It's 殺戮ショウタイム
さて、試合が始まった途端ボールでは無く
足をめがけてのスライディングタックルを
皮切りに、まるで格闘技か言わんばかりの
ボデイーブローや襟首掴んでの倒しの数々
が披露されている。
…………想像以上だ。
いやはや、このショーを
何と称すべきなんだろう……か?
あ、ダレジャレじゃないんだけど
そうとしかもう言い様がなくて。
清々しいまでの違反、ラフプレーの
オンパレードで、見ようによっては
ちょっとした乱闘騒ぎに取れなくもない位に
荒れに荒れているんだけど。
えーっと、サッカーの試合に
来たんだよね?確か??
成程、白刀田先輩スタメンに
入っていないのも日野に至っては
わざわざ試合時間をずらして
教えられている為にまだ到着すらしていない
理由もすぐに理解した。
向こうの監督らしき人は慣れているのか
見ていないのか或いはグラサンの下は
目を瞑って寝ていらっしゃるのか
ディレクターチェアに深々と鎮座したまま
ウンともスンとも反応がない。
そんなグランドの異様さに唖然と
見ていた俺の耳に、
「オイ、そこの兄ちゃんよー
お前、それでもヤンキーの端くれかぁ?
やること小せぇなぁ」
んん?何?いまの台詞。
誰が言った?
そもそもヤンキーと一般的に
呼ばれる方々は意外と耳が良い。
特に自分らに関する悪口ともなると格別にだ。
そして此処にいるメンバー
ほぼ全員ヤンキーだから皆が俺のことか?と
反応しきりでザワザワし始めている。
その上、試合は続行中なものだから、
不快指数が上がってヒートアップしてきた
向こうの選手達は益々反則や無駄なタックル、
足掛けをしたりと、それはそれは
見るに耐えない様相を呈してきていて……
「ねぇ~反則しないとボール取れないの?
タイマンとか張れねぇ奴らの集まりかよ、
普段も堂々と勝負したら負けるから
後ろから殴りにいっちゃうってか、怖い~」
「あぁ?んだと?」
「ほざいてんのは、どこのどいつだ?」
―――え??ひょっとして、
これ言ってんの、
もしかしたらお隣の方???
ギョッとして横を向くと紺里の口が動いてる。
間違いない、この声の発信元はコレだ!
「なんなら俺が&♂*%##してやろうか?」
オイオイオイオイオイイ!!!
嘘でしょう……
ねぇ、嘘でしょう???
モノ凄い暴言を吐いてますけど!!
向こうのラフプレーに負けるとも
劣らないとういか、かなりエゲツない事を
口にしていますよね?
一体誰がこの人の暴走止めるんだよ。
ヤンキー君達は、よもや相手高の監督が
そんな聞くに堪えない言葉を連呼してるとは
思っていないらしく誰が言ってんだ?って
感じでキョロキョロしているけど……
普通の人より鋭い野生の勘を
お持ちの方々が、その音源に気が付くのに
そう時間は掛からないだろう。
そ、そうだ!!
マスク、マスク何処だっけ??
確かかスポーツバッグの中に
入れっぱなしであった気がする。
早くこの人の口に装着しなければ
手遅れになってしまう。
この人よりもうちの学校とメンバーの
名誉のために、封じなければ!
これならいつもの様に
ボーッと寝ていてくれた方が数万倍マシだ。
サッカーのことなんか興味もないくせに
負けん気と余計な正義感だけは強いんだから。
無理やりつけさせたマスクで
暴言が見た目にはおさまってるように
思えるかもしれないが、違うよ。
マスクの端から漏れ出てくる
お経のような不快音。
ヤバイ、まだ何か仰りたいことが
山程あるようだ。
何とかならないのか……この人は。
「ちょっとちょっと先生、先生……」
ダ、ダメだ。
禁呪を詠唱でもしているかの如く
集中していて俺の言葉が
まるで耳に届いていらっしゃらない。
し、仕方ない、最後の手段だ。
「…………あーあ、いま静かに
試合観戦して、更にチームが勝てくれれば
……キスくらいしてあげてもイイのになぁ」
「本当だな?」
フクロウがぐるりと首を捻って見るように
こっちを見た紺里に思わずギャーと悲鳴を
上げそうになった。
―――てか、首どうなんてんの!?
「約束だぞ」
その微笑みからはさっきまでの
禁呪を唱えていた人と同一人物とは
とても思えない程の爽やかさで……
まさか、最初っから聞こえてるとか
言いませんよね?アナタ。
「……良いから、前を向いてクダサイ」




