変人<<【越えられない壁】<<監督
放課後、とある薄暗い空き教室の中に
ひしめく男達。
その表情は一様に複雑且つ固く
眉間に皺を寄せてる者や低い声で
唸っている者すらいるその重々しい
雰囲気の中、ただ一人の男を囲んでいた。
そして、当の男は、困惑気味に
じっとり汗をかき項垂れていて……
あ、いや――
いやいやいや、期待しないで。
違うんで。
そういう展開じゃないから……って
俺、誰に向かって言ってんだろ。
ま、それは置いといて話を戻そう。
「どうなんだ?実際」
囲まれてる男、改め譜都キャプテンは
それがよく分からないんだよと答えた。
「そうは言っても、
お前とそこにいるマネージャーの岩倉
くらいじゃん、まともに接触あるのって」
いきなり自分の名前が出て
ドキリとする。
「そうだな、お前はどう思う?岩倉」
白刀田先輩は今は少々大人しくなった
とはいえ、やっぱりどの先輩よりも
緊張してしまう。
「あ、ハイ!俺もよく分かりませんが……」
「が?なんだ?」
だから怖いんだって白刀田先輩。
「アンタ……先輩さぁ、
意味なく人を睨むなって、
秋、ビビってんじゃん」
日野ぉ~~
この先輩にアンタとか言えるのお前だけだ、
二年の先輩たちだって怖がってんのに。
「あぁ?コレは生まれつきだ。
じゃ、お前が優しく聞いてやれば良いだろが」
「オイ、どーなんだよ、秋一」
何でお前まで対抗して
メンチ切ってくんだよ!
「テメェ、よく人のこと言えたな」
「あ~つい、うっかり」
「うっかりだと?お前の方がよっぽど
ガラ悪いじゃねーか、あ?」
なんなんだこの二人。
ガラの善し悪しとか
もはや別問題でしょうに。
ヤンキーとチンピラ同士の言いがかりの
つけ合いとか何処か他所で
やってくれないだろうか……凄く、邪魔。
仲いいのか悪いのか二人揃うと
最近いつもこの流れだ。
似た者同士で当事者達は
楽しいのかもしれないけど、
―――周り見てほしい、
二人が本気で喧嘩でも始めるんじゃなかって
ビクビクしてるじゃないか。
「つーかさ、先輩もコソコソ、アイツと
何かやってねぇ?部活無い日とか」
「はぁ?何のことだか分かんねーな」
先輩の性格的に一緒に囲碁を打ってる事は
言いたくないだろうと、
俺も自ら地雷を踏む勇気はなくって
触れないでおいたのに、
どうしてそこに飛び込む?
「ふ~~~~~~ん。
あーそ、どうでも良いけど」
おおっ!?
トシが空気を読んだ?
あのトシが……成長したね、
謎の感動が湧いて目から汗が出てきそうだよ。
「話進まないから白刀田、一年に絡むなよ。
で、岩倉続きは?」
「変です、あの人」
「んな事、お前に言われなくても
ここにいる全員分かってんだよ」
白刀田先輩が呆れた様に口を挟む。
「いえ、違うんです。
超~~~~~変なんです」
「だから知ってるつってんだろーが」
と、トシまで参戦。
どうにもこうにも話が進まなくて、
とうとうもういいよ、譜都キャプテンが
助け舟を出してくれた。
「確かに変わってるけどさ、
この間の練習試合、皆も聞いたろ。
観察眼とか凄かったと思わない?
やればできるんだよ、紺里先生って」
やれば出来る子ってのは
本来先生方が生徒に使う言葉であって
その逆はあまり聞いたことが無い。
が、何故か誰もそこは突っ込まない。
「或いは単なる……まぐれか……?」
と別の誰か。
「捨てがたいな、その意見」
「で、どっちだ??」
「「「「「う~~~~~~ん」」」」」
もうお気付きの事だと思うが、
例の紺里先生が使える人か否かの
決断を部の全員で話し合っているという訳。
その結果如何では先生に対する
今後の接し方に多大なる影響を及ぼす事に
なるから皆それなりに真剣だ。
部室を利用せず空き教室に
集まってるのだって先生に悟られない為の
苦肉の策だし。
静まり返った中、口火を切ったのは
やはり譜都先輩で、
「人間て誰しも色々欠点あるだろ。
それは先生も生徒も同じだよ、
熱血ばかりが良いとは限らないし
一見やる気がなさそうに見えて
中々胸に熱いものを秘めてるかもしれない。
俺さ、ちゃんと監督って
呼びたいんだけどダメかな?」
真面目な先輩らしい意見だと
頷きそうになったその時、
それまで黙っていた副主将の小鳥居先輩が、
早計じゃね?と言い出した。
「早計って、他に何か考えあるのか?」
「来月のあたま、練習試合
申し込まれてるじゃん、アレ受けろよ、譜都」
話を振られて先輩は苦い顔をした。
「あそこか……断ろうと思ってたんだが」
「何処とですか?」
練習試合の件は初耳だった俺は
マネージャーとして素朴に尋ねてみた所、
「是月高」
その名を聞いた途端、先輩達は一様に
うへぇ~とか、マジかよとの反応を示した。
……何かあるのだろうか?
先輩達曰く是月高は元々がヤンキー高で
サッカー部はまだマシな方だといっても
如何せんラフプレーが酷く、その内容たるや
姑息で狡猾との事。
近隣でもそれは有名らしく
選手の怪我や大会前のトラブルを
避けたい学校側としては何処も
そことの練習試合を受けないんだそうだ。
「どうせ色々仕掛けてくるだろうから
そこで紺里がどう対応するかで
決めれば良いじゃん」
「そうだな……」
そして、それは
予想を遥かに超えるモノになる訳だが……




