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因果な人達

「……追放?」



「ああ」



追放という言葉の持つ重さと意味が

普通でないことくらいは分かる。



自分の意思で辞めたというなら兎も角、

ただごとじゃないって程度には……



「“紺里夏以”といえば良くも悪くも

囲碁界では超有名人だからな。

知らない奴はまずいない」



「有名……何があったんですか?」



「……お前、さっき何て言った?」



「さっき?」



「俺が院生で奴は?」



「全国覇者って」



それが?とキョトンとしてる俺に

先輩はバーカそれが問題なんだよと睨まれた。



「いいか、全国大会といえば学生、即ちアマ。

かたやアイツは何だ?」



「あ……」



ここにきてやっと頭が回りだした。



「やっと分かったか?

プロがアマチュアの大会に出るとか

絶対やっちゃいけない前代未聞の禁忌だ」



「も、もしかして

知らなくてうっかりしてたとか」



あの監督ならありうる。



「そんな奴なんかいるか!常識だ、常識!!

そもそも愚行を冒してまで素人の大会に

出るなんざ正気の沙汰じゃねぇ!」



が、俺のフォローは先輩に大鉈によって

虚しく一刀両断された。



「……じゃ、追放されるって

分かってた上でって事ですか?どうして?」



「俺が知るかよ。

アイツ、査問会議で理由を問い詰められても

最後まで口を割らなかったって話だ。

ま、言い訳したとこでどうにもならねぇがな」



御法度を破った以上、

如何なる理由をもってしても

二度とプロには戻れない。


誰よりも本人が一番分かっていた筈だ、

大バカだぜアイツと先輩は呟いた。




「囲碁界追放後、紺里棋聖からも

勘当されたって噂があったしな」



「え?」



父親に勘当?



「期待の新星って注目の的でアイツの

憧れて目標にしていた大勢の後輩が

どれだけいたと思う?


事が事だし噂でけ聞いたから

あの紺里と知って接触してみれば

あんなんだしな、正直ガッカリしたぜ!」



「で、ですね……」



イライラした白刀田先輩の剣幕に圧倒されて

声がしどろもどろになってしまう。





「目指す者がしのぎを削ってそれでも

手が届かなくて涙を飲むってのに

それを知らないとは言わせない。


そんなプロの座を易々と自ら放り出すとか、

マジ絶対許せねぇ」



「白……」



「それでも俺がアイツ打っているのは

精々利用しようと思ってるからだ。

何しろプロ様直々の指南がタダで

受けれるんだからな」



皮肉のようでいて心なしか自嘲気味にも

取れる言葉の裏には過去の自分の葛藤を

思い出しての感情が上乗せされている気がした。



それはきっと――



いま俺なんかが想像するより遥かに

辛く苦しい体験と記憶からくるものなのだろう。



(………………)



紺里という人間は否定しても

その碁には惹かれ共に打つ誘惑には勝てない。


碁打ちっていう人達は

皆そうなのだろうか。



だとしたら因果な世界だな……






「監督、前に先輩と打った時、

辛勝でやっと勝てたって言ってました」



それは苛立つ先輩を宥めるつもりの

何気ない言葉だった。



だけど、途端みるみる表情が変わっていく

先輩を見て俺は決して口にしてはいけない

一言だったのだと気が付いた。



「――辛勝だと?


中押しで負けそうになってたのを

アイツはわざと悪手を打って

俺の石を生かしやがった。

格の違いを嫌というほど見せつけられた

あの一局をアイツはそう言ったのか!?」



「……や、あの」



「随分舐められたもんだぜ、クソッ!!

岩倉、それ以上聞きたきゃ本人に直接聞け!

二度と俺にその話は振るな、分かったか!?」



白刀田先輩は近くにあった

自販機を蹴り、ガゴンッと鈍い音と共に

くっきり跡が残った無残な姿に俺は心の中で

ひぃぃぃぃと悲鳴をあげた。



「ハ、ハイっ」



次聞いたら殺すぞと言わんばかりに

睨まれ先輩は足早に行ってしまった。



冗談抜きに以前の先輩なら

迷わず言葉に出して

半分実行に移していたかもしれない。



そう思うだけでゾクっと身震いした。




……洒落にならない。



この世の中には

迂闊に声をかけてはいけない人も

いるのだと知る良い機会になった。




(こ、怖かった……)




あの手の類の性格系には某幼馴染のお陰で

慣れていると思っていたのに、やっぱ全然違う。



監督と先輩、

一体どんな雰囲気で打っているのやら。





「…………ダメだ、全く想像付かない」



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