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秘密厳守



「へぇ……良いけど」



こっちの思いを知ってか知らずが

先生は一呼吸おいてまじまじと俺を見た。



「ふ~ん……

秘密厳守するタイプなんだ」



「いえいえ、そんな――」



そうじゃなくて

単に余計な情報だからです。




心で激しくイラッとしながらも

相手は先生、加えてサッカー部顧問

と何度も自分を抑える呪文を繰り返し

宥めるのに必死だという事を目の前の

男に知られぬように表面上ニコニコと

対応する。



「……じゃ、ついでに

もう一つ言っておこうかな」



「は、はい?」



もう面倒臭いなこの先生。


言いたいこといったらさっさと

どこか行って欲しい。






「俺、ゲイなんだ。

昔っから男にしか興味なくてね」









「…………は?」





グランドに座ってお互い顔だけを

向けてる状態で先生は俺の反応を

みているようだったが、

俺の方は固まったまま意識が

別の次元に飛んでいたかもしれない。



それ程、突拍子もない発言に

俺は困惑していた。



神聖な高校のグランドで

こんな会話をしてるだなんて

誰が想像しよう。



離れた場所で野球部のカキーンと

金属バットの音が俺達の沈黙の間を

通り抜けて行った。



聞き違いだろうか?



いや、ハッキリ聞こえた。



“俺はゲイだ”って





――何で俺にわざわざ言ったんですか?





俺、生徒。


貴方は先生兼部活の顧問。




普通そんな大それた秘密

こうもアッサリ話しますか?



初対面、ですよ?先生と俺。



そっか!ひ、ひよっとして……



「あ、これマジ話な」



(……うっ)


打ち解けるための苦肉の策で

捨て身のジョークなんでしょう?

いや参りました、と言おうとした

俺の行動を読み念押ししてくるとは

思わなかった。





だったら!


事実だったとしたら、

絶対、一生徒なんかに

言うべきじゃないでしょう!?






「何でそんな告白したんです?」



「まだ……そっか」



……は?



紺里はそう言いながらグランドへと

視線を向けた。



つられてその視線の先を追う―――




「あぁ?今の取れるでしょ、あんくらい。

何で簡単に点数入れられてるんスか」



「先輩に向かって

その口のききかたは何だ!?」



「あースミマセン~

先輩だったら当然

取れるかと思ってましたんで」



「一年のクセに生意気なんだよ!日野!」



そこには三年の先輩と

今年一緒に入学した同級の日野冬至が

ゴール近くで言い争っていた。


日野――とは幼馴染で

冬至としちかという名前から

トシと俺は呼んでいる。


トシは昔から口も気性が荒く、

喧嘩ぱやいからヤンキーだとか

不良とかのレッテルを貼られ、

こと教師受けは頗る悪かった。


噂ばかりが先行してて皆警戒するけど、

本当は曲がった事が嫌いで

親分肌で面倒見だって良いから

知ってる人はちゃんと知ってる。


ただ、不器用だから誤解を招きやすいだけ。



「あ、やるんスか?

イイっスね~此処で?校舎裏?

何処でも先輩が選んで良いスよ」



「てんめ!!!」



三年の先輩がトシに掴みかかった瞬間

俺はたまらず立ち上がって叫んでいた。



「トシ!!今のはお前が悪い、

先輩に謝りなよ」



ただでさえ先輩達から態度が

悪いって目を付けられてるのに

これじゃますます立場が……



「チッ、余計な真似を」



トシは俺を睨んで舌打ちした。




分かってるよ。


その先輩が何時も後輩をイジメたり

暴言を吐いて嫌がらせしてるから

ケンカを吹っかけて相手から手を

出させようとして事くらい。


何年お前の幼馴染やってきたと

思ってるんだ。



「そうそう、お友達の岩倉ちゃんの

アドバイスに従って頭下げたらどうだ?」


「あ~残念!生憎うちの家訓で

人に頭を下げるくらいなら死ねって

キツく言われてるんで無理ッス」



「コイツ!!!」



でも、そんな先輩の為に

お前が巻き込まれるの嫌なんだ。



「トシっ!」



「日野!!学校外周100周、行け!!

いいか校庭じゃねーぞ、外周だ!」



二人のやり取りに見かねた

譜都キャプテンが指示を出した事で

漸くトシは形だけ引き下がった。



「へぇへぇ」




「日野!!!」




「うぃーす、いってきマース」










「……噂以上のかなりのジャジャ馬だな」



「――っ!」



横にいるこの人の存在を

すっかり忘れていた。



「……イイ奴なんです。

アレはその……たまたまで」



「乗りこなすのは楽しそうだけど。


でもさ……

君の手には余るんじゃない?」




上目遣いに見上げるその目に、


うっすら浮かべる口元のその笑いに、


自分の周りの空気が凍りつくのを感じた。




「―――な、に、言ってるんですか?」







「君が考えてる通りで良いと思うけど。

同類だろ、俺達。


――――違った?」





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