ヤンキー高の監督
「つまり……ボス?」
「だろうな」
「へぇぇ……」
頭の中には、いかつい強面の人物が浮かぶ。
「不満やストレスを発散させる為に
こうやって時々部員を野に放って
発散させてるって言ってた」
んん?
「ストレス発散の為のエサに俺達が
使われていたってことですか?」
「まぁそうかな。
放牧されてるのは草食動物じゃないが」
「迷惑ですよ、そもそも生徒が独断で
やるっていうのが問題で――」
「まぁまぁ、そう言ってやるな。
あの子が言うには誰もこの部の
監督になりたがらないんだって」
「…………!」
それは身につまされる言葉だった。
「元々はサッカー好きが集まっている
らしんだが、如何せん指導する者がいないから
本当のサッカーを知らないみたいだ」
「そうなんですか」
彼らに悪気はないってことか、
見た目で判断していた自分がちょっと
恥ずかしい。
「同じサッカーを好きな者同士、
理解し合えるかもしれませんね」
そう口にして顔を上げると
何故か先生の満面の笑みとぶつかった。
「なん、ですか?」
「―――お前さ、やっぱり良いな」
キスしたくなったとか冗談でも
こんなとこで肩に腕をまわさないで下さいよ。
「ちょ、ちょっ!!!それ以上やったら
今度はグーで殴りますから」
「へぇへぇ。
んでな、向こうに提案したんだ。
俺とデートするか、それとも
月イチで俺達の高校と練習試合をするか
どっちが良い?って」
「……は?」
その選択、おかしな単語含まれてません?
というか実質一択ですよね。
「で、デートはお断りだって。
参った参った~あはははは」
ええ、でしょうね。
だから、笑うポイントは何処ですかね!?
「喧嘩は他所で存分にやれって言ったんだ。
タイマンとかメンツとか俺たちより
遥かに大事で好きだろ?
スポーツはガチでやるから面白いんだよ、
サッカー、案外楽しいぞってな」
先生はグランドを見て笑いながらそう言った。
「そしたら月イチで合同練習したいって。
一応、譜都に許可取るけど、大丈夫だろ。
ただし、ラフプレーを一切しないという
条件を守れたらだけどと釘は刺しておいたし」
ああ、それで。
……その条件飲んだんだ向こう。
「あしったぁぁぁ!!!」
「お、終わったみたいだ」
そんな無駄話しているうちに何時の間にか
無事後半戦が滞りなく終わっていた。
ヤバイ、全然記録取ってない。
立ち上がった向こうの監督っぽい生徒は
こちらにペコリと頭を下げたものの、
そのまま自分の選手達の所に行ってしまった。
「こっちに挨拶に来る気はないようですね」
「んー?ああ。良いって良いって」
立ち姿を改めて見ると
結構な長身でスラリとスタイルも良い。
ボスか……
この人の一声であのヤンキー達が
大人しくなったんだよね。
スゲー怖い人なんだろうな、とか思ってると、
「しっかし、ヤンキーってのはイケメンが
多いと聞くが可愛かったな~長身の童顔で。
ありゃボスというよりアイドルだ。
一体どんなやり方であの荒くれ共を
仕切ってるのやら実に興味あるなぁ。
ちぇっ、もっとプッシュすべきだったか?俺」
何を想像してるのか知らないが
ニヤニヤしてる顔がイヤラシい。
「死ね」
「妬くな妬くな」
「なんで俺が妬くんですか、
意味が分からない」
「お前の方が比べ物にならないくらい
可愛いから」
「……っ」
「あ!それとキス何処でする?」
「するわけないでしょう。
あんなの本気にしないで下さいよ」
「お前、教師に嘘をついて
良いと思ってるのか?」
「良いんじゃないですか~」
「え~~~内申にひびくぞ」
「担当全然違うでしょう。
第一俺のその要因はどうするつもりですか?
セクハラに応じなかったとでも」
「そこは何とでもなる」
「最低です、先生」
威張っていうことか。
そんなヤバイ人だとは知らない
部員達は先生が向こうの監督を
注意しに行ったから後半戦は生徒が
態度を入れ替えたと誤解し、
結果、満場(マイナス1)一致によって
とうとう晴れて先生は監督へと昇進を
果たしてしまった。




