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聞いてない

放課後、新しく貰った部活の備品を持って

グランドに向かっていると旧校舎から

見知った人物が出てくるのを見かけた。



(あれは……白刀田先輩?)



普段ここは生徒は立ち入り禁止はずだけど、

と思ったところで、あ、だからかと

あることを思い出した。



「先輩」



こんなトコで誰かに会うとは

思ってなかったようで、ビックリした顔を

されてしまった。



「……何だ、お前かよ」



「スミマセン!」



舌打ちをされてヤバイと慌てて謝ったが

その表情は依然渋く、つい気軽に声を

掛けてしまった事を猛省した所で時既に遅し。



委縮してしまった俺は次の言葉が続かず、

そのまま暫くの無言状態が続く。



(……どうしよう)



一応、声を掛けてしまった以上

自分から何か喋らなきゃとの使命感と、

少しだけ湧き上がっているこの好奇心から

俺はようやく意を決してそれを口にすることが出来た。



「先輩、監督と囲碁打ってたんですか?」



ああ?との低い声に一瞬たじろいだが、

振り向いた表情からは声色に反して険は無く、

ただ酷く驚いたという感じだった。




「……監督が言ったのか?」




「あ、その……なんか成り行きで」



「ふーん、アイツがねぇ。

何でお前なんかに」



口説かれている流れでと言ったら

先輩はどんな顔をするだろう。



……想像するだけで怖い。



そんな俺の不安をよそに先輩は

バレてるんなら仕方ねぇと、

週一くらいで打ってると話しだした後で

他の奴には他言すんな分かってんだろうな?

と、脅さ……念押しされたけど。



「先輩、元……院生だって聞きました。

それって凄く強いんでしょう?

いくら監督が全国大会出たからって

先輩の相手務まってるんですか?」



先輩は、はぁ?と俺の顔を見返した。



「務まるも何もこっち方こそ有難いぜ?

予想外の手を打ってくるから面白いし」



へぇ、盛って話してるのかと

思っていたらそれなりの実力あるのか――



「流石はプロだ」



「え??」





「いや、正確に言うと元プロな」




プロ……プロ!?



あの監督が?


そんなこと一言も触れなかったし、

それどころかプロになるのは難しくて

自分もなれなかった的な言い方だった様に

受け取れたけど?



「なんだお前、肝心な事は

何も聞いてないのかよ」



「…………」



「うちの親父も……ま、そっちの人間で

俺の聞いた話だけどな。

あの人さ、小学生の時に最年少記録で

プロになったと当時ものすごい騒ぎ

だったらしいぜ。


しかも院生にもならず外来、一発合格とか、

どんだけ天才だよって話、なのに……」



でも、次第に先輩の表情が苦々しく変化していく

様子からは決して監督の事を良いように

思っていないのだと分かるのに充分だった。



「そんな才能を持って鳴り物入りして

入って来りゃ誰もがその将来性を

期待すんだろうが」



「あっ」


そっか、いま

教師をしてるってことは……



「辞めたってことですよね?

理由は?理由は何ですか?」



驚く俺の顔をみて白刀田先輩は

それじゃこれも知らないだろうと

教えてくれた一言に俺は愕然としてしまった。





「辞めたんじゃねぇ、追放されたんだよ」



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