、
「俺はお前が好きだよ」
と笑った。




